ご飯とお洋服入手しました
「坊や、さあ召し上がれ」
さきほどまで覗いていた家の中。小さなダイニングテーブルの前に座るとテーブルの上には温かいミルクとクッキー。 坊やじゃないんだけどなあ、と思いつつ余計なことは言わずミルクとクッキーをいただきましゅ。
遡ること15分前。
窓から覗いていた所をこの家の住民のおばあちゃんに見つかって、今、おうちの中に連行されてしまった。
とほり。
川で楽しく遊んだのがいけなかったみたいで、気が付いたら結構濡れていた。ずぶ濡れの幼児が家の中を覗いていたので、おばあちゃんはかなり驚いたみたい。
とりあえず、家の中に連れて行かれて、濡れた髪やら服をタオルで拭いてくれたんだけど。
「ダメだね、ずぶ濡れだ。今、お洋服を出してあげるからちょっと待ってなさい」
そういって差し出してくれたのは男の子の洋服。お孫さんのものなんだそうだ。
「今、温かいミルクを持ってくるからそれに着替えてなさい」
おばあちゃんがキッチンに行ってる間にそそくさと着替えて、言われた通りにテーブルの椅子によじ登る。
「あら、ちゃんと着替えられたのね、えらいわ」
そういっておばあちゃんはテーブルにミルクとクッキーを出してくれた。
「あの...これ?」
食べていいの?という顔をすると、おばあちゃんはにっこり笑って頷いてくれた。
「ああ、そうだよ。お前のさね。たんとおあがり」
「ありがとうございましゅ」
一口飲むと、ミルクにお砂糖を入れくれてみたいだ。
幼児が飲むことを考えて、ほんのり甘く、やけどしないようにひと肌に。飲む人のことを考えた優しさにほろりとする。
大きなマグカップに入ったミルクをぐびっと飲み干し、クッキーを口に運ぶ。クッキーはほろほろと口の中でほどけてハチミツとシナモンの香りがちょっとする。
「…おいしいでしゅ」
ぽろりとつぶやくと、おばあちゃんはにこにことほほ笑んでくれた。
それでもクッキーを口にすればするほど飢えが広がる。
マンゴーもどきは、それはそれで美味しかったとはいえ、日々の糧としては不十分だ。
一体、この子は果物だけで何日耐え忍んでいたのだろうか。
「そうかい。もっといっぱいお食べ」
「あい」
二枚目のクッキーとミルクとうまうまと口に運びつつ、おばあちゃんと少しお話をした。
おばあちゃんはエルマという名前だそうだ。
「おちびちゃんのお名前はなんていうの?」
あ、この子の名前か。
異世界に来ちゃった衝撃ですっかり忘れてたけど、この子にも名前があるはずだ。
「うーんとね、うーんと・・・」
一生懸命頭をひねりながらなんとか名前を思い出そうとする。
自分の名前は確か・・・。
「エリスでしゅ。エリスっていうでしゅ」
そうエリスだ! この子が持ってる記憶が少しだけ蘇ってきてほっとした。
最初に洞窟で目を覚ました時に、頭の後ろにタンコブがあった。きっと派手に転んだせいで記憶を無くして、前の(?)自分の記憶がよみがえったのかもしれない。
「そう、どこから来たの?」
エルマおばあちゃんが優し気に聞いてくれたのだけど、まさか自分が異世界から来ました成人女性です☆なんて話ができる訳がなく。
とりあえず、両親とこちらに来てはぐれてしまった的な話をしておいた。しばらくこの辺で親と一緒にすごす、みたいなことも付け加えておいた。
「移民の子さね」
エルマおばあちゃんは何か納得したような顔をしていた。最近、この辺に移住してくる若いカップルは割といるらしく、そんな人たちの子供なんだと思ったらしい。
「川で遊んだから、もう少ししたら帰るでしゅ」
日の暮れまでまだ時間はあるとはいえ、やっぱり早めに家(洞窟)に帰りたい。
「そうかい。そしたら、体が温まるまでここにいなさい」
「うん、ありあとごじゃいます」
クッキーの最後のかけらを口に放りこんで、ミルクを最後の一滴までぐびーっと飲み干して満足のげっぷをしていると、おばあちゃんは何かを思い出したみたいにどこかに行ってすぐに戻って来た。
「ほら、クッキーもまだ少し余ってるんだ。持って行きなさい」
手渡してくれた袋の中にはクッキーやお菓子。
見知らぬ幼児になんて親切なんだろう。
お菓子の入った袋を受け取り部屋を出ようとすると、ドアの近くに古い鍋とかが積み上げられているのが見えた。これはなんだろうと思っていたら、おばあちゃんは捨てるつもりなんだという。
鍋ほしい。絶対にほしい。これから色々と料理することもあるし。
私の視線を見て察したのだろう。
「おもちゃにするのかい? 欲しかったらもっていっていいよ。好きなのもっていきなさい」
「いいの?!」
思わず嬉しそうな声が跳ね上がる。
「ああ、もちろんだよ」
しかし、幼児の体だ。重い鍋をもって洞窟まで帰るのもちょっと憚られる。
一番小さなミルクパンと小さなまな板をもらうことにした。
おばあちゃんは私が選んだ物を見て小さく笑った。
「おままごとでもするのかい? 荷物が増えちゃったね」
うん、これでガチで料理するんだけどね! とは言えず、ただ愛想よく笑っておいた。
笑顔は人間関係の基本よ。
「あとこれもいいでしゅか?」
「ああ、水筒ね。いいよ。もっておいき」
お孫さんが使っていたという水筒ももらった。これでしばらくは飲み水の確保ができる。
「お水も入れておいてあげよう」
「川の水は飲んだらダメでしゅか?」
私のお腹は大丈夫だろうか。だんだん心配になってきた。
明日の朝、盛大に下痢しませんように・・・
「川のお水、飲んじゃったのかい?」
「うん」
おばあちゃんは苦笑しながら、飲めることには飲めるけど、毎日の飲み水としては適さないと言った。
普段の飲料水や料理には井戸水を使うんだそうだ。
「あ、ちょっと待って」
親切なおばあちゃんはそう言うと、引き出しの奥から何やら引きずり出してきた。
小さな子供用リュックだ。熊さんの形をしてる。
「いいの?」
首をコテンとかしげて聞く。あざといとか言うな。
この子の自然な仕草なんだと私にはわかる。
「ああ、もう孫は大きくなって使わないからね」
「ありがとございましゅ」
「また時々遊びにいらっしゃい」
「あい。またお水(井戸水)もらいにきてもいいでしゅか?」
「もちろんだよ。いつでもおいで」
おばあちゃんは小さなリュックにミルクパンとクッキー、お洋服を詰めて、後ろから背負わせてくれた。
リュックの上からミルクパンの柄が出てるけど、そこはちょっと愛嬌ってことで。
「じゃあ、ばいばーい」
おばあちゃんは親の所まで送ってくれると言ったけど遠慮しとく。
そして、元気よく手を振りながら、さっきの橋のたもとまで戻ってくる。
森の入口まで戻ってみると、森の小道は開いたままだった。
洞窟に近くなってくると、期待で胸が少しドキドキする。
もしかしたら、この子の保護者が戻ってきてるかもしれない。
「ただいま」
声をかけてみるも返事はなし。
洞窟に入り辺りを見回してみても、焚火はまだ火が残っているけど、誰かがいた形跡はなかった。
「だれもいにゃい…」
仕方ない。
ちょっと寂しい気もしたが、とりあえずおばあちゃんからもらったものをリュックから取り出す。
クッキー
ソースパン(片手深鍋の小さいやつ)
おばあちゃんのお孫さんのお洋服。
水筒(水入り)
小さなまな板
後ろには積み上げられているマンゴーもどき。
一日で歩いていたからお腹もすいていたので、またマンゴーもどきを夕食代わりに食べる。
このフルーツってとっても腹持ちがよくてそれだけで朝までお腹が空かないのだ。
「はあー、つかれたでしゅ」
おばあちゃんがくれたクッキーを大事にかじりながらぼんやりと焚火を見つめる。
洞窟にあった毛皮をそろそろと引き寄せ、それにくるまって横になる。
朝おきたら誰か戻ってきてるだろうか。
こんな幼児を一人洞窟に放置するって一体どういう親なんだろう。
そんな風に憤りながらも、やはり子供だ。いつの間にか睡魔に勝てずに熟睡してしまっていた。




