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25 続・由利君


 みんなでカラオケに行く事になった。みんなと言っても由利君と由利君の友達1人と杏樹と真由と私。

 杏樹は去年付き合った人と上手く行かず、現在はフリーで、出会いを探している。それとなく由利君にそのことを話すと、いつもの麻雀仲間や不良グループではない人をカラオケに連れてきた。


 初めて会う佐野君は、神威市でも有名な進学校に通っているという。杏樹と真由は佐野君の制服を見て一発でわかったらしかった。真面目そうだけど、気さくな人だった。最近こん詰めすぎて悩んでるみたいだったし、彼女が欲しいことをボヤいていたので、誘ったのだと由利君は話していた。


 私達女子が主に歌っていて、2人は飲み物を飲みながら話していた。皆んなで連絡先を交換してポテトを頼んでまた歌う。

 由利君がトイレに立った時に佐野君に話しかけられた。

「明里ちゃん、由利のこと頼むね」

「え?頼むと言われても、何もなくて」

「最近、雰囲気が変わってきたから、いい方向に進んでるのかなって思って」と言う。

 戸惑っていると由利君が戻ってきた。

「2人も歌って歌って!」と杏樹が分厚い本とマイクを渡す。


 由利君は何を歌うのかな。音楽の話はそんなにしたことがなかった。

 最近流行りの桜の曲が打ち込まれる。

「由利君、じょーず!」杏樹と真由が手を叩く。照れくさそうに歌う由利君。

 初めて聴いた歌声。歌うことが好きなのかなと思うくらい安定していて、とてもいい声をしている。ちょっとドキドキ。


 でもーーーーこれじゃない。この声じゃない。私が探しているのはこの声じゃないーーーーと思っていた。

 何故だかわからない。

 とても好きな声だけど違う。この声じゃないと。


 どこからこの感情が湧き上がってくるのかはわからない。でも確かにそう感じている。

 何故だろう。自分のことなのにわからない。


 湧き上がるような、浮き上がってくるような、この感情はなんだろう。


 次に佐野君が歌った。この声でもない。違う。


 あの人の声はもっと、高音が美しく響いて、シャウトにクセがあって、リズム感が抜群で、まるで音楽の神様に愛されているみたいな歌声ーーーーーーー。


 あの人って誰の事なんだ。だんだんと頭が痛くなってきた。自分なのに自分じゃないような考えって何だ。

 混乱して目が回りそうだった。


 怖くなって部屋をでて、トイレに行った。

 何なんだ一体。

 自分が怖い。自分の中の得体の知れないものが怖い。

 でも、あの人の声じゃない。それだけはわかっている。


 暫くして戻ると由利君が「具合悪い?」と聞く。

「大丈夫、ちょっと考え事してた」

 ずっと頭の中でぐるぐる考えが巡っていた。


 家に帰ってから、持っているCDを片っ端から聴いていった。

 あの湧き上がってくるような感情は何処かに消えて無くなっていた。でも何故だかどれも、この声じゃないという事だけは分かる。



 数日後、学校帰りに由利君と待ち合わせる事になった。一緒に映画を借りて家で見る予定なので、レンタルビデオ店と併設されている本屋が待ち合わせ場所。

由利君から少し時間に遅れると連絡があったので、音楽雑誌や映画雑誌を物色することにした。

 海外アーティストの本を探していると、本棚の向こう側の人と目があった気がした。

 雑誌にを読んでいる途中、気持ち悪い視線を感じる。身に覚えのあるような気持ち悪い視線。今日は暖かいのに、なんだか寒気がする。


 本棚は雑誌が置いてある部分から上は開けているタイプだ。

 本を読んでいるふりをして、ゆっくり視線を上にずらすと、かぼちゃのような大きなもじゃもじゃ頭が見えたーーーーー。

 アイツがいる。あのパンプキン野郎だ。

 アイツが本棚の向こう側に立っていて、雑誌を持ちながら目だけがこちらを向いている。

 ゾワゾワと鳥肌が立ち、喉の奥がキュッと閉まっていく。

 アイツは視線を逸らさず、じっとこちらを見ている。

 最近ストーカーはなかった。ターゲットが別の人に変わり、女子から相談された事があった。また変わったのか?


 棚をずれても、自分の目の前にズレてくるパンプキン野郎。何でいつもいつも黙って凝視してくるんだろう。また触られるのだろうか。

 早く由利君が到着してくれないだろうか。

 冷や汗がダラダラと垂れてくる。


 別の棚に行ってもアイツは何度もついてくる。

 由利君に今どの辺かメールを送った。

 本屋を出た方がいいかもしれない。


 目の前に空間がない棚に移動して、周りを確認したが、アイツの姿が見当たらなかった。

 急いで由利君に連絡を取ろうとした時、後ろに人の気配がした。誰か後ろにいる。

 じわじわ近づいてくる、圧迫感。

 五感の全てが仕事を放棄したかのように、ありとあらゆる神経が背中に集中していく。

 怖くて固まって動けない。冷や汗が止まらない。

 膝がガクガクと震え出して、立っているのもやっとだ。どうしよう。


「何読んでるの?」と後ろから由利君の声がした。

 咄嗟に身を捩るように避けてしまった。真後ろにいたのは制服を着た由利君だった。

「どした?顔真っ青だよ」

「……」

「大丈夫?」答えられずに黙っていると「何かあった?」と由利君は聞いた。

 片言みたいな返事で少し事情を話した。

「そいつまだ店内にいるの」

「さっきまでは、見かけたんだけど……」

 辺りを見回す。アイツを見つけた。

 由利君の制服を思わず、掴んでしまった。

「どんな奴?」

「かぼちゃみたいな頭の人」

 アイツが由利君の存在に気づくと、急にUターンしていった。

 由利君がダッシュで追いかけるとアイツも急に走り出し、逃げた。


 あっという間の出来事に呆然としていたが、私も追いかけなくてはならない事に気づいて、後を追った。

 店の外に出ると、由利君が息を切らして戻ってくるところだった。

「ごめん、捕まえられなかった」

「いいよいいよ」

「信号変わって、車きちゃって」と言う。


 映画を見る予定だったのに、由利君にストーカーの話をしなければならなくなった。

 大きな公園のベンチで話す事になった。由利君は荷物を置くと、自動販売機で飲み物を買いに行ってくれた。

 凄く真剣に話しを聞いてくれた。私が話しやすいように、ゆっくりと。

 ストーカーの事を話そうとすると、身体が強張って呼吸が浅くなる。思い出すと手が震えて止まらなくなってしまう。暫く震えが止まらなかった時、由利君は手を握って聞いてくれた。速攻で信じてくれたのは初めてだったと話すと、

「怯え方が普通じゃなかったから」と由利君は言った。


 ざっくり一通り話し終わると、由利君は携帯を取り出し、色んな人に連絡をとり始めた。

 アイツの連絡先を知る人を探している様子だった。

「何するの?」

「この件、俺に任せてもらっていい?」

「うん……でも危なくない?」

 アイツを知る人が見つかると、連絡先を聞いたらしく「かけていい?」と聞く。頷くと、

「出ないかもしれないけど」といいながら電話をかけ始めた。

 何度目かにようやく出たと思ったら、「電話を切られた」と苛立ちながら言った。何度かけても切られるらしい。

「ちょっと待っててね」と言い、ベンチから少し離れたところでまた電話をかけ始めた。

 電話を切って話をしないアイツとどうにか話をつけるため、友達伝いでこちらの要望を伝えているらしい。

 直接話すか、ストーカー行為の話を暴露した上で友達を経由して話すか、警察経由で話すか、どれがいいかと。

 直接話すことにしたらしく、由利君とアイツは暫く話していた。

「一応話はついたから大丈夫だと思う」由利君は携帯を片手に戻ってきた。

 行動力と、対応力の早さに感動してしまった。男嫌いだったはずの自分が、由利君の人間性に憧れさえ抱いてしまっている。うちの親がこれくらい頼もしかったらと思った。

「由利君すごいね」と言うと、「問題をそのままにしておく事が苦手なんだ」と言った。気になって落ち着かないらしい。


「このままじゃ危ないでしょ」

「うん」

「アイツ、明里ちゃんと付き合ってたふうなこと言ってたから引いた」

「げ、ほんとにそんな事言ってたの、きもい。ないないない」

「あ、彼氏いないよね?」と由利君は聞く。

「いないよ」

「かぼちゃ野郎に、お前明里の何なんだよって言われたから、咄嗟に彼氏だよって嘘言ったんだけど大丈夫だった?」

「全っ然大丈夫」力を込めて言った。


 アイツと話した感想を聞くと、「話が通じない人」と言っていた。

 自分はこうしたのにとか、つきまとっていることも棚に上げて、自分語りを始めりだとか、急に怒り始めたと思ったら、投げやりな言い方になったり、急に謝ってきたりだとかしていたらしい。

 怖すぎる。

 この先本当にもう何もありませんように。


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