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青みかん  作者: リュウ
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憧れの別世界

 小学校の最高学年になった俺は、始業式のときに知った新しいクラスに絶望した。何故なら、貴雄や博哉といった親しい仲間たちとクラスが遠くなってしまったから。これまで小学校で過ごしてきて、必ず仲のいいやつがクラスにいたが、今回は初めてそう思えるクラスメートがいなかったのだ。

「晴男とクラスが離れるなんて、寂しなるな」

新しいクラス表を見て、貴雄がそう嘆いていた。そうか、寂しいのは俺だけではなかったのか。

「俺らがクラスバラバラになるのって、初めてやない?」

一緒にクラス表を見た博哉がそう指摘した。

「確かにせやな。俺、毎回博哉か晴男と一緒のクラスやったもん。二人とも一緒やったことも多いし」

貴雄がそう納得し、俺も

「そういえば、貴雄とも博哉とも違うクラスって、初めてやな」

と気付いた。

「俺ら、これまでずっと一緒やったのに、引き離されるんやね…」

博哉が冗談混じりにそう言ったが、笑えない話になった。

「でも、来年からは中学生やで、また一緒のクラスにならへん可能性も高いよな」

貴雄がそう言ったので、さらに寂しくなってしまった。

 俺だって、貴雄や博哉が近くにいないと何もできないわけではない。しかし、一緒にいることが当たり前のように思っていたので、これから自分がどうなるのか不安で仕方なかった。

 せめて大輔がいたらほっとするのだが、クラス表を見ても、新しい俺のクラスにその名前はなかった。

「寂しなるけど、休み時間は一緒に遊ぼな」

貴雄たちとそう言って別れ、俺は新しい教室に入った。しかしそのときに、自分は対して不運ではないかもしれないと思った。

 その教室には、ずっと前から気になっていた女の子がいた。俺と同じクラスになったことがなかったからまだ名前も知らないけど、これから仲良くなれるかもしれないと期待した。


 その後、例の女の子の名前が水島しずくと知った。教室の座席は遠いが、積極的に話をしてみよう。俺はそう思い、わくわくした。

 しかし、彼女の周りには常に友達の女子がいて、少し話しかけ辛かった。それでも、雨野桜子に振られた時のように、話もできずに終わりたくないと思った俺は、勇気を出して声をかけた。

「おはよう水島さん。一緒のクラスになるのは初めてやね」

俺がそう話しかけると、周りの女子たちが騒然となった。俺は、この雰囲気が苦手だ。

「確か、朝倉君やよね?去年の劇で魔王役をしとった」

水島しずくにそう返された。俺ってそんなにその印象が強いのか。そう考えると、少し複雑な気分になる。

「朝倉君って、本当にお菓子が好きなん?」

水島しずくにそう聞かれ、俺は

「せやな」

と頷いた。さすがに、一番好きなおやつが皮付きさきいかとは言えなかったが。

「そうなんや。私もお菓子好きなんや!」

水島しずくは嬉しそうにそう言っていた。ありきたりな内容だが、早くも気になる人との共通点が見つかって良かったと、俺は心の中でガッツポーズをした。

 それからというもの、水島しずくとはお菓子の話や、学校生活の話をすることが多くなった。向こうから声をかけてくることも少なくなかったので、俺のことを嫌ってはいないだろうと期待した。

 自分の気持ちを伝えて付き合うことができれば、彼女との時間がもっと楽しくなるかもしれないと期待した俺は、新しいクラスになった1ヶ月後に、彼女に告白をした。生まれて初めての告白だったから、心臓が破裂しそうなくらい緊張した。

 しかし、彼女には

「ごめん、私、好きな(ひと)がおんの」

と言われて振られてしまった。相手が誰なのだろうと気になってしまい、聞いていいものだろうかと迷っていたら、向こうからジャニーズの男の名前が出てきた。

 さらに、

「私、その(ひと)と結婚するって決めとんの」

と真剣な顔で言われた。

そう言われた俺は、「この女、真面目な顔してこんなこと言うのかよ」と思い、一気に気持ちが冷めてしまった。間違っても、ジャニーズになって彼女を振り向かせようとは思わなかった。


 それから、俺が水島しずくに振られたことはクラスの女子の間ですぐ有名になってしまい、教室に入るだけで

「あ、魔王の人や」

「魔王、しずくちゃんに振られたんやよな」

などと、ひそひそ言われるようになった。俺に面と向かって「魔王」と呼ぶ人はいなかったが、密かにそう言われ続けることになってしまった。

 水島しずくが俺をばかにすることはなかったが、気まずいだけでなく、周りの女子の視線が気になってしまって話せなくなった。

 そのせいでクラスの中での居心地も悪くなってしまい、俺は水島しずくに告白したことを後悔した。


 この時期に、塾に通っていた俺は、私立中学校の受験の話をよく聞くようになった。

「朝倉君は、中学受験するの?」

と、塾の先生に聞かれることもあった。

 地元の中学校に入ったら、俺のことを知っている人が多いせいで、居心地の悪い生活が続くのかもしれないと思った。それに、あんなひそひそ言ってくる女子と関わりたくないと思い始めた。

 それなら、真新しい環境で学校生活を始めたいと思った頃、中高一貫の男子校の存在を知った。

 そこでなら新しい人間関係を築けて、優秀な人が揃っている環境の中で自分自身も清らかになれるかもしれない。そして何より、女子と関わらなくて済む。そう思い、その男子校を受験したくなった。


 あまり乗り気ではないが必要なことなので、両親にそのことを伝えた。

「中学受験?あんた何考えてるのよ。勝手なこと言うんじゃないわよ」

おかんにそう言われてむっとした。しかしおとんはおかんをなだめるように、

「いや、そんぐれえのお金は出しでやれっがら、受けでいいんでねか?」

と言った。

「本当にお父さんって、晴男に甘いわよね」

おかんはそう膨れていたが、おとんが言うならと折れてくれた。


 中学受験を決めてから、勉強を優先するために空手と柔道を辞めることになった。楽しかったので少し寂しいが、元々自分の意思で始めたものではなかったため、いつ辞めても構わないと思っていた。

 しかし、野球は最近始めたものだったこともあって続けた。受験勉強ばかりの生活は息苦しいし、野球のときでないと、貴雄や博哉と確実に会える機会がなくなってしまうとも思ったから。

 その野球のときに、貴雄や博哉に中学受験の話はしなかった。二人は塾に通っていないこともあり、その話のせいでこれまでの関係が壊れてしまうかもしれないと思ったのだ。

 それに、もし受験に失敗してしまった場合、地元の中学校に入ってからその話を流されるかもしれない。彼らを疑うわけではなく、話してしまうとどこで話が漏れてもおかしくないと思ったのだ。そのため、俺は塾仲間にも学校の同級生にも誰にも話さずに、黙々と中学受験の準備を進めるのだった。

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