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34 海


 亮太も杏樹も真由も予備校へ通う事になって、日々忙しく過ごしている。私は状況が二転三転して美術系の専門学校へ行くことに。コツコツ物を作るのは好きだからという理由と、翌年の妹の進学もあったため大学は断念した。

 最近はピアノのレッスンを続けならがら家で本や映画等を見で過ごしていることが多い。

 亮太は数年ぶりにお父さんと話をしたらしい。看護師として忙しく過ごしていながら、毎日晩御飯の用意をして行くお母さんとも会話が増えてきたと話していた。


 受験の息抜きもかねて、夏休みは一泊二日で海へ遊びに行こうということになった。

 亮太のお兄さんが海の家でアルバイト経験があり、そのつてでキャンプ仲間がいるのだという。お兄さんの匠さんとその友達の男性2人、女性1人、私と亮太と杏樹。泊まりの海キャンプなので真由は彼氏に遠慮して行かないそうだ。


 母と六花は事情をしっているが、父には杏樹の家に行くと嘘をついている。もうあの人の言いなりになんてなりたくない。


 海につかるのなんて何年ぶりだろう。透明な海にクラゲが見えた。小川を作って遊んだり、堰き止めたりしている子供達。土の中に埋もれていたい人。水上バイクを乗りこなす人や、ビーチバレーを楽しんでる人。それぞれがその人なりの楽しみ方で満喫している。

 ついてすぐ、海にテントを張ることに。兄弟のテントと男性陣のテントと女性陣のテントで3つ分張った。

 そして次は浮き輪を膨らませる。交互に空気入れを推して、海に入る前からすでに汗だく。


 杏樹と大学生の聡美さんは水着を着ている。私は肌を出すことが苦手なのでTシャツにショートパンツだ。一応中に着てはいるけど、恥ずかしすぎるので脱ぎたくなかった。亮太が見たかったと話すから、後でこっそりということにしてもらった。

 亮太の前でなら女の子でいてもいいのかなと思えるようになっていた。スカートも短くしているし見てもらいたいとも思う。髪を伸ばしていて、今は鎖骨くらいまである。好きな人の前では綺麗でいたい。杏樹にも真由にもだいぶ変わったねと言われた。

 亮太はカメラを持ってきていて、私を被写体に写真を取っている。家でも時々不意をついて撮ってくるので、恥ずかしい。


 海で一通り遊んだら、火を起こして夜はバーベキューだ。周りもみんなバーベキューの支度を始めている。大きな袋にたくさんの肉をかかえて。


 バーベキュー後は炎を見ながらまったり団欒。大学生組はお酒を飲んでいるので、テンションが上がり出来上がってきていところ。隣のテントの人は勢い余って海へダイブしている。匠さんは車を運転することもあるし、私達の面倒も見ないといけないため、今回は飲まないという。匠さんはお酒が入ると記憶を無くすタイプらしい。

 

 匠さんが火を焚べている。

 トイレに行く時は大人数がいいということで、団体で行動している。私と匠さんだけが残って、荷物や火の管理をしているところだ。

「明里ちゃんありがとね、亮太のこと」

「え? 何のことですか?」

「だいぶ変わったからね、アイツ」

「本人が凄く努力してるので」

「明里ちゃんに会ってからだよ。変わったの。あのままだったら家族全員心配だったんだよ」

「私は亮太君に助けてもらってばっかりで」

「そうなの?」

「そうですそうです」

「仲良さそうでなにより」笑い方が亮太にそっくりだった。

 お手洗いから帰ってきたら亮太に、匠さんが何か耳打ちしていた。

「男性陣のテントに移動するから亮太と明里ちゃん2人で使っていいよ」と匠さんが言う。

「後で荷物まとめとくね」

「兄ちゃんが2人でいたいだろって」と亮太が言った。

 匠お兄さんグッジョブ。


 ハイテンションの大学生達が肝試しをしたいと言いだした。聡美さんも肝試しが好きらしく、行く気まんまんだ。近くに有名な廃病院や廃ホテルがあるらしく、絶対に出るスポットなのだと言う。

 勘弁してほしい。余計な事はしに行っちゃいけない。断固反対である。

「私無理」

 亮太に耳打ちした。

「明里無理だって、そうゆうの苦手でさ」

「えー一緒に行こうよ。絶対楽しいって」

 楽しいはずがない。だって見えるんだから。病院ですらうろうろしているのに廃病院だぞ。絶対いるじゃないか。数珠を持ってくれば良かった。

「怖がりでさ」と亮太は言った。

 そうゆうことにしてもらおう。杏樹も肝試しは嫌いじゃない方だ。結局押し切られてしまった。

 車はお兄さんの車とその友達の車2台だが、全員が乗れるワゴンで行くことに。

 森の中の畦道に入った途端から寒気が止まらなかった。

 正直かなりヤバいと思う。

 ユウもやめておくようにと話している。

 面白がってちょっかいをかけるのは本当に良くない。生きてる人間だって無闇にちょっかいをかけられたら腹が立つだろう。同じなのだ。


 ユウがこれ以上近づかないようにと言っている。

 どうしても行けないことを亮太に話す。具合も悪くなってきたので、私達だけ一緒に車で待つことになった。

 これ以上踏み込んじゃいけない。じっとりとした陰湿な雰囲気が肌にまとわりつく。だんだんと頭が痛くなってきたので、常備している薬を飲んだ。

「頭が痛い?」

「ちょっとだけ。でも大丈夫」

 遠くの方で叫び声が聞こえるたび、2人で飛び上がって驚いた。怖くてたまらない。車の周りにも気配を感じてガタガタと震えてきた。あちこち見回す私を見て亮太が「大丈夫だよ、何もいないって」といって抱きしめてくれるが、全然大丈夫じゃない。


 廃墟になった病院からひときわ大きな悲鳴が聞こえたと思ったら、みんなが血相を変えて車に戻ってきた。

「早く出せ早く出せ」と匠お兄さんが叫んでいる。杏樹は半べそになっていて、よほど怖いことがあったのだと伺える。

 急いで畦道を抜け、大きな道路に出た。

「怖かったねー」「さすがにちょっとびびった」「有名なだけあるね」と呑気に話している。

 何となく車全体がまた重々しく感じるのだが、みんなは何ごともなかったかの様に元に戻ったと思っている。

 聡美お姉さんが携帯の動画を撮っていたらしくみんなに見せている。動画はところどころ画質が悪くなったり、途中真っ暗になったりしていた。私も亮太の隣でチラッと見てしまったが……写ってる。

「これマジなやつなんですか?」

 亮太が聡美さんに聞いている。

 ハッキリいってまずいと思う。あの場所なら離れたのにまだ変な空気を感じる。冷や汗も出てきた。ずっと亮太にくっついていたせいか、「ほんと怖がりだよね。そうゆうとこも可愛いけど」とあっけらかんなことを話していて、少しイラッとしてしまった。

 何で皆んなには分からないの。行っちゃダメなんだって。


 途中、買い出しをして帰ろうと言うことになり、コンビニで車を降りた時だった。

 聡美お姉さんが悲鳴をあげた。

 何ごとかと思っていると匠さんの友達も大きな叫び声をあげている。

「車に、何これ」

「手だよね、人の手!」

 車に手垢がべったりついていた。しかも車全体の至る所に。汚れがついたと思っていたフロントガラスも人の手垢だった。杏樹も口を抑えている。

 

 今は気配がないので大丈夫だと思う。車に憑いているというよりは人かもしれない。おそらく匠お兄さんの友達で、この車の持ち主だろう。

「この車を洗って清めて、神社に行きましょう」

と話すと、亮太は驚いた顔をしていた。

「おじいちゃんが見える人なんだよね」と杏樹がはなした。

「こうゆう時は神社と聞かされていたので……」

「大丈夫だって」

「ほんとに?」

「今までだって何もなかったんだから」と大学生は豪語している。今まで大丈夫でも今回は違うかもしれないと思わないのだろうか。


 帰ってきて、また皆んなでお肉を焼いて食べた。杏樹はお兄さんの友達の大学生と仲良くなったみたいだった。

 夜は亮太と2人で散歩に出かけた。少し離れた場所に大きな幹が波に打ちあげられて転がっている。そこに腰掛けて、将来のことを話した。

 東京の大学へ行くと離れてしまうこと。それでも頑張れるかなと。亮太はポケットから何かを取り出した。

「これあげようと思って」と言って小さな箱を見せた。

「安っすいやつなんだけど」

 小さな箱を開けると指輪が入っていた。

「本当は誕生日のプレゼントにするつもりだったけど、早くてもいいかなって」

 胸いっぱいだった。

 小さいランプの明かりをつけて、設置するテントの中で朝まで色んな話をした。

 亮太とは話題が尽きない。ずーっと話していられる。夜は冷え込むので、寝袋の中で寄り添って寝た。

 朝はテント内が熱で蒸されてサウナ状態。2人とも汗だくで起きた。

「砂漠かよ」

「夜は震えるくらい寒かったのにね」

 閉めていたテントのチャックを開けると、涼しい風が額に当たった。


 帰りは銭湯に寄って、汗と海の塩を落としてサッパリ。温泉の後は別行動になるので、ワゴン車の持ち主の男性にはもう一度話すことにした。

「帰り道でも良いので神社に行って下さい。出来れば早めに」

「ああ、うん」

 分かっているのかいないのか、ふんわりした返事が返ってきた。ここまであからさまな手垢なんて見たことがない。危険だし警告だと思う。

 こうゆう場合は誠心誠意込めて謝罪の念を送るしかない。

 ユウもここまで来ると僕は何も出来ないという。本人の責任なので、我々は手出しできないんだとか。


 私と杏樹と亮太は匠さんの車で神威市に帰る。疲れて車の中ではぐっすり寝ってしまった。



 数日後、亮太と家で勉強をしていた時だった。匠お兄さんから電話がかかってきていた。

 ワゴン車の持ち主か事故に遭ったという。単独事故で軽傷で済んだらしいが、悪いことが続いているらしい。そっちはどうだという話しだった。

「こっちは特に何も」

 電話を変わってもらえないかと亮太に聞いた。

「お久しぶりです。明里です。お友達は車をお清めしましたか? 神社に行きましたか?」

「洗車はしてたけど、神社は行ってないんじゃないかな」

「なら今すぐ行くように話して下さい。冗談とか抜きで。おそらく気が済むまで続くと思います。神社に駆け込んでダメならお祓いしてもらって下さい。あ、以上です」

 亮太に携帯を返す。亮太は少々面食らった顔をしていた。

 匠さんと話終わると、「そうゆうの詳しいの?」と聞かれた。

「おじいちゃんの影響で」

 私は視線を教科書に戻してペンを走らせた。亮太は何か怪しんでいる様だった。

「俺たち大丈夫かな」と心配そうに亮太がいう。

「あんまり非科学的なことは信じないんだけど、大事になると怖いよね」

「私達は廃墟に入ってないから大丈夫」

「杏樹ちゃんや、兄ちゃんは?」

「ちゃんと謝ってるなら大丈夫だし、杏樹には手出させないよ……えっと、何かあったら説得するって意味で……神社行かせるし」

「そんなに神社っていいの?」

「あの場所自体が神聖で清められた場所だから、行くだけで効果はあるんだって」

「へぇ……。明里も見えたりするの?」

 心臓がドクンと跳ねた。

「いや」

「見たことない?」

「小さい時は少しだけ」

「俺は一度も見たことないんだよね。だからこないだの動画震え上がった」と興奮気味で話していた。

「やめよう、茶化されて気分がいい人なんていないんだから。生きてても死んでても」

「そうだよね」

「世の中にはね、触れちゃいけないモノがあるんだよ」


 まだ詮索されそうな雰囲気を感じたので、疲れたから寝ると話した。

「ベッド使って」「うん、ありがと」

 しばらくすると亮太もベットに横になった。抱き寄せられて、身体中を優しく撫でてくれる。首筋に柔らかい唇が触れる。唇はあちこちに移動して亮太が触れる場所が熱くなる。

 初めての頃よりずっと触れ合いが平気になってきた。愛おしさも感じている。時々違和感を感じる事はあるものの、こんなものかと受け流している。

 私の薬指には亮太に貰った指輪が光っている。ずっと一緒にいられたらいいのに。そう思いながら亮太の腕の中におさまった。

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