異世界にもしかして転生しちゃった?!
「え? ここはどこだろう?」
なんか空が見える。
ふと気が付くと固い地面の上に横たわっていたようだ。その近くには洞窟がありあたりを見回せば、森の木々に囲まれている。どうやら深い森の中にいるみたいだ。
「え?え?なんで?」
ほんの数秒前まで自分は小さなワンルームの部屋の中でテレビを見ながら枝豆をつまみにビールをぐびぐびと飲み干していたはずだ。自分はどうして外にいるのだろう、と思った瞬間、後頭部に激痛が走る。
「痛ったあ」
転んでぶつけたのだろうか。頭の後ろに手をやると、そこには大きなたんこぶが。
おかしい。
つい最近、やっとフランスの料理学校の全科を修了して、その学校のアシスタント職につけたばかりの駆け出し料理人。それが私の全てだ。
空を見上げれば綺麗な夕焼け空が広がっている。周りは森なのだが、見たこともない南方らしき植物がうっそうと茂っている。
どうしよう・・・
見たこともない森の中、途方にくれてふと手を見ると、なんだかモミジのようなちっちゃな手。
もしかして、と思いばっと体を見ると手だけでなく足も体もちっちゃい。
「え?え?もしかして子供? 子供になってる?」
全く意味がわからないまま手に顔を当てると顔まで小さい。
これってもしかして、もしかしたら、異世界転生ってやつ?
そして、この幼児の体はもしかして・・・ 急に不安になってがばっと服の中を覗き込む。真っ平な胸とぽっこりお腹。
これじゃ性別がわからん。
慌ててそーっと下のほうに手を伸ばす。丸っこいものがありませんように・・・
確認すること十数秒。あちこち触ってみて間違いがないか確認した。
「よかった・・・なかった」
前世(?)同様女の子である。
異世界チェンジしたうえに性別までチェンジしてたら、なんとなくつらいだろうなと思ったのだったけど。性別チェンジがないと分かってほっとしていると、何やら遠くから遠吠えが聞こえてくるではないか。
わぉーん
犬なのかオオカミなのかわからないけど、どうもここは野獣が出るらしい。こんな小さな体で襲われたら一巻のおしまいだ。しかも悪いことにもうすぐ日が暮れる。
とりあえずあの洞窟の中に隠れよう。
コウモリとか何かいるかわからないけど、このまま外にいるよりましだ。
意を決して洞窟に入ってみると意外と中は広く、平らな地面がある。そして何より、洞窟の入口付近にはなんと焚火があった。
「やったあ。火だ」
その近くには腰掛けられるくらいの石がある。
「よっこいしょっと」
あら、ちょっとこの石、座り心地がいいじゃないの。
そこに腰掛けながらちょっと考えた。もしかして、この子はここで生活していたんじゃないだろうかと。どんな事情があるのかわからないけど、この洞窟の中には確かに生活の跡がある。
焚き火の後ろの壁の下には、なんだかよくわからないフルーツが積み上げられている。おそるおそる一つを手に取ってみる。なんとなくマンゴーっぽい様子のフルーツが果汁たっぷりでとても美味しそう。
じゅるり。
ためらいもなく出てきた唾液を手の甲でふき取り、とりあえず声を出した。
「いただきましゅ」
あらあら、拙くてかわいらしい声がでた。この子は3~4才くらいだろうか。
お行儀が悪いのは百も承知だけど、皮が付いている所を袖口でごしごしとふき取り、ぱくっと大きな口をあけてかぶりつく。こんなに美味しそうなものを目の前にして手を出さないのは怠慢の極みなのだ。
突然の異世界転生で慌てふためくはずであるが、そこに美味しいものがあれば話は別だ。
溢れ出る果汁。口いっぱいに広がるマンゴーのような甘味とオレンジのようなさわやかな香りと酸味。
「んまぁーい」
うん、絶品ですこれ☆
お腹が空いていたのだろうか。小さなスイカサイズのマンゴーもどきをひたすら口に含む。
「ごちそうしゃまでした」
手についた果汁はその辺に落ちてた葉っぱで拭って口回りは袖口でごしごしと拭く。
まあ今は子供らしいからこれでいいのだ。(適応はやっ)
とても食べごたえのある果物(名前知らない)で、お腹はとりあえず膨らんだ。そのまま石に腰掛けなおして、少し考えるゆとりができた。頭の後ろはまだズキズキとは痛むけれど、これからのことをどうするか考えなければならない。
あたりを見回せば焚火に果物のストック、壁面に焚き火用の小さな木の枝が積んである。寝床と思しき動物の毛皮もおいてある。
これをこの幼児が一人でできるとは思えない。
きっとこの子には保護者がいるはずだ、と思った。男だか女だかわからないけど、このまま待っていれば戻ってくる。その人に事情をよく聞いてみよう。ついでに元の世界に帰る方法も一緒に教えてもらいたい。
ただ、今の様子を見るとその人が戻ってくるのは夜遅くなるかもしれない。魔獣に襲われないように、積み上げられている枝を拾い上げた。火を絶やさないように少しずつ木の枝を追加していくのだ。
しかし、この状況・・・幼児が洞窟で一人。もう無茶苦茶訳ありなんじゃね、この子?
あきらめたようにため息をつきながら、火の側でじっと空を眺めていると、一番星がキラキラと空で輝き始めた。
綺麗だなあ。
その景色をずっと見ていたくて、寝床代わりの獣の毛を洞窟の出入り口近くまでずるずると引きずって、毛皮にくるまりながら地面に座る。
空を見上げれば満天の星空。雲一つない空に浮かんでいる沢山の星たち。
星々の形から自分が見知った星座がないか目を皿のように探してみたけど、おなじみの星が全くない。オリオン座も、さそり座も消滅したかのように全くなくて、それどころか、緑色の星とか赤い色、青い色の星とか全然見たことがないものばかり。
・・・やっぱり異世界なんだここ。
「あ、ながれぼしだ」
こっちにも流れ星はあるんだねえ。それにしても、どうしたら元の世界に帰れるんだろ。
時々流れる流れ星を眺めつつ、うつらうつらしながら誰かの帰りを待つ。東に浮かんだ一番星が頭の上を通りこした所で、幼児の体は睡魔に耐えきれなかったのだろう。
「あ、ねちゃってた」
気が付けば朝になっていた。東の空がうっすらと紅色に染まる朝焼けの中、慌てて起きてみたものの、洞窟の中には自分以外に誰もいない。朝になっても結局、洞窟に誰一人として帰ってこなかった。
「だれもこなかったな・・・」
寂しさがなんだか急に募つのる。
こんなことってある?(怒
全然見知らぬ異世界で、たった一人、幼児の私は洞窟に置き去りにされてしまっていたのだ。




