第二十一話 模擬戦
——四ヶ月後
過酷な鍛錬を経て、実力を着実につけてきた俺たちは、間近に迫った『クラス対抗競技大会』の代表選抜を迎えていた。
クラスからの選出枠は六名。三名ずつの二チームに分かれて出場する形式だ。
その代表枠をかけ、クラス内での選抜模擬試験が始まった。
「ルールは事前に伝えた通りだ。怪我は最小限に抑えろ。だが、手加減は一切無用とする」
訓練場に、サリム先生の低く通る声が響き渡る。
——次の日
ついに俺の順番が回ってきた。初戦の相手は、これまであまり言葉を交わしたことのないクラスメイトだった。
「俺はシャフだ。よろしくな、ロイ」
「あぁ、よろしく頼む」
「「両者、構え!」」
先生の合図とともに、訓練場の空気が一気に張り詰める。
「「始め!」」
開始の合図と同時に、俺はクリスに扱き抜かれた足捌きを意識し、素早く間合いを詰めた。
(焦るな……相手の軸と視線を見極めろ)
「はぁっ!」
「っ……!?」
焦って剣を振り下ろしてきたシャフの軌道を、紙一重の踏み込みでかわす。空いた彼の脇腹へ向け、しなるような軌道で木刀を叩き込んだ。
「うぐぅ……っ!」
鈍い打撃音とともに、シャフが膝から崩れ落ちる。
この一ヶ月間で体に叩き込んだ見切りと体捌き、その成果が確かな手応えとなって手元に残っていた。
⭐︎
熾烈な選抜戦を勝ち抜いたのは、俺、クリス、アルドリヒ、ラジュ、イラ、そしてジャミの六人だった。
チーム分けは、俺・クリス・ジャミによる『Aチーム』。元々よく話す仲なので連携もある程度取れるだろう。
そして、アルドリヒ・ラジュ・イラによる『Bチーム』。同郷の三人組であるBチームは普段から行動を共にしており、息の合った高い実力を誇るチームだ。
選抜が終わったその日から、本番に向けた特別訓練が始まった。休日の午前中を使った、サリム先生による直々の個別指導だ。
「まずは個別の地力を測る。ロイ、前へ出ろ」
「はい!」
先生は木刀を手に静かに佇んでいた。一切の隙がないその構えに、肌がヒリつくような圧力を感じる。
「全力で打ち込んでみろ」
「——いきます!」
地面を強く踏み鳴らし、一瞬で距離を詰めて渾身の一撃を繰り出した。
「はぁっ!」
だが——
(っ……!?)
背筋を駆け上がる強烈な悪寒。
俺の全力を込めた一撃は、先生が片手で軽く添えた木刀によってあっさりと受け止められた。直後、打突の衝撃がそのまま倍になって跳ね返り、俺の身体は無様に後方へと吹き飛ばされた。
そこから始まったのは、地獄のような猛訓練だった。
「踏み込みが浅い! 足を使え!」
「視線で次の動きを読まれているぞ!」
「振りかぶる動作が無駄だ! 最短距離で刃を走らせろ!」
容赦ない指摘とともに、俺の癖や甘さが次々と暴かれていく。防御の受け流し、崩された姿勢の立て直し方。息が上がり、膝が震えてきたところで、次はジャミが訓練場へと引きずり出されていった。
⭐︎
「まさか、僕が勝ち残れるなんて思ってもみなかったよ……」
過酷な訓練を終えた俺とジャミは、食堂でカシ丼をつつきながら向かい合っていた。
「嬉しくないのか?」
「ううん、嬉しいよ! でも……僕なんかで本当に良かったのかなって」
「謙遜しすぎだって。ジャミがどれだけ裏で鍛錬を重ねてたか、俺は知ってるよ。選ばれたのは当然の結果だ」
ここ数ヶ月、俺が教えた対人戦の動きを、ジャミは誰よりも愚直に反復練習していた。ジャミが勝ち残ったことに、何の不思議もない。
「……そうかな? えへへ、ありがと」
ジャミは照れくさそうに頬を緩め、カシ丼を口に運んだ。
⭐︎
——大会一週間前
「ロイ、本番前にもう一度交えておきましょうか」
「あぁ、望むところだ」
かつて一方的にボコボコにされたクリスとの模擬戦。サリム先生の地獄の扱きを経て、俺がどこまで到達できたのかを試す絶好の機会だった。
「それじゃあ、いくわよ」
「よーい……始め!」
合図と同時に互いが一気に肉薄し、木刀が激しくぶつかり合う。
「はぁっ!」
「甘い!」
打ち込んだ刃はクリスの見事な受け流しに阻まれたが、折り込み済みだ。即座に軸をズラし、バックステップで間合いを外す。
「今度は私からいくわよ——!」
クリスが踏み込み、鋭い突きを繰り出してくる。
「くっ——!」
強烈な打撃を剣で受け止めるが、推進力に押し込まれそうになる。俺は前傾姿勢を維持したまま脚に力を込め、彼女の剣を跳ね返した。
「貴方、本当に見違えるほど強くなったわね!」
「クリスとサリム先生に徹底的にスパルタ指導で絞り上げられたからな!」
「ふふ、私はスパルタのつもりなんてなかったけれどね——!」
数分間、息をもつかせぬ一進一退の攻防が続く。俺はその間、ずっと真正面からの攻撃をし続けた。
正攻法の打ち合いでは、洗練されたクリスの防御を破ることはできない。
(なら……勝負に出るしかない!)
俺はあえて足音を大きく響かせて突進し、隙だらけの大振りで頭上から剣を振り下ろした。
クリスほどの腕前なら、このあからさまな誘いに対して即座に胴へ踏み込んでくるはずだ。
案の定、クリスの瞳が鋭く光り、最短軌道で俺の腹へ刃を滑り込ませてきた。
(かかった……!)
「ふっ!」
振り下ろす軌道の途中、手首を強引に横振りへと変える。同時に滑り込むように体を斜め前へと沈めた。
「なっ……!?」
クリスが息を呑み、咄嗟に受けの体勢をとろうとするが、すでに軸は完全に崩れている。空を切った彼女の側面へ、俺の木刀が正確に走り抜けた。
「くっ——!」
鮮やかな衝撃とともに、クリスの身体が土煙を上げて崩れ落ちた。
「俺の……勝ちだな」
仰向けに倒れたクリスの首元へそっと木刀の先を突きつけ、荒い息を整えながら笑ってみせる。
「……参ったわ。見事な一本よ、私の負けね」
眩しそうに青空を見上げたクリスは、さわやかな苦笑いを浮かべると、俺が差し出した手を迷わず取って立ち上がった。
お読み頂きありがとうございます。
更新遅れてごめんなさい!
これからは計画的に書いていきます……




