第六話 新たな試み
「よし、ロイもそろそろ素振りをやめて、実戦的な剣術をやってみよう」
そう言うと、父さんは静かに構えた。
「スゥー……はっ!」
――目にも留まらぬ速さだった。
瞬きをする一瞬の間に、剣の軌道が変わっていた。父さんは俺の方を振り返り、ニッと笑う。
「お前も、いずれできるようになるさ」
そんな父さんの背中を見て、心底思った。
……剣術、めちゃくちゃカッコいい!!
「父さん! 今のやり方教えて!」
「父さんが今やったのは『気』を使っているんだ。気について説明するのは難しいから詳しくは教えないが……要するに、気を意識しながら何度も剣を振ればいい」
「……気?」
「そうだ。まずは腹に気を集中させ、そこから足、腕、手へと巡らせていく。最初は難しいかもしれんが、何度もやっているうちに感覚がつかめるようになるはずだ」
よく分からないが……要するに、気を意識しながら素振りをするってことか。
俺の不満げな顔に気づいたのだろう、父さんは真顔になって言った。
「これまでの素振りは、体に剣を馴染ませるためにやっていたんだ。だがこれは『剣術を使うため』に振るものだ。目的が違えば、同じ動作でも全く違う鍛錬になる」
父さんの言葉の真意はなんとなくしか分からなかったが、とりあえず言われた通りに体を動かしてみることにした。
そのあと半日中練習を続けたが、昨日までの素振りとほとんど変わらなかった。
父さんは「最初なんてそんなもんだ」と豪快に笑い飛ばしていたが……正直、めちゃくちゃ悔しい。
異世界に来て「魔法だけ極めればいいや」と高を括っていた俺だが、ここで考えを改めた。
俺は、剣も極めてみせる!
⭐︎
カザール王国の都で母さんに買ってもらった本を読むうちに、この世界の構造がだんだんと分かってきた。
現在、この世界には三つの大きな大陸があるらしい。
人間が多く住む『アトゥム大陸』、亜人が暮らす『ケルヌン大陸』、そして危険な魔物と魔族が跋扈する『魔大陸』。
こんなところにもアトゥム神の名前が出てくるなんて、あの女神様、実はめちゃくちゃ凄い神様だったんだな……。知れば知るほど、あのポンコツな出会い方が謎に包まれていく。
人間が住むアトゥム大陸には、大きな国が五つ存在する。
俺たちの村の名前もわかった。『へーロス村』という、カザール王国の辺境に位置している村だった。
一番の大国は、勇者召喚の言い伝えがある『クレダナ王国』。もしかしたら、召喚された健斗や美沙はここにいるのかもしれない……。
クレダナと隣接している『レオウス王国』は土地が痩せているが、数百年前に討伐されたドラゴンの影響で『魔石』が豊富に採掘できるらしい。龍の遺産で国が潤っているのだから凄い話だ。
その魔石を独占しようと陰でコソコソ動き回っているのが、北にある『ワルデマルツ王国』。露骨に怪しい国だ。
そしてケルヌン大陸との境界にあるのが『シン王国』。かつての英雄シンが魔神と戦う拠点にした場所で、今では世界中の冒険者が集まるロマンあふれる国らしい。
12人の魔人を率いる魔神を倒した英雄シン……。この世界では誰もが知る伝説の英雄だ。
⭐︎
「ロイ起きてー! 魔法の練習しよ!」
「……あと5分眠らせて……」
「えぇー! 早く起きてよー!」
「あーもう、わかったよ! 起きればいいんでしょ!」
朝早く来ちゃダメだと言ったはずなのだが……リロ相手にそれを求めるのは諦めた。
「そういえばねロイ! ママから回復魔法を教えてもらったの! リロにはまだ難しいんだけど、ロイならできるんじゃない?」
「回復魔法!? やってみたい! やり方教えてくれよ」
「いーよー! ええっとね……」
不器用なりに一生懸命説明してくれるリロの教えをまとめると、回復魔法は「傷ついたものや変形したものを元に戻すイメージ」を強く持って発動させるらしい。攻撃魔法以上にイメージ力が重要になるようだ。
「なんとなく分かった気がする。やってみるよ」
足元にあった枯れた花に手をかざし、満開だった頃の姿を頭に思い描く。
「――ヒール」
詠唱すると、茶色く萎びていた花びらに少しずつ緑の生気が戻っていった。……が、あと一歩というところで光が途切れ、花は半端な状態で止まってしまった。
「あー! あとちょっとだったのにー!」
なぜかリロが悔しそうに地団駄を踏んでいる。魔力は十分残っているのに、なぜ途中で消えたのだろう?
「ごめんごめん、もう一回やってみるね」
別の枯れ木に向かって、再度唱えてみる。
「ヒール」
……やっぱり、さっきと同じ場所で途切れてしまう。
「んー、なんでだろうねー?」
リロが不思議そうに首をかしげた、その時だった。
「それはね、ロイ君のイメージ力が最後まで保ち切れていないからだよ」
「……へ?」
振り向くと、そこには優しげな笑みを浮かべた男性――リロの父親が立っていた。
「あ、いや……これは……」
「魔力『1』のはずの君が、こんな高度な魔法を使っているなんてね。驚いたよ」
気まずすぎる沈黙のあと、めちゃくちゃ質問攻めに遭い、あっさり秘密がバレてしまった。
リロの父親の名は、テルさん。
実は数年前まで、カザール王国の宮廷魔導士をしていたとうい超すごい人だ。退屈な宮廷生活に飽きて故郷のへーロス村に戻ってきたらしく、今でも時々国からお呼びがかかるらしい。父さんとも大の仲良しだ。
……つまり、テルさんにバレたということは、父さんたちにバレるのも時間の問題ということだ。
「あの……このことは、父さんたちには内緒にしていただけますか?」
「別にいいけれど……どうして隠したいんだい? 家族にすごい才能があるって知られたら、みんな喜ぶと思うけれど」
テルさんの問いかけに、ハッとした。
測定で「1」と言われて両親を失望させたと思ったから隠していたけれど、よく考えたら、魔法が使えると知って怒る両親じゃない。
「……確かに、隠す意味なんてないですね」
「ふふ、納得してくれたかい? 打ち明けるなら、僕も一緒に話してあげるよ」
前世の変な知恵のせいで「隠れチート」気取りになっていた自分がおかしく思えた。父さんと母さんには、ちゃんと本当のことを話そう。
⭐︎
「それで、ロイ君のヒールの話に戻るけれどね」
テルさんは枯れ花に視線を落としながら解説してくれた。
「ロイ君は魔法の発動自体は完璧だ。ただ、無意識のうちに『本当に治るのかな?』っていう迷いが生じて、集中が途切れているんだよ。イメージを最後まで強く保持する練習をすれば、すぐに完璧なヒールが使えるようになるよ」
「最後まで強くイメージする……分かりました。やってみます!」
「うん。何か分からないことがあったら、いつでも聞きにおいで」
「ねぇーパパー! まだー?」
「おっと、待たせてごめんねリロ。それじゃあ、僕たちも練習をはじめようか」
「ロイー! そろそろ稽古の時間だぞー!」
遠くから父さんの野太い声が響いてきた。
「あ、俺も呼ばれたので行きますね! テルさん、ありがとうございました!」
「ああ、頑張っておいで」
「またね、ロイ!」
リロとテルさんに手を振り、俺は父さんのところへ向かった。
お読み頂きありがとうございます!アドバイス等ございましたら、お書き頂けると喜びます。
いつもと比べて、少しだけ多く書いてみました。私もタイトルの通り、新たな試みをしてみました(笑)
次回もぜひお読みください!




