31 ニュース
不純異性交遊が〜〜ウンタラカンタラ言われたせいなのか、ここ最近嫌なニュースが朝から煩わしい。
元々、頭がまだ起ききっていない状態でニュースを聞くのは得意じゃない。
気を張っていない状態だと、ニュースの場面や事件などの場面が急に頭を駆け巡っていくからだ。頭がキーンとしてきて頭痛が起こる。
たまたま何かのチャンネルが合ってしまう感じで、それは勝手に流れてくる。
今朝のニュースは性被害についてだった。
コメンテーターとやらが意気揚々と喋っているが、的をえないことばかり言う。
被害に遭われた女性たちの服装について意見し、被害に遭いやすい場所だったのではと話している。
「はぁぁぁぁぁ? 何言ってんのコイツ」
「本当だよね、おっさんの考えばっか押し付けんなよ」と六花もパンを食べながら言った。
私なんてジャージ履いててもストーカー野郎に足触られてたって今からこのコメンテーターに話しに行ってやろうかと思った。被害に遭いやすい場所とか、ちゃんちゃらおかしいわ。
「じゃあお前が落とした財布拾っても拾いやすい場所に落としたせいだから文句言うんじゃーねぞ」と思わずテレビに向かって喋っていると、「本当だよねー」と六花も言った。
何故なんだ。何故こうも被害者側に寄り添う発言が出来ないのだろうか。どう考えても加害者が悪いではないか。自衛が何だという前に、加害者の刑量を重くしろ。殺されても殺されそうな顔をしていた奴が悪いなんて言う奴は、まずいないだろう。
「加害者も未来があるとか人権があるとか何とか言いやがって、その前に被害者の未来と人権を優先しろよ。ふざけんなっつーの」
「ねーちゃん、どーした。苛立ってんな」
「今日もまたストーカー野郎の夢にうなされて起きた」
「うわ、最悪だね」
「親父も最近キモいことばっかり言うから過敏なんだと思う」
「ウザいもんね、最近」
「何であんな奴が父親なんだろ」と六花は言った。私もそれは常々思っている。
ここ最近は由利君問題で超ウザい。夜に帰ってるわけでもなく、夕飯の時間には必ず家にいるのに、どこでどう過ごしていたのかと聞いてくる。
「あたしの生理の時も赤飯炊くぞって張り切やがって」と六花はイラつきながら言った。
「私もだよ。キモいんだよ考えも発言も。そっとしとけよマジで」
「しょうがないじゃない、お祝いしたがるんだから」
キッチンでご飯の用意をしている母が話に割って入ってきた。
「私達の気持ちよりも、自分のやりたい事が優先なんだ」
「伝統とか言ってさー、今日から女になったんだぞとか言われて寒気してキモかったわ」
「ただの無神経なんだよね。頼んでない事すんなよ」
母はおし黙ってしまった。
「何でお母さんはあんな奴と離婚しないの」
何度目かの質問を六花はしている。今までも何度かこの話はしているのだが……。
「お母さん、専業主婦だから離婚しても働き口ないし」
「私達も頑張るからって言ってるじゃん」
「そうはいかないでしょ」
「じゃあ、これから死ぬまで我慢するの?」
「仕方ないじゃない」
母がよく使う言葉。仕方ないじゃない。諦めなさい。お父さんが絶対なんだから。どうしようもないじゃない。耳にタコができるほど聞いてきたセリフ。
鼻から何もしようとせずに、母はすぐ諦めの言葉で逃げる。
家庭内暴力のニュースを見るたび思う。家には何故離婚の選択肢がないのか。母は父から暴言を吐かれるだけで、手を上げられることはない。結局、父も母も似たもの同士なのかもしれない。
「クリスマスは由利君と過ごすの?」母が聞く。
「たぶん」
「お父さん心配してるのよ」
「心配の仕方がキモいんだよ」と六花は言った。
「寒気する」
「心配なのよ、わかってあげて」
「あんなことがあったのに?」と六花が言った。
私も母も手が止まり、六花の方を見た。場の空気がピーンと張り詰めている。みんな避けて言わないようにしてる事を掘り返そうとしている六花に鋭い視線を向ける母。
「お父さんて知らないんだよね、あのこと……」
「言ってないわよ。言えるわけないじゃない。殺されちゃうわよ」
「むしろ殺してほしいわ」と私が言うと、
「物騒なこと言わないでちょうだい」と母が声を震わせた。
「能天気すぎない? 由利君云々の前にさ、もっともっーっとヤバい奴が身近にいるって知らないで過ごしてるなんて」
「仕方ないじゃない」
「お母さんは平気なの? 変態がうろついてんだぜ」と六花は言うと、母の表情が曇った。
「もう忘れなさいって話したでしょう」
朝のリビングにテレビから流れ出るアナウンサーの声だけが響いていた。
ユウもそれを黙って聞いていて、深追いして来なかった。
亮太と付き合ってから五ヶ月が経つ。
そうゆう雰囲気になる時もある。でも亮太は絶対嫌なことはして来ないし、無理強いすることもない。
なのにあの親父ときたら本当に侵害だ。ストーカーの心配もろくにしなかった奴が、何で彼氏との関係に首つっこんでくるんだよ。
私自身が1番ピリついているし、不安に思っているのにも関わらず。
「デリカシーなさすぎるどころか、頭の中お花畑だよね。逆に羨ましいわ」
「人の気持ちを慮れるほどの人間性を持ち合わせていないんだよ」とユウは無表情でドストレートに正論をかました。
私もあんなアホだったら楽しく生きられたかなとさえ思う。
中学生の頃、夜に勉強がてらアーティストのビデオを見ようとしたら、別のビデオが入っていたことがあった。なんのビデオだったか思い出せずに、それを再生してしまった。卑猥な映像が画面に登場した時の衝撃といったら……。見るなとは言わないが、せめて隠し通せよ。デリカシーがないのも脇が甘いのも、子供のことなんて考えない事も全部が嫌いだ。普段からあんなビデオばかり見てるから、思考回路が馬鹿になるんじゃないのか。
やっぱりダメだ。祖父にどんなに頼まれていても、親父を見捨ててしまいたい。
亮太のことを変に意識しはじめてしまったじゃないか。どうしてくれるんだ全く。
クリスマスは門限を言い渡されてしまった。亮太は嫌な顔せず、「じゃあ夕方からバイト入れようかな」と言った。人手不足もあるが、クリスマスだとバイト代が高くなるらしい。
友達とは別の日にパーティーしようと話している。




