15 ユウの話
もう何もかも嫌いだ。
そんな時ユウが頻繁に話しかけてくるようになった。家の中にも現れるし、あれから教室にまで姿を現すようになった。
私がそうとうヤバいって事なのかも。
ユウは私を笑わせようとしているのか、トレンチコートにボロボロジーンズ姿をやめて、うちの学校の制服を着て現れた。
ひっくり返るかと思うほど驚いた。
「どうしたどうした、その格好」
「馴染もうと思って」
そう言って隣に座ったり、前にしゃがみ込んだりして、アイツの視線をガードしてくれている。
ユウと話しているとアイツの視線が不思議と気にならない。
本当にこんな人がいたらいいのになと思ってしまう。
思った瞬間、しまったと思った。
フッと笑って「いるよ」と言う。
「僕は生きてるよ」
その話は前に聞いた。
「じゃあ」と言って、背伸びをすると、「生きているぼくの情報を話しておくね」と言う。
え?そんなんあるんすか?
「僕は君の1つ上」「誕生日は君と同じゾロ目」
と話し出した。
ざっと今教えられることはこれだけ↓
・1つ年上
・名前は君と共通点があるはず
・誕生日はゾロ目(同じ年の学年違い)
・生まれた場所は北海道
・音楽をやっている
・バンドを組んでいて4人組
・大学は…いってるかな。辞めてるかも
・魂が震えたら僕だから
ユウは何度も自分の胸を拳で叩いて、
「ここだよ、ココが震えたら僕だから。よく覚えておいて。僕達はつながっている。双子は同じ音の指紋を持っている。だから必ずわかる」と言った。
誕生日のゾロ目は、はっきり教えてくれない。私は11月11日だから、ユウの誕生日は早生まれの月だろう。1月か2月か3月のゾロ目ということになる。
「一個上ということはいま高校2年生?」
「うん」
「大学はね〜考えているんだけど、決めかねているところ。でも間違いなく音楽はやってる」
「アマチュア?」
「どうかな、まだわからないかな。どんな形でも音楽はやってる。ピアノも弾いてるよ」
「ふーん」
「そうそう、中高の同級生が中心で弟もメンバーにいるよ」
「そんな詳しくわかるの」
「だって僕だから」
「あーーうん、そうか」
という感じ。
ユウは制服姿になってからも基本的にセピア色だった。時々色がついて見えることもある。
至近距離で見ると、左目の下に涙ぼくろがあった。ピアスはシルバー系が多いみたい。輪っかとか十字架とかゴツい系とか色々変えてる。ネックレスはいつも同じものをつけている(おそらく)
ユウの手は大きくて骨ばっている。腕まくりをした腕は血管が浮き出ていて、意外と筋肉がついているようだった。綺麗で形の良い長い指をしている。ピアノの上を滑らかに滑らせられそうな指だ。
風に靡いて、金髪の前髪がサラリと揺れた。
隙間から目と眉毛が見えた。
眉毛が少し傷ついて模様のようになっている。毛が生えていない部分があった。
「これね、小さい頃にゲガをして眉毛が生えてこなくなっちゃったんだ」といって、前髪を上げてみせた。
本当にいるみたいに話す。でもこのまま現実逃避していくのも今はいいかも。そうしないと立っている事ができないくらい苦しいから。
ユウはちらほらと前世の話もしてくれるようになった。
一つ前の前世では恋人同士だったという。色んな人生の中で親子だったり、兄弟だったり、同士として修行したり、どちらかが現世に生きて、どちらかがサポートをしていたり、という話をしてくれた。
特に私達にとっては、1つ前が重要なのだと言う。
双子の魂にとって同時に同じ時代に生まれることは非常に強い意味があるんだとか。
「双子の魂って何?」
「双子の魂、ソウルメイト、ツインソウル、ツインレイ、ツインスター、魂の片割れ、色々と呼び方があるけど、要するに1つの魂を2つに分けた存在って事」
「はあ……」
「唯一無二の存在。鏡のような存在、反対側の自分自身、君は僕で僕は君でもあるんだ。見えなくてもいつも繋がっている存在」
「ほう」
よく分からない話だと、はあとか、ほうとか、ばかりの返事になってしまう。本当にそんな存在がいたらすんばらしいんだろうな。
「素晴らしい存在だけれど、大変なこともあるよ」
「そうなの?」
「全てのカルマを解消しなくてはならないから。見たくない部分も、知られたくない部分も都合の悪い部分も全部だ。自分自身だからね、徹底的に向き合わなくてはならない。僕達は2つで1つだから、1つに戻りたい衝動にかられるのさ。どうしても相手のことが知りたくなるの」
「ほえーそうなんだ」
「で、我々には何らかのカルマがあると」
「うん」
「それを解消しに来てるの?」
「ざっくり言うとそうゆうこと」
「どんなカルマ?」
「それは言えない」
「言えないの?思い出せとか言うくせに?」
「僕の役割は君を光ある道へと導くこと。全てを伝える存在じゃない。君自身で見つけ出す、思い出すための手伝いをしてるだけなんだよ」
「なんじゃ、それ」
「全て話したら面白くないでしょう?」
「うーん、でも全く見当もつかん」
「いずれわかる時がくるよ」
ユウはいつかわかるとか、まだ教えられないと話す事が多い。
「全てわかった時、僕はいなくなる」
「え、いなくなるの?」
「いつか、君は僕を必要としなくなる」
それは嫌だなと思った。いなくならないで欲しい。いつかっていつなんだろう。
「前世のわたしってどんなだったの?」
「アイリスはとても美しい人だったよ」
「美しいって……」
「気高くて、聡明で、勇敢。そしてとても無邪気な人」
前世のわたしとやらの特徴を聞いてると、今の自分にはどれにも当てはまらない。
「君は自分を忘れてしまったのさ。本当の自分を」
「本当の自分?」
「そう」
本当の自分て何だろう。私は私じゃないのか?
「君は自分自身の事がとても好きだった。自信に満ちていたよ」
それは信じられない話しだ。自分の事が好きだなんて思ったことはない。自信なんてものもありやしない。絶対別人だと思う。
「いいや、君だよ。ある事があって君は自分を見失ってしまった。とても辛い事があったんだ。そのせいで大事なものを何処かに落としてきて……仕舞い込んでしまったのかもしれない」
「辛いことって何?」
「それは言えない」
「ユウは知ってるの?」
「知っている……でも全てを知っているわけじゃない」
「それを思い出せばいいのね」
「少し荒療治だとは思っているんだけど……君が大切な君自身を取り戻す為にはこうするしかなかった」
何だか話が全体的にふんわりしていて、あえて逸らすように話している。
何があったんだろう。気になる。
「僕達は魂が2人で1つだけでなく、人生もそうしようとした。2つで1つの人生になるように計画していたんだ。
でもそれは……とてもリスクがあることなんだ。双子が同時に生まれると言うことは、つまり経験値が何倍にも膨れ上がる秘密装置のようなもの。エネルギーがとても強い。そして、引っ張り合う2つの人生の繋がりも通常より遥かに強い」
「その〜、前に言ってた壮大な計画が〜云々とかってやつ?」
「そう。その計画を実行するために強い絆や繋がりが必要だった。でも……思わぬ方向に人生が動き始めた。僕らにとっては大地が粉々に崩れ落ちるほどの衝撃だった。そのきっかけがあったからこそ、今の繋がりや回路が構築できたとも言えるんだけど……」
うーんとユウは難しそうな顔をして唸った。
「切りたくても前世の出来事を切り離せないんだよ。2つで1つの人生だから」
「はあ……」
なんだか難しくて頭がこんがらがりそうだ。




