11 つきまとい男とユウ君と
ストーカー行為は復活してしまった。何事もなかった期間は1、2週間程度。操先生が再度田口を呼び出し、話しをしたが無駄に終わった。
アイツは「知らない」一点張りだと言う。証拠も目撃情報もある事を告げたが「何のことかわからない」とシラをきるらしい。
田口の親御さんに話してみようかという方向になった。が、先生が言うには、子があれなら親も期待は出来そうにないと言う。
一応報告はしてくれたようだったが、やはり止まることはなかった。
もう12月だ。
アイツは次第に人が見ていない時を狙ってストーカー行為をするようになっていた。
ゴミ箱を焼却炉まで持って行く時、移動教室の時、人気のない帰り道、身体を押し付けてくる。ジャージや黒タイツの上からだけど、足もさわられるので、気持ちが悪い。押さえつけられている時、硬いものが当たる。泣きたくなってきた。
お風呂場で身体が赤くなるまで擦った。あいつの感触が肌に残っているみたいで気持ちが悪い。臭い匂いも、息も、あいつの全てが。
涙も一緒に、嫌な事全部洗い流してしまえたらいいのに。
友達も六花も出来るだけ私が1人にならないようにしてくれていたけど、限界がある。
ユウだってあいつをぶっ飛ばしたり出来るわけじゃない。
成績は落ちてきていた。志望校はギリギリ範囲内。これ以上落ちるとまずい。
アイツは部活をやっていたから、推薦で別の高校になる。それまでの辛抱だ。大介とも違う高校になる。
来年の春は笑えるように、踏ん張らなければならないけれど、心が折れてしまいそうだった。学校行きたくないし、もう全部辞めてしまいたい。現実逃避したい。
苦しい時、ユウとの会話が次第に癒しになっていた。時々、意味不明な事を言うけど、分からない話はすっ飛ばして別の話題に切り替える。
ユウと一緒に帰るようになってから、細かいところが見えてきた。
相変わらずセピア色なところは変わらない。
服装は薄手のトレンチコートにTシャツ、穴の空いたボロボロのジーンズ、ブーツ。そして金髪っぽい髪の色。
その他にネックレスと両耳ピアスをつけていることがわかった。
顔ははっきり見えず、ぼんやりする事がある。
前髪が長めなので目が隠れがち。でも切れ長の鋭い目をしている。前から見た顔はぼんやりしているけど、横顔はわりとはっきり見える。鼻もそこそこ高めで、綺麗な輪郭をしている。背は180センチはないと思う。大介は172センチくらいだったけど、大介より背は高い。すらっとした体型だけど、程よく筋肉はある感じ。ムキッとした筋肉質な体型が好みな私には少し物足りないかな。
強いていうなら、旅人のあの人に似ている。白いカバさんファミリーや、森の妖精と交流のあるハーモニカを吹いている旅人。ふらりと現れるところなんかも似てるかも。よく音楽の話もしてくれるから、アコーディオンを持っていそうな雰囲気もある。
ユウにスカーフをつけて、帽子を被せたらきっとそっくりだ。
幽霊でも生き霊でも背後霊でもないなら、私の妄想なのかなと思い始めている。でも好みの顔や体型にはどうしても見えない。
某アイドルグループの男の子の顔が好みなんだが、全く顔の作りが違うし、寄せることもできない。イケメン海外俳優さんにしてみようかなと思ってみても、全然顔は変わらない。こんなボロボロのジーンズも好みじゃない。
なんでこんな風に見えるんだろう。
「破けまくってて足寒くない?」
「寒くないよ」
「こんなボロボロで……もしかして金欠?貧乏なの?」
ユウはぷっと吹き出して笑った。
「違う違う。こうゆうファッションなの。わざと破いてるんだよ」
「わざと破くの!?」
「うん、そうだよ」
「膝小僧が丸見えだよ。スースーしそう」
そう言うとユウは楽しそうに笑っていた。
なんとも珍しい格好なのだ。今の流行りでもないし、昔の流行りでもない。不良男子達がこぞって真似をするズリ下げ腰パンで、中のトランクスまで丸見えスタイルよりはマシかなと思うけど……スカートにジャージがインの私に言われたくないか。
ガン見行為が苦しくて、保健室に逃げ込んだ時もユウと沢山話をした。
最近気になっている事を聞いてみた。
「ねぇ、前に前世が〜とか言ってたじゃん?」
「うん」
「前世で何か悪いことでもしたのかな?ほら、因果応報とか言うじゃん。何も悪いことしてないのに、何でだろうって思ってさ。最近読んだ漫画でね、前世の影響が今世にも出るとか、そんなことが書いてあった」
「君は悪いことなんてしてないよ。田口とは魂の接点がほぼないんだよ。稀に事故のようなことも起こるんだ」
「事故なの?」
「魂には計画があってね、青写真のような計画書を作るんだよ。でも全てがその通りには進まない。突発的な事故に巻き込まれることもあるってこと」
「そうなんだ」
「そうだよ。影響を受けてる場合ももちろんあるけど、彼とはないよ。ある意味ではこの状況を選んでしまった事にはなるけれど……うーん」
「選んでる?」
ユウは少し考えている様子だった。
「選んでるって、私がストーカーされる事?」
「うーーん、それは少し意味が違うかな。違わないとも言い切れないけど……。全ては選択の結果なんだよね。君は……ある目的のためにこの場所に生まれている。本来なら違う場所だったはずなんだが、生まれ変わる直前に場所を変えたいと言い出したんだ」
「そうなの?なんで?」
「ある人を守るため」
「誰?」
「それはまだ教えられない。自分で気づく時が来るよ」
「ほえ〜、全然見当もつかないな」
「僕たちは最初の予定図とは大分変わってしまったんだよ。ある目的の為に2つで1つの人生にする計画だったんだけど、1つ目、所謂前世でかなり大きく変わってしまったんだ」
「どんなふうに変わったの」
ユウは少し悩んでいた。
「僕が失敗したの」
「え?」
「僕が失敗したせいで君はここに来ることになったんだと思う。君は詳しく話してくれなかったから、細かいことまでは知らない」
「魂が繋がってるなら、分かるんじゃないの?」
「全てはわからないよ。許可してくれなければ。蟠りがある状態なんだ。でも双子は蟠りがあってはうまくいかない。お互いの全てを受け入れなくてはならない。自分自身だから。僕達が一緒にいる為には全ての問題を、カルマを解消しなければならないんだよ」
「カルマ??」
なんだかよくわからない話しだなと思った。
ユウは難しい話しだから、また今度詳しく話すと言った。今の私に話せることは少ないんだとか。
「他に話せることってないの?」
ユウは少し悩んで唸っていた。
「うーん……いつか歌ってあげるよ」
「は?」
「君の気持ち、全部」
「え?」何?急に歌の話?前も音楽が〜とか音がが〜とか言い出したことかあった。
「何で歌なの?」
「君がこの世界で最も愛しているものだからさ」
音楽は大好きだ。辛いときはずーと音楽を聴いていたい。好きな海外アーティストの曲を5時間リピートしてたら、隣の部屋の六花に「いいかげん、別の曲にしてくれ」と言われるくらい聴いていられる。
小さい頃からピアノも習いたかった。何度も頼んだけど習わせてもらえなかったな。
「前世でピアノを弾いていたよ」とユウが言う。同じような楽器があるんだと言った。
「君が僕を音楽の世界に引き入れたのさ、僕達は音で繋がれる」
「ふーん、歌ってくれるの?いつか?」
「うん、生きている僕が歌ってくれる」
ーーーーー生きている僕??
「生きている僕も音楽が大好きなんだよ」
「ちょっと待て待て……え?生きてんの?」だって生き霊じゃないって話だろ。
「僕は意識、生きている僕の潜在意識、エーテル体というくくりになるのかなぁ。言葉にすると表現が難しいよね」
パンプキンの頭がおかしいって思ってたけど、自分もおかしくなってきたのかもしれない。
だってユウが生きてる?そんなわけないじゃない。 エーテル体って何だ?潜在意識?
あまりにも辛い事が多すぎて、ユウが実際にいればいいのにとか思い始めて、ついに夢物語を見始めたのかも……。
「夢物語じゃないよ。僕は存在してるんだ」
「怖いって、勘弁して。私の妄想君」
「妄想じゃない」
「妄想だって。昔から妄想激しいって言われてた。想像力がありすぎて、ないものが見えるって」
「それは見えない人、こちらの世界を知らない人の意見だよ」
「違うって」
「君のお爺さんには見えていた」
「おじいちゃんは……よくわかんない」
「忘れようとしたんだよね、普通でいろと言われてきたから。周りを怒らせないようにするために、無かったことにしようとした。でもすべて現実だよ」
頭がおかしくなりそうだったので、一度話すのをやめてもらった。
ユウは現実逃避をしたい私が生み出したのかも。でも、それなら何でおじいちゃんには見えていたんだろう。別の何かが見えていたとか?色んな考えがグルグル回っていた。
考えているうちに、いつの間にか保健室でぐっすり眠ってしまっていた。




