14 高校生
華の高校生活ーーーーが始まると思いきや、どん底に突き落とされる。
張り出された学年のクラス名簿にアイツの名前を見つけて奈落の底につき落とされ、あろうことか席は斜め前になった。格好の餌食席だ。
杏樹とはクラスが違う。酷い事の連続で、世界が灰色に見えた。
毎日毎日のガン見攻撃がまた始まる。真由は後ろの席だったが、馴染みのないクラスメイトも多くて、1人になる事も多い。もちろん隙を狙って身体を触られ、酷い時は弄られた。死にたくなる。
社会の授業。注意しない先生。アイツはいつもいつもいつもこっちを見てくる。腹の奥で煮えたぎる怒り。だんだんと頭に血が登ってきた。心臓が激しく脈を打って、頭の血管もバクバクと脈打っている。もう我慢ならない。絶対許さない。
手のそばにあった筆箱を握りしめた。
振り上げて投げつけようとした時ーーーーー
手をグッと掴まれた。
手を握っていたのはユウだった。そっと元の位置に手を戻す。
「ダメだ、それはしてはいけない。落ち着ついて」
ユウはギュと手を強く握りしめている。
「君が悪者になってしまう。筆箱を投げたところで状況はかわらない。おそらくもっと酷くなるだけだ」
怒りで正常な判断が出来なくなっていたところ、ユウの話しで少しずつ冷静になって来た。
この状況で突然筆箱を投げつければ、とち狂い女確定だろう。事情を知っている人は少ないし、アイツはシラを切るだろう。
汗がダラダラ流れていた。
ユウは授業が終わるまで手を離さなかった。
授業が終わったと同時に、後ろにいた真由が声をかけてきた。
「よく頑張ったね!よく耐えた、えらいえらい。後ろで見てて心配だったんだよ!」
真由は止めようとしてくれていたらしい。
寸止めだった様子を見ていて、ハラハラしていたと話した。
真由から見てもダメな行動だったんだと思った。
友達がアイツを罵ろうが、先生が話そうが、私がやめろと叫んでもアイツはストーカーをやめない。
保健室では高校の保険の先生と話した。割とサッパリしている先生だった。
被害の内容を何度も何度も人に話す事に疲れてきた。話すたびに嫌な気持ちが蘇る。話している最中から、義務的に聞いている気配もわかっている。全てが嫌になってくる。
あっという間に6月にはいった。
友達は部活でわたしは帰宅部を選択した。何か夢中になれることを見つけてもいいかもしれないが、何もやる気が起きない。陸上部に勧誘されて、何日か体験入部したものの、アイツが窓や木の影からへばりついて見ている事が耐えられない。遅くなると危険だし。
帰り道、1人で帰っていると、久しぶりにアイツを見かけた。高校は家から離れていたし、家まで付き纏われることが減っていた為に油断した。携帯で母に連絡してみたが、繋がらない。出かけているのかもしれない。
「今日はバスで帰ろう」と、ユウが言った。
バス停まで行く、アイツもついて来た。
バス停の近くにある駐車場のガードレールに腰掛ける事にした。するとアイツが隣にピッタリくっついてきた。寄りかかるようにもたれかかってくる。何でこんな異常な行動に出るのかわからなくて、身体が固まって動かなくなる。
やっとバスが来て、行き先も見ずにとりあえず、飛び乗った。一旦乗り込んで、少し先のバス停で降りればいいと思っていたが、なんとアイツも乗り込こんできた。
「ついてきたんだけど、どーすんのよ」
「人目につくところでは、危ないことはないから大丈夫」とユウは言うが、怖くてたまらない。
1人用の席は満杯だったので、後ろ側の空いている席に座った。荷物を置いて隣はガードする。
のっそりとしたアイツがわたしの隣に座ろうとした時、後ろの生徒が田口に話しかけた。
「田口じゃん、このバス使ってんの?」
「ああ、うん」
アイツは通り過ぎていった。
「家って逆じゃなかった?」
「……用事があって」「どこ行くのー」「一緒に行く?」「俺らはこれからイオン」と話す男子達。
「今のうちに降りて」とユウが囁いた。
すいません間違えましたと言って、扉が閉まる直前にバスを降りた。
恐る恐るバスを見ると、血走ったような、獲物を逃した野生動物みたいな目で、バスの中からアイツがこちらを凝視していた。
窓に顔をへばりつけて見ている。そのままバスはアイツを乗せて走り去って行った。
身体の全細胞が、私という存在を司っている全てが全力で逃げろと叫んでいるように、身の毛がよだった。
そのまま走った。走って走ってもう走れなくなるまで。あいつに追いかけられないところまで。
噴水のある公園で一休みした。汗が吹き出してくる。呼吸を整えて、また急いで家まで帰ろう。歩き出した時、「あっかり〜」と懐かしい声が聞こえて来た。
「明里ーこっちこっち」
手を振っていたのは大介だった。
女子を含む何人かのグループで一緒にいた。
駆け寄って来て「今帰り?」と聞く。
「一緒に帰らない?」「いや、いい」
グループの女の子の1人が腕を組んで睨んでいる。どうやらサッカー部の部活メンバーらしい。今日は練習がないので、みんなでより道していたんだとか。
「お願い!ちょっと苦手な子がいてさ」大介が後ろをちらりと見た。おそらく腕を組んで睨んでいる子だろうなとすぐ察した。
「ごめん、無理」
「用事あるの?」「別にない」「ジュース奢るから」
「いらない」
余計な事に首を突っ込みたくない。
グループに早くしろと呼ばれている。
「早く行きなよ」と言うと、大介は「あっ!」と大きな声をあげた。携帯の番号を教えて欲しいという。断る理由がなかったので、取り敢えず交換する事に。
「そういえばさ、聞きたいことがあったんだけどさ……」と言う大介。なんだかモゴモゴして言いづらそうな雰囲気だ。
「何?」
「今、付き合ってる奴っている?」
「いないよ」
「だよなー」
「なんで?」
「こないださ、田口と付き合ってるって友達から聞いたからさ」
思考が一度停止した。
聞き間違いだよね。今、田口って聞こえたけど、違う人だよね……。
「今なんて言った?もう一回言って」
「だから、田口と付き合ってるって友達から聞いたらって」
「は?」驚いて暫く喋れなかった。
私とあのパンプキンが付き合っていると他校にまで噂になっているらしい。一緒に帰っているところを見た人がいるとか、仲良さそうに歩いていたとか、違う日にも見かけたとか有る事無い事、噂に尾鰭がついている。本人からも付き合っていると話を聞いたとかなんとか。そんなバカな。
一緒に帰ってるんじゃなくて、つけられてるのだ。勘違いも甚だしい。本人から聞いただと?ふざけるな。
「違うの?」
「ふざけんなって」
「え?」
「あんな気持ち悪い奴と付き合うわけないじゃん!勘違いだから!」
「ああ、うん」
「ごめん、もう帰る」と帰ろうとした時腕を掴まれた。
咄嗟に腕を振り払い「触らないで!」と叫んでいた。自分でもビックリするような声を出していて、ひいてしまった。
「ごめん……」と謝る大介。
「ちょっと、今、色々あって、ごめん、」その場から逃げるように帰った。
泣きそうだった。というか、泣いた。噂も気持ち悪いけど、誰かに触られるのも気持ちが悪い。このまま近くの川に飛び込みたくなった。
家にも学校にも居場所がなく、外も自由に歩けない。どうすりゃいいんだ。
家に帰って部屋でユウと話していると、六花が帰ってきた。
部屋をノックして入ってくる。
「ねーちゃん、アイツが家の周り彷徨いてた」
「え?」
「たぶん、窓から見えると思う」と困惑しながら話す六花。
「2人で窓を覗くと、アイツが木の影からこっちを見ていた」
急いでお母さんを呼びに行く。
アイツの姿を見た途端、いつも和かにしている母の顔つきが変わった。
「最近、イタズラ電話も多いのよね」と言う。
流石にまずいと思ったらしく、毎日帰りのお迎えを約束してくれた。母は父にも話して警察に相談するか、本格的に話すことになった。
夜、大介から謝罪のメールが来た。
『なんかあった?』なんて、文面を送ってくる。
きっと前に相談した件なんて忘れているのだろう。
何でもないと返して、その後は返信しなかった。




