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青みかん  作者: リュウ
15/17

酔っ払いのタワゴト

 俺の両親は酒癖が悪い。特にお袋は、大して酒が強いわけでもないのに親父以上に飲んでいるからウンザリしている。

 休日の前夜は両親とも、仕事から解放されたように飲酒している。親父はお袋が自分より酒に弱いことを知っているため、一緒に飲みながらもお袋に飲みすぎないようにと忠告している。

 だがお袋はそのときには既に泥酔しているため、「別にいいじゃない」とへらへらしていたり、隣に座っている親父に対して「もっと一緒に飲みたいの」と甘ったるい声ですり寄るばかりで、全く通用しない。

 お袋がそんな泥酔状態で話す内容も酷いものだ。最近の仕事の愚痴ならまだマシで、昔の自慢話を引っ張り出すことがしょっちゅうなのだ。

「アタシ、昔はすごくモテていたのよ。付き合った人数なんて数え切れないくらい」

なんて話をするのだ。

「親父、お袋があんなこと言っとって平気なん?」

お袋ほど酔っていない親父にそう聞いたこともあった。

「お母さんの昔のことは知ってっがらな。おらも昔は相当遊んでだし」

親父がそう言っていたので、俺は余計なことを聞くんじゃなかったと後悔した。そして、遊んでいるのは昔じゃなく今もだろと思った。

「そうそう。お父さんとは出会ってすぐに意気投合したのよねー。同じタバコを吸っていたし、お酒の好みも似てたから。だから、そのまますぐに−」

お袋がへらへらしながらそう話し始めた。それだけでなく、さらに親父にすり寄って、服を脱がそうとシャツのボタンに手を伸ばした。

 とっくに泥酔しているのだから、理性は完全になくなっているのだろう。中学生の息子が目の前に居るという意識があったら、こんな真似はしないはずだ。お袋に、俺の姿は見えていないのだろうか。

 俺は、これ以上ここに居てはいけないと思い、自分の部屋に逃げたくなった。すると親父が

「さすがにこれ以上飲んではいげね」

と言い、お袋を椅子から引き剥がした。そしてそのままお袋を抱えて寝室に運んだ。これができるほど余裕があるということは、親父はまだ大して酔っていないのだろう。お袋と違ってとんでもないザルだと感心している自分がいた。

 しかし、親父はお袋を寝室に運んだ後はまた一人で飲酒するのだった。お袋と違って、親父は酔うと俺にまつわり付くようになる。それもそれで鬱陶しいし気持ち悪いが、背負い投げれば離れることができる。

 親父も酔い潰れるまで飲むことが殆どなので、本当はお袋のことを言える立場ではないのだ。そしてその親父を寝室まで運ぶのは俺だ。親父が酔い潰れる前にお袋を運ぶのはまだマシな話で、二人とも酔い潰れて俺が二人同時に寝室に運ぶこともよくあるのだ。


 こんなことになるまで飲酒されていらない。そう思った俺は、大量の飲酒を止めさせるために策を練った。自分の親が酒のせいで死んだら困るからな。

 そう考えながら俺が思いついた作戦は、少し陰湿なものだった。でも、有効なものだったら手段を選ばなくても構わないだろうと思い、実行しようと決めた。これは、俺にとっても多少不愉快な方法だが…。


 お袋は週末に、いつものように食卓で親父と飲酒を始めた。俺は、それに口出しをしなかった。そして、両親にばれないように録音機のスイッチを押し、ポケットの中に隠した。

 案の定、この日にお袋が話していた内容もとんでもなく下品なものだった。俺は、その話を聞いていて不愉快だったが、作戦を実行するためならと黙って耐えた。

「看護学校時代が懐かしいわ。楽しかったあの頃に戻りたーい。お父さんとも出会えたし。10代で妊娠しちゃったから、学校や家族には怒られちゃったけど。でも、こんないい男逃がしたくなかったもの」

えっ、お袋って10代で俺をできちゃった婚していたのか⁉︎しかも、当時から飲酒喫煙していたって言っていたよな⁉︎もしかして、俺に自分の年齢がばれないように隠してきたのはそのせいか?ずっと隠していたくせに、自らばらしやがったぞ。

 偶然にもこの発言を録音したのだ。後で問い詰めてやる。俺は、この日のお袋が酔い始めてから寝室に運ばれるまでの間、ずっと録音を続けた。知って嬉しい内容ではなかったし、自分のしたことに後ろめたさはあったが、いいものを残せたとニヤニヤしていた。


 その翌週、お袋はまたいつものように晩酌を始めた。俺はそのときに、以前使った録音機を持ち出した。

「お袋、自分が酔っ払って何を言っとったか覚えとる?」

俺はそう言って、録音機を再生した。

「お袋って、10代の頃に俺を妊娠したんや?俺に年齢を隠しとったんって、それが原因?」

俺は、静かに笑いながらそう聞いた。お袋は、俺の言葉と録音の内容に言葉を失い、激しく動揺した。

「あんた、なんてことしてくれるのよ‼︎」

お袋は、激怒してそう叫んだ。

「この話って、全部本当?」

俺は、顔色を変えずにそう聞いた。

「ばれたなら仕方ないわね。ええそうよ。アタシは学生時代、10代の頃から飲酒喫煙して遊びまくった末にアンタを妊娠したくらい素行が悪かったのよ!」

お袋は開き直って、大声でそう白状した。泥酔して自分の昔の愚行をばらしているのだから、素行が悪いところは今でも変わっていないと思うけどな。

「何でこんな話をするくらい飲んだんさ?」

俺は、素直に自分の疑問をぶつけた。

「仕事が大変で学生時代が懐かしくなったのよ!疲れを取るためにお酒を飲んで何が悪いのよ‼︎」

お袋はそう怒鳴ったが、俺は怯まずに

「いや、問い詰められて困るようなことを言っとるんやで問題あるやろ」

と言った。

「だいたいアンタみたいなガキにそんな心配されていらないのよ!」

お袋はそう言って、俺にされたことも忘れたようにやけ酒を始めた。

 その様子を隣で見ていた親父には、

「お母さんが心配なのはわがるけど、こんたことするのは良ぐね」

と言われた。そして独り言のように

「んだども、おらも飲みすぎねようにしねとな」

と言っていた。しかし俺は、親父が本当に酒の飲み過ぎを改善してくれるなんて期待は微塵もしなかった。

 この人に、出会った頃のお袋が10代だったことを知っていたかを聞くのはやめておこう。知っていたとしても知らなかったとしても、俺をできちゃった婚したという困った結果にに変わりはないのだから。

 それと同時に、所詮自分もこんなバカな両親の遺伝子を持って生まれてきたのだと考えると、どうしようもなく悲しくなってきた。


 結局俺の作戦は逆効果に終わってしまった。そうわかって、自分のしたことに少し後悔した。そして、せっかく心配をしているのに、お袋にそれを否定されたことに腹が立った。もう、お袋や親父が酒の飲みすぎで死んでも俺は知らない。そうなっても俺の責任ではないだろうと思うのだった。

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