32 猫憑きペット事件
クリスマスパーティーが終わるとすぐに冬休みが始まった。
今年の初詣は亮太と行くことになっている。
混雑する中で、配られているおしるこをや甘酒を飲んで温まった。
亮太は何を祈るんだろう。
冬はバイクには乗れないので、亮太は途中まで送ってくれる。本当は家まで送りたいと言ってくれるが、お互いの家がそう近いわけではないので、遠慮している。
親が家にいない時に、亮太がうちに来る事になった。両親はお兄さんの結婚式に出席している為、家にいるのは私と六花だけ。
亮太は以前から私の部屋に入ってみたいと話していたので、この機会を逃したら、もう部屋に入れるなんて大計画は実行に移せない。
私は家で亮太が来るのを待つことに。もう3月になるというのに今日は雪だ。冬の季節が、まだまだ冬を楽しんでくれと言わんばかりに、付き纏ってくるので、春の気配が全然しない。
天候が酷くなりそうなら、今日はやめておこうかと話してみたが、亮太も「今日しか無理だよね」と言った。
丁度、札幌から帰省していた亮太のお兄さん。2人は用事を済ませた後、お兄さんがうちまで車を出してくれるらしい。
着いたとメールが届くとほぼ同時にインターホンが鳴った。
玄関を開けると、雪を被っている亮太が立っていた。鼻をマフラーに窄めている。
「見て、雪だるま」
真っ赤になった手の上に小さい雪だるまがいた。ちょこんと玄関の先に置くと、ニャーと声がした。
あれ?猫がいるのかなと思って亮太の足元を見回したけど、動物の姿はなかった。
「雪結構降ってきた」「だね」「積もるかな」話しながら雪をほろい、家の中へ入れた。
冷たい手を私のほっぺに当てる。
「ひゃあ、冷たい」
もう片方の手もほっぺに当ててきた。亮太はいたずら好きの子供のような顔をして笑っていた。
2階の自分の部屋に亮太を通した。頑張って部屋は掃除した。亮太の上着を預かってハンガーにかけた。
亮太は嬉しそうな顔をしている。可愛い。部屋全体を見回して、
「女の子って感じの部屋だね」と言った。
「なんかいい匂いがする」「そ、そうかな」
「亮太の部屋も匂いがするよね」
そう話すと亮太は自分の香りに全く気がついていなかったらしく、「臭い?」と聞いた。
「ううん。そのお家特有の匂いっていうか……好きな匂いがするよ」
「はぁ、良かった」亮太は安堵している。
亮太に座っててもらい、私はココアを入れに下に降りた。
初めて好きな人を家に、自分の部屋に入れるわけだ。こんな日が来るとは思ってもおらず、非現実的なことのように思えてくる。
ココアを運ぶと部屋に亮太の姿がある。なんて幸せなんだろう。
そう思っているとニャーとまた猫の声が聞こえた。なんだか焦げ臭い匂いもする。匂いの元はココアからじゃないし、部屋のストーブでもないようだ。周りをキョロキョロしていると「どうした? なんか気になる?」と亮太が言った。
「なんか焦げ臭くない?」
「ううん、何も匂いしないよ」
「気のせいかな」
焦げ臭くて、何の匂いなのか、嗅いだことがないような匂いが鼻につく。
亮太はしきりに肩のあたりを触っていた。
「どうしたの?」
「すっごく肩が凝って重いんだよね。車に乗ってたからかなぁ」と言って、肩を叩く亮太。首の方まで張っているらしい。
「あ! 焦げ臭いで思い出したんだけど……」亮太は突然何かを思い出したのか、話し始めた。
お兄さんと外出していた時に火事を見かけたのだと言う。
「結構ひどい火事でさ、ペットショップが全焼してたんだ」
ニャーという声は複数だったように思う。
瞬間的に、それだと思った。おそらく可哀想だと思ってしまったんだろう。
「ペットは無事だった?」
「逃げ遅れたみたい。店主だけが無事だったんだって」
「可哀想だっておもっちゃうよね」
「うん。暫く車止めて見てたんだ」
「焦げ臭いのってそれかな」
「俺から? 車からは降りなかったし、3時間以上も前だよ」
「そうなんだ」
「そんなに匂いする?」と言って部屋や自分の体をクンクン嗅ぎ始めた。
「ごめん、気のせいかも」
亮太はまた肩を揉んで、ぐるぐる回している。肩が重いのは車に乗ってたせいじゃないだろう。
「肩揉もうか」
「お願いしていい?」
わたしは亮太の後ろに回ってベッドに腰掛けた。肩を一度払うように整えてから、凝っていそうなところを重点的に揉んでいった。
ユウがふらりと目の前に現れて、「僕がつれていくね」と言う。
首だけ縦に振って頷いた。
ユウは「僕についておいで、案内するからね」そう言って猫や犬を連れて光の中へ消えていった。
「肩、だいぶ良くなってきた」
「良かった」
「手が疲れてきたらやめていいよ」
「うん」
肩は軽くなったらしい。手が疲れたから揉むのをやめて、後ろからギュと抱きしめた。
「どしたの?」
「大好きだなと思って」
亮太からとてもいい匂いがした。
亮太はわたしの部屋の机や本棚を眺めている。
「本当にジブリー好きなんだね」と言ってトロロの置物を触っていた。
「あ、俺があげた香水」
「使ってるよー。亮太に会う時につけてたりするよ」
飾ってある写真を眺める亮太。杏樹と真由の写真や友達との写真。亮太と撮ったプリクラも飾ってある。
「俺携帯の充電器の裏に貼ってある」と言って、ポケットから携帯電話を取り出すと、充電器を外して見せてくれた。
「いつでも見れるように」
「私はお財布の中にいれてある。いつでも見れるように」
亮太とはよくプリクラを撮るけど、写真も好きらしく、よく写真を撮られる。いつの間に撮ってたのかと思うものまであって驚いたことがある。
近くに卒業アルバムがあったので、それを見ていいかと亮太は聞いた。
ココアを下げて新しいものを用意しようと思ってたところで、から返事してしまったが、後になってしまったと思った。その時にはもう中学生の時のアルバムを開いているところだった。
亮太がクラス写真を穴が開くほど見つめている。
「これって……」
「アイツ……パンプキンの顔が見たくなくて、カッターで削った」
「そっか……」
アイツの顔が出てくるページはアイツのところだけ削ってある。カッターで八つ裂きにするように。ありったけの恨みを込めて消してある。心の闇の部分を見られたようで居心地が悪かった。
亮太は引いているだろうか……。母から卒アルを捨てるなんてもったいないと言われたが、捨てておけば良かったと後悔した。
「見ない方がいい?」
「いや……もう見られちゃってるし」
亮太は1枚1枚ページをゆっくりめくっていった。
「明里まだ幼いね。可愛い」と亮太は言う。
「可愛くないよ」
「可愛いよ。俺すっごく顔タイプだもん」
亮太は前にも同じことを言っていた。どこを好きになったのか、聞いて見たところ、気が合うところと、一緒にいて楽しいところ、顔が好きだと言われた。
好きな人から顔がタイプだったと言われ、嬉しくないはずがないのだか、ちょっと趣味が変わっているのではと思ってしまう。
「初めて会った時から可愛いなって思ってたよ」
「え〜〜」
「タイプど真ん中だったし」
やっぱり素直に喜べない。私は自分の顔が大嫌いだからだ。お父さん似のこの醜い顔が。
「整形したいくらい、自分の顔嫌い」
「絶対ヤダ。そのままがいい」
亮太は語尾を強めて、全力で止めようとしている様に言った。
「ほんとに言ってる?」
「当たり前じゃん」
「明里気にしすぎだって。友達も可愛いって言ってたよ」
「え?」
「羨ましがられるよ」
「ええぇ? この顔で? 杏樹の隣にいても?」
「杏樹ちゃんは綺麗な子だよね。明里とは系統が違うタイプ」
「お父さん似だよ?」
「確かに似てるよね。ちょっとびっくりした」
父からも醜いと言われることを話すと、
「同族嫌悪じゃないかな」と亮太は言う。亮太もお母さんのことを特に美人だと思わないらしい。同じ顔だし、生まれた時から見ている顔だから、ピンとこないと言う。そうゆうものなのだろうか。
雪が更に酷くなりそうだったので、早めに解散することになった。
お兄さんが家まで迎えに来てきてくれるそうだ。到着した後軽く会釈をした。車の中に同じ顔が2つ並んでいた。
亮太が帰って部屋に戻ると、六花がドタバタ、ガタンと音を鳴らしながら部屋にやってきた。
「さっきさ、焦げ臭くなかった?」と言う。
「ガス漏れなのかなと思ったけど、違ったみたいでさー。匂いはすぐ無くなったんだけど、お母さんいないし焦ったー」
「全然気づかなかった」
「そっかー。わざわざおねーちゃんに話に行くのもなと思ってさ。邪魔しちゃ悪いしさ」
「いいよ、何かあったらおいでよ」
六花も何かを感じ取る力があるのかもしれないな、と思ったが今はしまっておくことにした。
六花が自分の部屋に戻った後、ユウが光の中から現れた。
「無事に案内人のところまで送り届けてきたよ」と言う。ユウって何ものなのだろう。
「案内人って誰?」
「この世の中で彷徨うものを導く者」
「ユウは違うの?」
「僕は君の片割れ、相棒だから案内人とは違う」
そうなのか。言われても今だに未知の世界すぎてよくわからない。
「君はこの先、もっと力が強なると思う」と言う。
「見えるどころか、感じる力も強い。状況によって自ら見え方まで変えられる。なかなか出来ないことだよ」
「たまたまだって」
「抑えているでしょう? でもいつか押さえ込んでいられなくなるよ」
「勘弁して、普通だから」
「君がそれを認めないなら、認めざるを得ないことがこれから起こっていくんだよ。自らの魂の意志で」
私自身がそれを望んでいるのだとユウは言う。魂の目的の1つなんだとか。
見えない世界なんて望んでない。誰も信じてはくれないもの。おじいちゃん以外は……。
ユウはさっきまで亮太がいた場所に腰を下ろした。
テーブルの上にはお菓子とコップが2つ。
ユウは体がないから食べないし飲まない、触ることもできない、暖かさや冷たさも分からない。どんな香りなのかも、知らない。なんだかそれが少し寂しく感じた。
半分妄想だと思いつつも、どこかで存在しているんじゃないかと考えてしまう矛盾。
時々感じる悲しさ。ユウが本当に存在してくれて、みんなとも話せたらいいのに。




