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35 音


 そろそろ中間テストがはじまる。大学進学は諦めたけれど、内心の点数もあるのでそれなりに勉強しておかないといけない。目標がないとなかなか内容が頭に入ってこなかった。でも音楽を聴きながら勉強すると、少し捗る。特に暗記ものは音や歌詞とセットで覚えておくと記憶しやすい。きっと自分の勉強法に合っているんだと思う。母の料理を手伝う時も音楽があると楽しい。退屈な帰り道も、その日の気分で音楽を変えながら歩くのが好き。そしてユウと話しながら帰ることが幸せ。


 だんだんと勉強に集中出来なくなってきたので、リビング学習をしていた。ヘッドホンで音楽を聴くのも疲れて、肩を揉みながらぼーっとしていた。


 周りの進学組はどんどん忙しくなり、遊ぶ時間もぐっと減った。私も大学進学で予備校に通えたら、みんなと受験の相談ができたかな。とふと考えてしまう。 亮太は相変わらず勉強を教えてくれるが、迷惑をかけている節がある。亮太は教えることも勉強になるんだよと話してくれるが……。亮太とのメールを遡ってぼんやりしてしまう。深いため息が静まり返った部屋に響く。


 突然ブツっと音がした。


 音の出所はテレビからだ。消えていたはずのテレビが勝手についている。

「ビックリさせないでよ、もう」

 家のテレビは時々こんな風に誤作動を起こしたがる。特に1人でいる時にこれが起こると飛び上がるくらい驚いてしまう。

 リモコンを探しにテレビの近くを探し回った。

「もうどこ行ったの」

 ひとりでにつくテレビが怖くて、独り言をぶつぶつ呟いてしまった。喋っていると怖さが半減するように感じるからだ。今日はユウが留守のようで話しかけても返事がないし、姿見えない。

「探すのが面倒だから、同じ場所に戻してって言ってるのに、もう」イライラするなと思いながら、リモコン探しに熱中している時だった。


 遠くからビィィィィィーーーンという音が頭の中に響いた。

 ビィィーーーンと鉄柱と鉄の紐が擦れる様な音、鈴の音のような、金属の板を叩くような、旗が風に揺れてーーーーーーーあの懐かしい音ーーーーー。


 頭の中から音がする。前にも聞いたことがあるような音が頭の中を駆け巡っていく。

 でも頭の中からじゃない……後から?

 後ろを振り返る。テレビから音楽が流れている。

 あの音と同じ音を出す人が画面に映っている。その音に乗せてボーカルらしき男性が声を乗せる。


 この声ーーーーーーーーー


 知ってる。

 聞いたことがある。

 誰の声だっただろう。

 絶対に何処かで聞いた声。

 懐かしい声が画面からどんどん流れてくる。


 食い入るようにテレビを見た。

 画面の中で歌う男性は力強く、時に激しくギターをかき鳴らしている。

 片手でスタンドマイクを引き寄せる。片足でリズムを取りながら歌う。


「何この人」


 どんどん、どんどん流れ込んでくる音楽。頭の中に、私のありとあらゆる細胞の中に溶け込んでいく音。胸をギュッと掴まれたようにドキドキが止まらない。

 胸のずっと奥の方から何かが共鳴を始めたように震え始める。ムズムズするような、息が苦しくなるような、

 胸の奥深くをそっと撫でられるようなーーーーー


 魂に触れられるような。


 魂が震えるような?…………いや、そんなまさか。何なんだこれは。


「誰なんだこの人は」


 ミュージックビデオと思わしきその映像は、あえてボーカルやメンバーの姿をハッキリとは映し出さない手法にしているらしく、ボーカルの顔がハッキリわからない。



 あっという間に曲は終わり、別のバンドになっていた。この音は知らない。この声も知らない。じゃあさっきの人は?


 何故さっきのバンドは知ってるって思ったのだろう。もしかしてどこかで会ったか、歌声を聴いたことがあるとか?

 記憶を辿ってみたが、そんな経験は見当たらない。


 でも間違いなく、あの声を知っている。絶対何処かで聞いたことがあると確信がある。なぜかと聞かれるとどう答えていいか分からないが、私の全細胞が知っているって叫んでいる。

 

 涙が頬を伝っていた。

 気がつくとポロポロ涙が溢れていた。

「あれ? 何で泣いてるんだろう」

 涙が止まらない。

 でも何故涙が出ているのか自分でも分からなかった。原因不明の現象に戸惑うばかりだ。


「ユウ? ほんとにいないの?」


 ユウは時々姿を現さないこともある。基本的にはいつでも何処でもいてくれるが、ごく稀に呼んでも出てこないこともある。

 どこで何をしているのか分からないが……。質問したい時にいないなんて、間が悪い。


 また次のアーティストの画面に切り替わる。この声でもない。この音でもない。違う。


 やっと見つけたリモコンでテレビを消した。


 暫くの間、あの声とあの音が頭から離れなかった。


 バンド名も名前も顔も、何もわからないまま終わってしまったあの不思議なバンドの音をもう一度聞いてみたい。

 またいつかどこかで巡り合いたい。

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