23 不良
コンビニでお菓子やジュースを買って綾香の家に行く。
「手、酷いね。家に救急箱があるから手当してあげる」
「ありがとう」
綾香の家について、玄関に入ると、沢山の靴が溢れそうになるくらい転がっていた。
中から男の人の騒ぎ声が聞こえる。
「またあいつら来てんの」
綾香と一緒だった男子が言った。
「えー帰ろうかな」ともう1人も顔を顰めて言った。
彼らは綾香の家に集まって麻雀をしていたのだが、食べ物の買い出しに行っていたところだったらしい。
部屋に入るとタバコの煙がモクモクしていて咳き込みそうになった。麻雀をしている人達。その奥のソファーで携帯をいじっているスカジャンの男の子。
テーブルで酒を飲む年上らしき2人の男性達。
どうやら麻雀をしているグループとソファに座るスカジャン男子は友達らしく綾香と同じ高校生らしい。
「亮太来てたんだ」
「来たばっか」
コソコソと帰ろうと話している声が聞こえた。
綾香はテーブルの席の人達とも仲良さげに話していて、途中で救急箱を取りに行った。
「座りなよ」と言われ、テーブルの席に座った。
何となく悪い感じのする2人組だった。
飲み物を渡された。お酒なのかジュースなのか分からず、口をつけずにいると「飲みなよ」と促された。
目がすわっていて、顔も赤くてニヤニヤしている人達は歯がボロボロだった。
麻雀をしていた男女達は帰る支度をしている。
「ほら、飲んで飲んで」と煽るテーブル席の男達。
飲み物を手に取ろうかなと思った時、横から割って入って来たスカジャン男子がコップを倒した。
テーブルの上と服の上にジュースが散らばった。
「ごめんごめん、服汚しちゃった」
「何処かに布巾ない?」と周りに聞いている。
「あーあ」
テーブルのに座っている輩が舌打ちしながら言った。
こぼしてしまったジュースを拭くスカジャンの男子は、わざとコップを倒したように見えた。
綾香が救急箱を持って来たところで、高校生の集団は帰ると話している。コップを倒した男子も帰るから一緒に出ようと言う。
どうしたらいいのか考えていると、ユウに「ここにいてはいけない」と言われた。普段とは違い、威圧感万歳な雰囲気だった。
不穏な空気を感じて、一旦外に出る事にした。
外で綾香と麻雀男子達が話をしている。スカジャン男子も「付き合いやめたんじゃなかった?」と綾香に話している。
他の人達も「やめた方がいい」とか「綾もおいで」などと話していて、中にいるテーブル席の輩が相当煙たがられている事が分かった。
「亮太、明里のこと頼むね」とスカジャン男子に綾香は言った。
「綾香行かないの?」
綾香は悩んでいるようだった。
「呼んどいてごめんだけど、ここにいない方がいいと思う」
「いや、でも……」
「亮太はいいやつだから大丈夫、行って」と言う。
ユウも隣でスカジャン男子について行けと言うし、どーなってんだ一体。
亮太と呼ばれるスカジャン男子はバイクで来たらしく、ヘルメットを渡された。
「うしろ乗って」
言われるがままバイクの後ろに乗った。
「バイク初めて?」
「はい」
「家どこ?」
「家は……ない」
少々困惑気味なスカジャン男子は「とりあえず行くか」と言った。
「しっかり掴まってて」
服を掴むんじゃなくて腰にしっかり手を回すようにと言われた。躊躇していると、「落ちたら死ぬよ」と言う。
初めてのバイク。凄く不安定で、しっかり捕まってないと振り落とされそうだった。最初はすっごく怖かったけど、段々と風を切って走る様が気持ちよく感じた。爽快さが、嫌な事を吹き飛ばしてくれそうだった。
当てもなくバイクを走らせた後、一旦コンビニで一休みする事に。
「家に帰れないなら、どこに送ればいい?」と聞く。
「ここでいいよ」
「友達の家とかないの?」
「牧草ロール」と答えたが、「え?何て?」と聞き返された。
とりあえず道を教えた。
牧草ロールのあるビニールハウス前でバイクを止めてもらった。
「本当にここに泊まるの」スカジャン男子は面食らっている。
「冗談でしょ?」
「ここしなかいし」
「今日冷えるらしいよ」
「牧草って案外あったかいんだよ」
スカジャン男子は困った様子だった。
「本当にここでいいから気にしないで」
「ん〜じゃあうち来る?」とスカジャン男子は言った。
「家に親いないし」と言う。
「別に大丈夫」そういうと、ため息をつき、
「あのさ、こんなとこに女の子1人置いて帰らなきゃならない俺の気持ちも考えてくれないかな。綾香にも頼まれてるし」と話す。
迷っていると、ヘルメットをひょいと投げられた。
「ほら、いくよ」
まあ、もうどうなってもいいかと思う気持ちでついて行く事にした。
「はい」と言ってスカジャン男子はスカジャンを貸してくれた。
「寒いでしょ」と言う。スカジャン男子は薄っぺらなシャツしか着ていない。
断る前にエンジンをふかし始めてしまった。
スカジャン男子の家は結構広くて驚いた。いいとこの子なのと思うくらいの家だ。でも明かりもついていなくて、人の気配がなかった。
バイクを降りて、鍵を開けて中に入る。
「お、お邪魔します」
「はーい」
2人だけの声しか聞こえず、シンと静まり返っている。
2階に案内されると適当に座っておくように言われた。由利君とやらの部屋らしい。表札に由利と書いてあった。
整理整頓された無駄のない部屋に、難しそうな本や分厚い参考書もたくさんあって、意外すぎて驚いた。
暫くしてから由利君は救急箱を持ってきた。
「座ってなよ」
「うん」
手当すると言う。躊躇っていると、「化膿したら大変なんだけど」と言った。
テキパキこなし、的確に話す由利君はとても不良には思えなかった。
「家出だよね?」手当をしながら由利君は聞いた。
「まあ、うん」「そっか」「……」「そうゆう日もあるよね」「うん」
「親にやられたの?」
「お父さんが、ちょっと。手の怪我はかべ殴ったから……」
「そっか、大変だよね」
「由利君の家も?殴られたりするの?」
「うちはないよ。手上げられた事ないな」
由利君は頭に手を伸ばして来たので咄嗟に避けた。
「頭怪我してるよ、血が出てる」
指摘されたところを触ってみると痛みが走った。傷口は塞がっているみたいだけど、カピカピしたものが手についた。
「綾香と仲いいの?」
頭の手当中に由利君が聞いた。
「昔、すこし……綾香は元気だったの?」
「ん〜あんまり?かな。悪い噂が立つやつとつるんでるから」
「さっきの?」
「うん、アイツらは関わんない方がいいよ」
「悪い噂って」
「援交の斡旋とか薬とか……」
何か他にも悪い噂を含んでいそうな口調で話した。
「それはヤバいね」
「さっき飲み物になんか混ぜてたの気づいてた?」
私がびっくりしていると、「そうゆう事をする連中って事」と真剣な表情で言った。さっきわざとコップを倒したように見えたのはそれがあったからなのか。
「綾香は大丈夫なの?」
「俺達は関わるなって話してるけど、本人が……未練あるのかな。あの連中の中の1人と付き合ってたみたいだから」
「あららら」
「由利君は綾香と仲いいの?」
「仲いいっつーか、遠い親戚だから」
「そうなんだ……じゃあ色々事情知ってるのか」
「まあね」
「大変だったよね綾香」と言うと、「今のあんたも大変そうに見えるんだけどね」と言われた。確かにそうかも。
「あーえっと名前は?明里ちゃんだっけ?」
「あ、はい。芹沢明里です。そちらは由利君でいいんだよね?」
「うん由利亮太。亮太でいいよ」
雰囲気的に年上なのかなと思っていたら、同じ高校二年生だった。
手当てが終わると、親には連絡したのか聞かれた。
「無事だって事だけでも連絡しといたら」
それもそうかと思い、電源を入れると電話とメールの嵐だった。杏樹と真由からもきていたので、おそらく連絡がいったのだろう。親にはメールで『無事だ、友達の家にいる』と送っておいた。杏樹と真由にも無事メールを送って、また電源を切った。
部屋の時計は夜の12時をまわるところだった。
由利君はジャージを貸してくれて、ベッドまで使わせてくれた。必要ならシャワーも使っていいと言う。もちろん遠慮したけれど、自分はソファで寝るからと、そそくさと寝てしまった。
人の家でなんて寝られないかなと思っていたらぐっすり寝入ってしまっていたようで、朝は由利君に起こされた。
「全然寝息聞こえないから、生きてるのか心配になった」と言って笑っていた。
ずっとクールな人だと思っていたが、ちゃんと笑う人だったみたいだ。
朝は、軽くトーストまで焼いてくれて(多分私のお腹が鳴ったから)オレンジジュースも用意してくれた。
「学校どーすんの」「どーしよ……」「サボる?」
サボってしまおうかなと思ったが、特にする事もないし、シャワーも浴びてないし、歯も磨いてないのが気持ち悪くて一旦帰ることにした。
家の近くまで送ってくれるという。迷惑をかけすぎだったので断ると「失踪されても困るし」と言う。
「失踪って……しないよ」
「昨日はしそうな顔してたよ」
由利君は送る準備をし始めていた。
バイクはやっぱり気持ち良くて、朝の冷たい空気が肌に染みた。
「ちゃんと帰るんだよ」
「……」
「家入るまで見届けるよ?」
「わかったって」
由利君は「じゃあ」と言ってバイクで颯爽と帰って行った。
あまり多くは聞かず、最低限の話ししかしない人だった。
朝、家に帰ると六花と母が泣いて抱きついて来た。 父も心配していたようだったが、連絡がなかった事を怒られ、そのあと昨日はやりすぎた、悪かったと謝られた。謝るくらいなら最初からやらなければいいのに。
「何処にいたんだ」
「何処でもいーじゃん」
「無事に帰って来てくれただけでいいじゃないの」
「どーせ、男の家にでもいたんだろう、汚いぞお前」
「はぁぁぁあ?」
また喧嘩に発展しそうなところを母が制した。
何でいつもいつも身勝手なことばかり言って人を傷つけるんだろう。
何にも知らないくせに。
何にも知ろうともしないくせに。
学校は休むことになった。この怪我で行かせられないと判断したようだった。土日を挟めば怪我は少し良くなるだろう。
母の説得と祖父が父を宥めてくれたこともあり、結婚式には父と母の2人で行く事になった。




