12 おじいちゃん
冬休み中は学校がないので、ストーカー被害も落ち着いていた。
冬休み開けは席替えがあり、アイツとの席は離れた。氷点下を記録するこの街では、凍えてまで跡をつけまわすのも大変らしく、待ち伏せも無くなった。今は痴漢行為をされるにとどまっている。
しかしアイツのせいで男嫌いが加速した。父の影響もあったと思う。元々あまり好きではなかったが、大介の事は好きだったという矛盾を抱えていて、馬鹿みたいで笑う。
今後は一切男という生き物にかかわりたくない、全員まとめて消えてくれないかなと時々極端な考えに走ってしまう。1年前のノストラダムスの大予言の時に地球は、いや男だけこの世から滅亡してしまえばよかったのだ。
ユウは「僕だって男だよ」というが、欲望剥き出しの哀れな変態どもとは比べものにならないと思っているし、そもそもユウには身体がないじゃないか。
ユウのように何もなくても、ただ側にいてくれる存在は貴重なのかもしれない。わたしの想像の産物だとしても。
ユウのことも聞きたいし、おじいちゃんの家に行ってみようかな。
ぼけてきているけど、お花や畑の手入れはいつも綺麗にされている。時々ふらりと何処かへ出掛けている時もあるみたいだ。
勉強が思うように捗らないし、今日は大雪になるとニュースでやっていた。最近顔を合わせていなかったけれど、雪かきの手伝いだと言って様子を見に行こう。
広い敷地は除雪されて積み重なった雪の塀が出来ていた。除雪機を買おうかと検討しているが、いらないと話しているらしい。おじいちゃんは頑なに家族と住みたがらないし、助けも必要としない。元気なうちは全て自分でやりたいのだとか。人の世話になるのか嫌いな人なんだと父は話していた。
それでも老いはやってくる。元気だけが取り柄だなんて言ってても、沢山薬を飲んでる事を知っている。
去年は頭が痛いと話していて、頭に軟膏を塗っていた。何日も頭痛が続くと話すので、心配した父が病院に連れて行くと脳梗塞になっていた。
父の事は嫌いだけど、機転を聞かせて助けた事はグッジョブだって思ってる。
雪かきは重労働だ。若い私でも1時間もしたらクタクタになるし、手や足の感覚がなくなるくらい寒いので、これ以上外にはいられない。鼻の中やまつ毛も凍る。でも、あー寒いって言ってることか結構好きだ。キンキンに冷えて頭が冴えてくれる。
シンシンと降る雪の中で、ただ黙って立っていると、どこか遠くへ行けそうで……。
「そろそろ入らないと風邪引くよ」とユウが言う。
もうちょっとこうしていたい。
ユウが雪に手を伸ばした。薄手のコードにボロボロのジーンズだから真冬とミスマッチしている。見ているだけで寒そうだ。
「だいぶ、積もりそうだね」
「うん」
雪かきをした側から、また雪が積もりだしてゲンナリする。スコップを置いて家に入る事にした。
「めっちゃ寒ーい」
頭や身体に積もった雪を玄関で払って、ストーブに直行。真っ赤に塗った指先が、霜焼けになっていて痒くなって痛い。
「だめだわ。また積もってきた」
「いいよ、おじいちゃんがやるからね」
「じいちゃん、除雪機買おうよ」
「雪かきがいい運動になるんだよ」
そう言うと、用意していたお菓子と温かいお茶を出してくれた。
小さい頃は冬になると、かまくらや滑り台を作ってくれた。ソリ遊びや、肥料を入れるビニール袋を使って滑り降りる事が大好きだった。そんな私達をおじいちゃんはいつも微笑ましく見てくれる。
もっと大きな滑り台がいいなと妹と話していると、数日後いつの間にか滑り台が長くなっていたこともあったっけ。
「六花ちゃんは元気でいるかい?」
「元気だよ。ダンスの練習が忙しいみたいで今日は来られなかったんだ」
「明里ちゃんは勉強の方はどうだい?」
「頑張ってる」うん。頑張ってるところ。
「そうかそうか、立派だねぇ」
大したことがない事でも、よく褒めてくれる。
おじいちゃんはこんなに優しいのに、父とはどうしてこんなにも違うのだろう。全然親子とは思えない。 祖父は手を挙げたことはなく、怒鳴る事も無かったと聞く。
「恵一はどうだい?」
「お父さんは変わらずだよ」
「そうかそうか」と言うとポツラポツラと話し出した。
「あんな子でごめんね」と言う。「あんな子に育ててしまって……甘やかし過ぎてしまったのかなぁ。根は良い子だと思うんだ。でもなんだかなぁ、人とのコミニュケーションが苦手な子なんだよ」
私は祖父の話しに、ただ耳を傾けることしかできなかった。
「あの子を、正彦を見捨てないでおくれ」
「え?」
「悪い子じゃないんだ、正彦は。どうか見捨てないであげてくれ」
悪い子じゃないのに、機嫌が悪いと暴言を吐いて、人を殴るのか。複雑な気持ちで聞いていた。もしかしたらお母さんとわたしを間違えて話しているのかも。
「突然どうしたの?私は明里だよ。おじいちゃんの孫だよ」
「わかっているよ」
わかってんのか。分かっていて、あの特級呪物みたいな父をお願いされているのか……。それだけはマジで勘弁してほしい。
「明里ちゃんが見捨てたら、あの子の周りにはきっと誰もいなくなってしまう」
「でもそれって、自業自得だよね。人が離れてくのは理由があるんだから」
「そうだね」と祖父は言った。
「あんな子でもね、大事な息子なんだよ」
父が羨ましくなった。こんなに思ってくれる両親が私にはいない。
ユウも一緒にいるのに、一向にその話題にはならなかった。
「おじいちゃんて見える人だったよね?」
「はて?」
「昔、変なこと言ってなかった?猫を連れてきてるとか」
「あぁ、そんなこともあったねぇ」
「それって猫の霊って事だよね」
「そうだねぇ」
「今は?何かいる?」
「いいや、今は何も憑いてないよ」
「何も?」
「うん、強くなったねぇ」
強くなったのだろうか……。
「本当に誰もみえない?」
そう聞くと、私をジッと暫く見つめた。
何も見えないと言う。見てえいない。ほら、やっぱり妄想なのかも。
「昔、男の子と一緒にいた事、覚えてる?」
「あぁ、そんな事もあったねぇ、いつも一緒に遊んでいたよね」
あれれ、あの子は見えてたのにユウは見えないの?歳をとってるけど同一人物の可能性も拭えないと思っていたが、やはり違うのか。
「見えなくなったんだよ、僕が見せないようにしてるの」と、また隣で変なことを言う。
「なんでよ、見えるようにしてよ」
「色んな人に見られて、詮索されると困るんだ」
「なんで」
「君自身に、生きている僕を見つけて欲しいから」
私は項垂れるしか無かった。
見つけろとか思い出せとかヘンテコなことを言う自称魂さんとかストーカーとか特級呪物の取り扱いとか受験とか……頭が痛くなる事ばかりだ。




