37 遺言と私宛の手紙
立っているのが辛い時、ユウが背中に手を添えてくれる。
でも祖父のことを言わなかったユウのことが嫌いだ。今は関わりたくないし、顔だって見たくない。現れないでほしい。
祖父の葬式の次の日、突然親戚の叔母さん叔父さんお兄さんが訪ねてきた。祖父の家の整理でやってきたらしく、車で祖父の家へ行くことになった。歩くと言ったが無理矢理、おじさん一家の車に乗ることに。同じ空気を吸いたくない。
話しかけられるのも吐き気がするのに、向こうはお構いなしで「明里ちゃん見て」と自分で描いたという可愛くも何ともない女の子の絵を見せてくる。
両親とおじさん達は祖父の家に着く前から財産の問題やら家の問題やらの話している。
父が兄貴と慕うその人は実の兄ではない。上のお姉さんの旦那のことを兄貴と呼んでいるのだ。祖父の家の仏壇は家が引き取ることになっているらしい。家の中も物が多いので少しずつ処分をしなければならない話をしていた。
お金があったら全部この土地を買い取りたいなと思った。まだどうするのかは詳細に決めていないみたいだが、ここがなくなってしまうのは寂しい。
車で送ると言われたが、徒歩で帰れる距離なので遠慮した。帰り道で妹は「あんなことがあったのに、お母さんも知ってるのに、同じ車に乗るなんてどうかしてる」と話す。
私も母はどうかしていると思っている。私はあの男と顔を合わせる度、話をさせられる度、心がどんどん死んでいくような気がするのに。
母は感情が欠落した人間なのだと結論づけて、とうの昔に諦めている。
私は黙って六花の話を聞いていた。
「お姉ちゃん、あの時あたりから性格変わって鬼みたいになったよね」
「そうだったかな。あんまり覚えてないや」
本当に覚えてないことも、はっきり覚えていることもある。最近思い出してしまったことも。
家に着くとすでに叔父さんや両親がついていて、父は呑気に家族写真を撮ろうなんて言いだすから吐き気がしてきた。
お兄さんに携帯の連絡先を聞かれたが、断った。
「連絡先くらいいいだろう」と父はいう。
「連絡取らないし」
「何があった時のために交換しておけ。家族なんだからな」と父は言う。とりあえず父の機嫌を損ねないように連絡先を交換して、後で着信拒否しよう。汚らわしい名前が自分の携帯の連絡先に入力されて反吐が出る。
「最近は通院の方はどうなの?」と父がお兄さんに聞いている。
「順調です。お薬も減って来てて。子供も産まれるから頑張らないと」
「きもっ」と六花が私にだけ聞こえるように言った。
また明日祖父の家に行ってみよう。祖父がいるような気はするけど、見えない。少しでも祖父の温もりを感じるところに行ければ見えるんじゃないかとさえ思う。
祖父は畑やお花畑を作っていたが、時々フラフラと何処かへ出掛けていたり、長期間留守だったりしていた謎の人。
落ち着いたところで、神主さんからもらった手紙をようやく読める事に。
手紙の内容は、
私が普通の人なら感じない事、見えないモノが見えてる事への心配とその後のことだった。
祖父は定年退職後に別の仕事をしていたらしい。それは神主に聞くといいと書いてあった。
神主の方が全て教えてくれると。
封筒の中には手紙だけではなく、何かの紙が挟まっている。模様のようなお札のようなものだ。
明日の午後、学校が終わってからでも行ってみよう。でも明日は亮太と予定がある。でも早めに行って聞きたい。
「早めの方がいいよ、この後も予定がいっぱいでしょう」とユウが言う。
ユウとは暫く口を聞きたくなかった。祖父のことがあり、不信感が増している。悲しくて誰かのせいにしたかっただけかも知れないとわかっていても、やっぱりあの状況で教えてくれないなんて酷いと思う。
亮太には神社に寄ってから会いに行くことを連絡した。
神社には亮太がバイクで送ってくれる事になった。少しでも時間があれば一緒にいたいと言ってくれた。時間がかかるかもしれないと話したが、本でも読みながら待ってると言ってくれた。
厳かな鳥居を抜けて、長い階段を登った。
神主さんはいるのかと巫女さんに聞いてみた。
「ご予約は取られてますか?」
「予約が必要なんですか?」
とりあえず名前を言うと、取り次いでくれた。
奥から神主さんが現れたが、この前会った人とは顔が違った。
「初めまして、神主の、神木です」
「芹沢明里です。あの……この前お葬式で会った方がじゃないですよね」
神主さんはははっと笑い、お使いを頼んだのだと話した。
「びっくりしました。見ちゃいけないものにでも会ったのかと」と言うと、
「よく見えるんですか?」と神主は聞いた。
言葉を濁していると、「お祖父様からお話はよく伺っておりますと」話してくれた。
祖父の仕事は主にお清めの作業だと教えてくれた。その仕事を除霊と呼ぶ人もいるらしい。色んな団体や事故、空き物件の不可解な現象まで請け負っており、情報屋やつてを辿って依頼を受けているのだと言う。
「神主さんにも見えるんですか?」
「私には見えないんですよ」
「そうなんですか」
「こんな仕事をしてるのに意外でしょう」
「でもお祓いとかやってますよね」
神主さんは勉強して得た力だと言った。
「見える方に助けてもらうこともあります」
「そうなんですか」
祖父から預かっているという物を幾つか渡してくれた。
「お祖父様は自分の死期が近いことを知っていらしたと思います」と神主さんは言う。
渡されたものは数珠と勾玉やお札、幾つかの古い本だった。
「使い方はまた別の人に頼みましょう」
「別の人ですか」
「私では扱えないんです」
「はあ」
知らないことばかりで話について行くのがやっとだった。
「祖父は私に仕事をして欲しかったんですか?」
「いえ、あなたの身の安全を守るためです」
力が強くなると色んな物が寄ってくるらしい。
「お祖父様の話によると、あるものから守られていると話しておりました。しかしそれが何なのかお祖父様でもわからなかったと」
「あるもの……」
「あなたを導いてくれる存在です。主に背後霊がそれに当たるそうなのですが、あなたの場合は見解が違うそうです」
ユウの事なのだろうか……。
扱い方は札幌に住んでいる女性を紹介してくれると言う。しかし、祖父が亡くなって日が浅いので、今はゆっくり心を休めるようにと言われた。
親族を無くすと不安定になりやすく、隙間という物ができやすくなるらしい。その隙間に入り込まれると大変なので、この仕事も3ヶ月から半年、長い人では一年お休みすることもあるのだと話してくれた。
神主さんとの話が終わる頃には暗くなってきていた。これから亮太はバイクでドライブに連れていってくれる。
ドライブの後、亮太の家に寄ると電気がついていて、人の気配がした。家にご両親がいるらしい。
亮太の家にある自分のものも少しずつ持ち帰らなければない。
亮太の部屋で話をしていると、亮太が夕食に呼ばれた。バイクで送ってから食べるとお母さんと外で話している。
するとお母さんが扉を開けて、「明里ちゃんも良かったら夕ご飯をどう? 一緒に食べない?」と言う。 戸惑っていると亮太が「いいってほんと」と言った。
「うちでご飯食べた後も、少しゆっくりしていったらいいじゃない」
和かに笑う亮太のお母さん。
交際については寛容なのだと聞いていたが、こんなに優しくされるとは思ってなかった。お言葉に甘えて食べて行く事になった。
お母さんは料理上手で何を食べても美味しかった。
卒儀式も終わった数日後、祖父の物の整理が始まった。
祖父の通帳や印鑑、大事な物がある場所に、親族への手紙が見つかった。
私宛のものある。物置になっている箪笥の中に祖父が使っていた物が入っているという。好きなものを持って行くようにと書いてあり、おじいちゃんの遺していたものを譲り受ける事に。
母や父はその箪笥の中身を気味悪がっていた。
「お前の手紙には何て書いてあるんだ」と父が私宛の手紙を奪いとった。祖父がわざわざ手紙を2つに分けていた理由がわかった気がした。
他の人にはガラクタでも私にとっては形見であり、見える人には重要なものだと思った。
六花も欲しい物があるかと訪ねたが、「お札とか古い本とか怖いからいらない」と言った。
全部は持って帰れないけれど、札幌に出るため、部屋に少しの余裕が出来る。ひとまずダンボール二箱に収まるくらいに選別して持ち帰る事にした。




