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10 ストーカー


 ユウの話によると、アイツの行動はストーカーだという。

 夏休みの前から始まっていたが、次第にエスカレートしてきたらしい。


 ひとまず友達に相談する事にした。

 杏樹と真由に話をしたが、よくわからないという様子だった。

 嘘をついてるとは思ってないけれど、実際に見てないから分からないという。わかる、私だって友達にこの話をされたらきっと同じ反応をすると思う。

 他の友達にも相談してみると、「気にしすぎじゃない?」と言われた。

「うん、自分も最初そう思ったの。だから相談出来なかったんだ」

「そっかぁ、ん〜じゃあ、確認のためにあいつ監視してみようか」

 まずは、確認作業になった。友達はできるだけ私から目を離さないようにしてくれるらしい。


 2日がかりでの調査の結果、次々と起こる事実に友達は気持ち悪がっていた。

「やっぱ本当だったでしょ」

「キモいんだけど、マジで」

「アイツ、ヤバいやつなんじゃない?」

 前の席の子に無理を言って、アイツお得意の『ガン見』も友だちが確認済みだ。前の席からもアイツの気持ち悪い、浮き出るような目を確認できたという。

 周りの子もアイツの監視をしてくれていた。

「キモすぎる」真由とさりちゃんが言った。

 そうなのだ。キモいのだ。授業中になんて集中できないくらいに。

「あのパンプキン、頭おかなんじゃない?」

「パンプキン、こっち見んなよ!」杏樹がアイツに聞こえるように言った。友達と話している時もアイツは見てくる。

 パンプキンとはあいつ通称名だ。

 本名、田口和秀。

 アイツの名前を呼ぶことすら気持ちが悪いので、パンプキンのような形をした髪型からそう名付けた。

 友達が睨むとパンプキンは顔を上げた。でも授業中はまたガン見を始める。


 どうしても辛くなった時は、保健室に行く事にした。


 今日は杏樹が途中まで一緒に帰ってくれる事になった。これから塾なのに申し訳ない。

 2人でお喋りしながら帰っていると杏樹に肩を叩かれた。

「ねぇ、うそでしょ、マジでいるんだけど」

 また本屋で待ち伏せをしているパンプキンを見て、杏樹は口をパクパクさせていた。杏樹の美しい顔立ちが驚愕の表情に変わっていく。私の横に杏樹がいたからなのか、パンプキンはそそくさと退散していった。

 パンプキンの家は逆方向なのだと真由が教えてくれていた。この本屋に用事はないはずだと言ってた。


 やっと信じてもらえたけれど、ストーカー行為は止まらなかった。

 どんどんエスカレートしていく。

 帰り道、友達は用事があって一緒に帰れないこともある。でもユウもいるし、気をつけていれば大丈夫。


 その日は本屋にパンプキンの姿はなかった。ホッとして暫く歩いていると、ゾワッと寒気がした。

 恐る恐る振り返ると、真後ろにアイツが立っていた。

 固まってそのまま立ち止まってしまった。アイツも動かなかった。動きたいのに足が言うことを聞いてくれない。アイツは突然靴紐を結び直し始めたかと思ったら、近くの自販機を眺め始めた。カバンを下ろしてゴソゴソとまさぐっている。そしてまた肩紐を直し始めた。

 こっちが気づいてないとでも思っているのだろうか。偶然を装ってるつもりなのか?

 何とか言葉を絞り出して、「何なの?どうゆうつもりなの?」と話しかけても一言も話さない。

「なんで、つけてくるの!」

 何を言っても一方通行の言葉は虚しく消えた。

 あいつは、ただジッと見てくるだけ……。いよいよ本気で頭からがおかしいんじゃないかと思い始めた。パンプキンの思考回路がどうなっているのか全くわからない。恐怖は増すばかりだ。

 私は全速力で逃げた。

 巻けたかなと周りを確認すると、電柱から人影が見えた。

 いるーーーーー。


 「大通りか、人通りが多い場所まで行って」とユウが言った。

 学校方面に逆戻りだが、大通りを目指した。

「大通りなら、ひと目につくはず、大胆な行動にはうつれない」

 指示の通り大通りを歩き、反対側に渡るように言われた。

 私が渡ると、アイツもこちら側にうつった。

「もう一度、向こうに戻って」

「わかった」

 向こう側に戻った。アイツも戻ってきた。

「ついてくんじゃん、どーすんの」

「もう一度、渡って」

「うん、わかった」

 それをさらに3回も繰り返した。全部ついてこられた。どうするのよ?

「そこのコンビニへ入って」

 コンビニに入って、本を読むフリをしてあいつが通り過ぎるのを待った。

 無事通り過ぎてくれたのを見届けられたけれど、暫く様子を見なければならない。暫く立ち読みをした。疲れもあったので休みたかった。飲み物でも買って帰ろうと思い、店内を物色していたその時、また嫌な空気を感じたーーーー


 棚の端で、でかい図体をしたかぼちゃ頭がこっちを見ながら佇んでいる。

 怖くて足がガクガクする。おにぎりやお惣菜が売ってある1番奥の棚に移動した。あいつも同じ棚に移動してきた。

 どうにもならなかったら、コンビニのレジをしてるおばちゃんは助けてくれるだろうか。

 別の陳列棚に移動しようとした時、コンビニの外に六花の姿が見えた。

 慌てて店内を出た。


「六花!!助けて」

「どしたの?」

「あいつが!ストーカーが!コンビニに!」


 パンプキンがコンビニからヌルッと姿を表した。こちらを凝視しながら。

 六花もその友達数人もパンプキンを見て悲鳴を上げた。そして口々に罵る言葉で責めた。

 パンプキンは表情を変えないまま、踵を返して去っていった。

「次やったら交番に行くからな!」と六花が言い放った。

 六花は姉がストーカーされているんじゃないかと友達に話していたらしく、アイツの情報も探ってくれていた。

 六花の友達の1人は同じ卓球部の後輩だったらしい。 どんな奴なのか聞くと普通だといった。

「でもずっと前なんですけど、好意を持たれた先輩が合宿中に田口先輩にキスをされそうになったって騒ぎになった事あります」

「うわっ」

「明里先輩と同級生の先輩ですよ」

 その日は六花と一緒に帰る事になった。会えて本当に良かった。


 電話で今日あった事を杏樹と真由に話した。

そしてキス事件のことも。明日、その子に聞いてみることになった。

 被害に遭いそうになった子は別のクラスの子だった。田口の名前を出すと、心底嫌そうな顔をした。

 キス事件は本当で、2人きりになった時に突然迫られて危なかったのだと言う。友達がたまたま通りかかったから難を逃れたと。


「あいつ、ヤバいから関わんない方がいいよ」

「勝手に付き合ってると思い込んでたみたいなんだよね」とその子の友達が言った。

「そうそう!キモい!」

「いつそうなったんだよって感じ!」

「超、勘違い野郎だから気をつけなよ」


 他にも色々あったらしいが、痴漢行為やつけられるということは無かったという。

 私は血の気が引く思いで聞いていた。

「何かあったら言いな」と言ってくれた。


 担任の先生にも相談してみる事になって話だが、そんな事をする奴には見えないと言われた。勘違いではないかと。席替えの希望も却下された。信じてもらえないのは辛い。

 ついでに大介にも話してみようという事になった。

大介とは帰り道、一緒だったこともよくあった。でもキャンプのあの事があってから一言も話はしていない。もちろん彼女と帰っているし、話しかけられるような雰囲気ではなかった。でも、もうそんな事を言ってられない。

 彼女も友達もいない時を見つけて、杏樹と真由と3人で移動教室の廊下で話しかけた。

「ちょっと相談したい事が」と言うと、私達をみるやいなや、気だるそうに返事をした。

「ちょっとだけ」と真由が大介を階段の方まで連れて行く。

 田口にストーカーされているんだが、あいつがどんな奴なのか知っているか聞いみた。

 最初はギョッとして驚いていたが、「時々話すけど、普通の奴だよ」という。特に目立つわけでもなく、だからといって暗いわけでもないという。可もなく不可もないような奴だとか。

「でも見られたりとか、つけられたりとかしてて」

「明里が?ほんとに?」大介はちょっと鼻で笑うように言った。

「うん、言いたいことは十分分かるよ。私自身が1番疑問に思ってるのでね。でも今重要なのはそこじゃないんだよ」

「ストーカーとか、見られてるって……ちょっと自意識過剰じゃねーの?」

 寝たふりしててね、こうやって見られてるんだよとゼスチャーで教えたが、全くピンときていないらしい。

「時々でいいんだけど、明里と一緒に帰ったりとかは出来る?家近いじゃん」杏樹が代わりに聞いてくれた。

「う〜ん……無理かな。彼女嫌がるし」

「そうだよね、ごめん」

 彼女という言葉が胸につき刺さった。


 辛い時は保健室を利用した。キリキリと痛む胃が保健室に行くと何故か治る。

 操先生は少しふくよかで、どっしり構えていてくれる頼りがいのある女先生だ。頻繁に行くようになった為、先生は何かあったのかと聞いてきた。

「受験のストレスかー?」

「それもあるかも、試験も近いし」

「今でこれだと本番危ないよ。しっかりせい」

 先生は励ましてくれた。私の最近の様子を気にしてくれているのか色々と聞いてくれる。

 ベットから起き上がって、制服を整えていると、

「本当に受験のことだけ?生理きつい?」

「それもあるけど……」

「どした?悩み事?聞いてあげれることなら、聞くよー」

 先生のやんわりした雰囲気に呑まれて、何となく話してみることに。

「変なやつに付きまとわれてて、触られたりしてて、つけられてたりとか……キツくて」

 先生は仕事をしながら話していたが、くるりとこちらを向いた。先生は真剣な面持ちで「大変じゃないか」と言った。

 操先生は卓上の仕事を放り出して、ベットに腰掛け、私の方を見て話しをしてくれた。

「痴漢されてるの?」

「痴漢?ていうかストーカー?」

「誰?どんな人なの?大人の男性?」

「クラスのやつ」

「うちの生徒なの!?」

「うん」

「誰?」

「……田口」

先生は田口の記憶を辿っているみたいで、考え込んでいた。

「普通の子ってイメージだわ」

「みんなそう言う。でも友達も確認してくれたけど、あいつおかしいって」

 どんな事をされてるのか聞かれたので詳しく話した。先生の顔がどんどん険しく曇っていく。

「エスカレートしているなら、危険だよ」

「うん……」

「親御さんに送り迎え頼みなさい。先生から田口君に話してみるから」

 なんて心強い先生だろう。なんとか話しをつけてみると言ってくれた。一発で信じてくれた人は初めてだったので、泣きそうだった。

 そろそろ戻らないといけない時間だったので、保健室を出ようとした時、呼び止められた。

「あとね、大事な話……最悪のことが起こったら必ず先生に相談しなさい。証拠はできるだけ残しておきなさい。真っ先に先生に頼りなさい。いい?」

「最悪のことって何ですか」

「性暴力があった場合、病院での処置も早い方がいいのよ。今までの学校でも被害に遭った子が何人かいたの。だから被害に遭ったら必ず言いなさい」

 先生の話すことが、怖くてたまらなかった。


 次の日、朝早々に操先生から保健室への呼び出しがあった。

 あの後すぐに田口を呼び出して、話をしてくれたらしい。先生の素晴らしい行動力に乾杯したい。

「あの子、何もしてないって話してた」

「え?」

「勘違いじゃないかって」

「そんなはずありません!」

「うん、様子のおかしい子だった。先生の感だけど、かなり危険だと思ったの。これで止まればいいんだけど……まだわからないから、暫くは1人で帰らないで」

 担任の先生にも話してくれたらしく、快く返答してくれたという。絶対嘘だ。あの担任は面倒なことはやらない。


 操先生のおかげなのかここ1週間ほどはストーカーが全くなくなり、快適に過ごす事が出来た。


 しかし、まだ何するか分からないので、念のため母に頼んで車で迎えに来てもらうことになった。ついでに六花も乗って帰る時もある。

 母も最初は疑っていた。

「そんなの大したことないじゃない」と言われて、何と返していいかわからなかった。


「ねーちゃんてさ、変なやつばっかに好かれるよね。前もさ、付きまとわれてたじゃん」

「うるさい」

「なーんであんたなんだろうね」と母が言う。

「わっかんないよ。スカートにジャージ履いてるし、言葉使いも悪いし、まったく女の子らしくないって言われんのに。なんでって思ってる‼︎」

「なんか変な気、放ってるとか?」

「知らんがな」

「逆にめちゃめちゃ可愛い恰好してみたら?」

「ぜってーヤダ」


 女の子らしい格好なんて絶対したくない。普段の服装だってダボっとした服やジーンズばかりだ。

 あーでもないこーでもないと話していると、家の近くでパンプキンの姿を見つけてしまった。冗談だろ。

 車の中で「あいつだよ!お母さん!」と騒ぐ六花。

「よそ見できないでしょ」運転しながら「どんな子なの!?」と確認しようと車を路肩に止めようとする。

「停めたちゃダメー!!!」お母さんもパニックで、走り出したその先の赤信号をつっきってしまった。

「危なっ」「きもっ‼︎」「お母さん安全運転!」と私達は小さい軽自動車の中でギャーギャー騒いだ。

「車で迎えに来てもらって正解だよね。操先生すごいな」と、六花は興奮しながら言った。

「ギャー!見て!鳥肌が立ってるし!」六花が、見ててみてと腕を助手席に突き出した。

私もうんうんと激しく頷くいた。ずっと鳥肌がたったまま収まらなかった。


 警察に行った方がいいのかもしれん。という話しになったが、「そこまで大事にすることなの?」と母は言う。

 そう言われると、そうなのか?私達の意見は割れていた。結局警察に行っても何か起こってからでないと動かないと操先生が教えてくれた。何か起きてからって……何のために警察っているのよ。万が一でも死んでからでは遅いのでは?


 暫くは車で送り迎えしてくれることになった。しかしそれを快く思わず、甘えだと罵る人間がうちにはいる……。

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