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青みかん  作者: リュウ
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中学入試

 ついに中学入試の日が来た。この日のためにずっと頑張ってきたのだから、気合を入れて頑張ろうと心に誓った。しかしながら、人生初の入学試験ということもあり、前日は不安や緊張感からなかなか眠れなかった。


 緊張したのは試験そのものだけではなかった。試験当日普段より早く起きる必要があったし、試験を受けるためには会場である学校まで一人で電車やバスに乗る必要があった。家族と一緒のときも電車に乗る機会が少なかった俺は、電車に乗り間違えないように、乗り過ごさないようにと意識させられた。


 無事試験会場に到着した俺は、緊張しながらも案内をしていた先生にしっかりと挨拶をして入場した。面接以外でも、服装や態度もしっかり見られていると思うから。

 筆記試験と面接のときのことは、落ち着くように自分に言い聞かせながらも緊張したので、ほとんど覚えていない。ただ、入学試験が全て終わり、無事に自宅に到着したときは心底ほっとしたことだけはよく覚えている。

 その後は帰宅してから疲れて夕食の時間まで寝てしまった。しかしそれから結果発表の日まで、合格できるか気になってずっとそわそわしていた。


 「晴男、放課後に一緒に遊ぼう!」

試験後の学校の昼休みのときに、貴雄が俺のクラスに遊びに来てそう言ってきた。

「ああ」

俺はその話を承諾したが、これまではなかったような複雑な気持ちを抱えていた。

 6年生になってからは中学受験の勉強が大切と思ってきたため、こうして遊びに誘われても断ってきた。

 それに、ずっと貴雄たちに中学受験を受けることを話していなかったくせに、塾や受験勉強のプレッシャーがなかった彼らがのんきだと思ってきたのだ。考えてみれば俺はそんな気持ちのせいで、彼らを遠ざけてしまっていたかもしれない。中学受験の話はまだできそうにないが、このことくらいは謝るべきだと思った。


 放課後、待ち合わせ場所の学校のグラウンドに行くと、貴雄と博哉がすでに集まっていた。

「待たせてごめんな」

俺は二人にそう謝った。

「いや、俺らもさっき来たとこやで」

貴雄にそう言われた。

 博哉は嬉しそうに

「こうやって遊ぶのって、久しぶりやない?」

と言っていた。

 久しぶりと言わせることになったのは俺のせいだ。だから、ちゃんと謝らないと。謝るためにもここに来たのだから。

「ごめんな。ずっと喋ること自体少なくて」

俺がそう言うと、二人は顔を合わせてきょとんとしていた。

「何で晴男が謝っとんの?」

貴雄は不思議そうにそう聞き、博哉には

「確かにクラスが離れてから会う機会が減って寂しかったけど、それはしゃあないことと違うん?」

と言われた。俺は、その言葉にほっとした。

 それから俺たちは、学校の遊具で遊んだり、お菓子を買いに行って一緒に食べたりして楽しい時間を過ごした。この時だけは、中学受験の結果のことをすっかり忘れていた。

「今日は楽しかったな」

解散する前に俺がそう言うと、貴雄に

「じゃあまた一緒に遊べばええやん」

と言われた。

 そういえば、これまでは柔道と空手を辞めて、その稽古をしていた時間を受験勉強のために使ってきたが、もう入学試験が終わったから、その時間は自由に過ごして構わないのだった。

「そうやな。これまで、誘ってくれても断ってきてごめんな。これからは、いつでも誘ってな」

俺はそう言った。

「そういえば晴男、前より忙しそうにしとったように思うけど、何かあったん?」

博哉にそう言われてどきりとした。どう返そうかと困ってしばらく考えた俺は

「うん、ちょっとな…。話せる時になったら話すな」

という曖昧な返事しかできなかった。

「そうか。じゃあ、その時まで待っとるな」

二人にそう言われ、この日はこれで解散した。


 「晴男、中学受験の結果の通知が来たわよ」

それから数日後、おかんが俺にそう言って通知をよこしてきた。俺は、ついに来たとどきどきしながら、その通知を開封した。

「どうだった?」

そう聞いてくるおかんがうっとうしいと思った。

 俺は、中の書類にあった文字を見て、一気に絶望のどん底に突き落とされた。ただ、こうして黙っているだけではいけないと思った俺はただ一言

「落ちた」

と言った。おかんのことだから、この結果を責め立ててがみがみ言ってくるだろうと身構えたが、ただ一言

「残念だけど、仕方ないわね」

と言ってきただけだった。

 それでも俺は気持ちの整理がつかず、悔しさから涙が溢れていた。この顔を誰にも見られたくなかった俺は、自分の部屋に飛び込んだ。

 不合格の通知によって、自分の身の程を知らされることになった。自分がこれまで勉強してきたことも、人間性も、自分の存在自体も全否定されたような気持ちになった。

 もしこのことを黙り続けていても、どうせどこかで話を流されて、地元の中学校に入ってからも同級生にばかにされるかもしれないと不安になった。

 でもせめて、貴雄たちにはこのことを全て白状しないといけない。俺は、泣きながらもそう腹を括った。


 「俺さ、貴雄たちに話さなあかんことがあるんや」

入学試験の結果が来た翌日、俺は登校するときに貴雄と博哉にそう話した。

「話が漏れると嫌やから、今日の放課後、俺の家に来てもろてええやろか?」

俺がそう続けると、二人には

「そんな深刻な話なん⁉︎」

と驚かれた。しかしすぐに、

「じゃあ行くな。そういえば、晴男の家に遊びに行くのって久しぶりやな。」

と返してもらえた。

 それから学校に到着してからも、俺は気分が晴れなかった。周りの人たちは、俺が中学受験をしていたことも、それに失敗したことも知らないはずなのに、きまりが悪い気持ちでいた。こんな暗い顔ばかりしていたら悪いことがあったとばれてしまうかもしれない。そう意識しながらも、ずっと落ち着かなかった。


 そして放課後、俺は帰宅してから、貴雄たちを招く準備をした。突然家に友人を招くことになったが、両親は夜まで帰ってこないから問題ないはずだ。

 台所にあったお菓子を取り出していたら、家の呼び鈴が鳴った。俺は、早く出ないとと思ったせいで、そのお菓子を手に持ったまま玄関の扉を開けてしまった。

「来たで。お邪魔します」

貴雄と博哉が揃ってそう挨拶をした。そして、俺が持っているお菓子に気づき

「もしかして、そのお菓子を俺らに出してくれるん?」

と大笑いした。

「まあな、じゃあ上がって」

俺は苦笑いしながら二人を家に入れた。

 俺は、そのお菓子を居間に置いて、お茶を出した。

「お菓子食べながらでええから、話を聞いてもらってええかな?」

俺は、重い空気にしないためにもそう切り出した。

「うん、何の話?」

俺は、6年生になってからのことを全て白状した。二人は、お菓子を食べながらもしっかりと俺の話を聞いてくれた。

「そうやったんや。頑張っとったんやな」

貴雄はそう言い、博哉は

「晴男は6年生になってからずっと元気がないような気がしとったから心配やったけど、そういうことやったんや」

と納得していた。

「俺、受験のためって二人のことを避けてきたくせに、それに失敗するなんて、最悪やよな。本当に情けない…」

俺は、そう言いながら泣いてしまった。二人には、

「そのことを怒ってへんよ」

と言われたが、貴雄には

「でも、何で俺らに中学受験のこと黙っとったん?」

と聞かれた。その言葉に罪悪感を抱いた俺は

「やっぱ、あかんことやったよな?話したら、俺らのこれまでの関係が壊れるような気がしとったんや。でも、結局俺から関係性を壊しとったんやよな」

と明かした。

「いや、晴男が決めたことなら何でも応援するのに」

貴雄がそう言い、博哉もうんうんと頷いた。

「ありがとう。高校受験は頑張る。やから、中学校に入ってからもよろしく」

俺はそう言い、少し気持ちの整理がついたような気がした。

「うん。俺らの方こそ受験勉強は晴男に頼ってばっかになるやろけど、よろしくな」

貴雄がそう笑い、博哉も

「これからは、また一緒に遊べるんやよな?そしたら、これまで会えやんかった時間も埋められるよ」

と言って笑っていた。

 中学受験に失敗して悔しいとばかり考えていたが、地元の中学校に入ったらまたこの二人と一緒に居られる。そう思うと、これからの中学校生活もそう悪くないかもしれない。全て話したおかげで、やっとそう思えた。

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