第二十話 実技授業
一ヶ月のスパルタ座学と筆記テストを終えた俺たちを待っていたのは、半年後に行われる『クラス対抗競技大会』に向けた実技授業だった。
実技は週に二回、午後のみ行われる。それ以外の時間は相変わらず座学だし、実技がない日は一日中座学だ。
午前の座学を終え、訓練場へと移動した俺たちは、初めての実技時間を迎えていた。
「まずは一人一本ずつ木刀を取れ! 各自、粗末に扱わぬよう大切に管理すること」
教壇の前でサリム先生が木刀の山を指し示した。手に取ってみると、装飾のないごく普通の木刀だった。
ずっしりとした木の感触を手に覚えるのは久しぶりだ。ここ一ヶ月は文字の勉強に追われ、剣の鍛錬をする余裕など全くなかったからな。
「本日は基本となる素振りと体裁の確認を行う」
サリム先生は鋭い視線で生徒たちを見回した。
「入学試験の成績を基に二つの組みに分けた。名前を呼ばれた生徒は私についてきなさい。呼ばれなかった者は、ここで各自鍛錬に励むように」
「「はい!」」
なるほど、剣術の経験者と未経験者で指導を分けるわけか。確かにその方が効率が良い。
「……俺の名前は呼ばれなかったな」
まあ、二次試験で試験用の人形を過剰な火力で真っ二つにしちゃったしな……。
「僕はサリム先生と一緒の組だ……はぁ〜〜」
ジャミが分かりやすく肩を落として溜息をついた。
「ジャミ、頑張ってこいよ!」
「うん……ロイも頑張ってね……」
ジャミは木刀を両手で大事そうに抱えながら、サリム先生の元へと歩いて行った。
残された生徒たちは、素振りや筋トレなど各々自主練に取り組み始める。
「——ロイ、私と一勝負しましょう」
そんな中、木刀をすっと構えたクリスが、静かな情熱を瞳に宿して俺の前に佇んでいた。
「……あぁ、よろしく頼むよ」
転生してアトゥム様からチートをもらい、父さんにしごかれた俺の剣が、同年代相手にどこまで通用するのか試してみるか……!
お互い構え合った。
「それじゃあ……始め!」
互いの掛け声と共に、一気に地面を蹴り込んで間合いを詰めた——!
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「……大丈夫かしら?」
「あぁ……なんとかね……」
———開始数秒後
俺はあえなくクリスにボコボコにされ、無事に土と顔を合わせることになった。
クリスの放った鮮やかな一突きが俺のみぞおちにクリティカルヒット。腹がめちゃくちゃ痛い。
(……冷静に考えたら、俺はこの世界に来てから攻撃することしか訓練してこなかったんだ……!)
防御の姿勢はもちろん、対人戦での足捌きや間合いの詰め方なんて全く知らない。素人の振る回す木刀など、経験者のクリスからすれば隙だらけだったのだ。
「……入学試験の時のあの一撃を見て、てっきり凄腕なのかと……ごめんなさいね」
クリスは心から申し訳なさそうに謝ってくれているのだが、ボロ負けした直後の身としては何だか微妙に煽られている気分になる。
「ううん、気にしないで! 俺が弱かっただけだからさ……」
「そんなことないわよ。試験の時のあの振り抜きは、決して弱者にできるものじゃないわ」
クリスの真剣な眼差しは、それがお世辞や気休めではないことを証明していた。
「ねえ、クリス……もしよかったら、俺に対人戦の動き方を教えてくれないかな?」
これからしばらくは自主練の時間が続くはずだ。独学で悩むより、基礎ができているクリスに教わった方が絶対に上達が早いに決まっている。
「ええ、いいわよ!」
クリスの返事は早く、地面に転がる俺に向かってポンと真っ直ぐ手を差し出してくれた。
「ありがとう!」
俺はその手を掴み、腰を上げて土を払った。
「まずは基本からよ。相手との間合いと、軸のブレを意識しなさい——」
クリスのスパルタかつ的確な指導のもと、俺の剣術修行が始まった。
⭐︎
——男子寮・五十二号室
「はぁ〜……疲れたぁ……」
クリスの容赦ない指導によって全身が悲鳴を上げ、俺はベッドの上に大の字で倒れ込んだ。
「ロイは今日どんな練習をしてたの?」
向かいの椅子に座り、配布された石板を眺めていたジャミが尋ねてきた。
「俺は今日、クリスに動き方を教えてもらってたんだよ〜。ジャミたちの方はどんな感じ?」
「僕たちの方は、サリム先生に素振りのフォームを基礎から教わってるよ」
「そうなんだ。……あれ、ジャミって素振りは初めてじゃないの?」
ジャミの体にあんまり疲労の色が見えなかったので、気になって尋ねてみた。
「えっと……実はね、村にいた頃に父さんに教わりながら、少しだけ素振りをしてたんだ。弟と妹の世話があったから、あんまり長い時間は取れなかったんだけどね……」
ジャミは手を止め、どこか遠くを見るような少し寂しげな目をしていた。
「そっか……。ジャミは家族のことが大好きなんだね」
「……うん。でも、学院に来てロイと出会えて、僕は本当に良かったと思ってるんだ」
「……ありがとう、ジャミ」
照れくさそうに笑うジャミを見て、俺も胸が温かくなった。ジャミは再び石板に視線を落とし、静かに手を動かし始めた。
⭐︎
それから一ヶ月が経ち、各自の基礎訓練を終えたクラス全員での合同実技授業が始まった。
クリスの教え方が上手かったおかげで、俺は実戦的な動きや間合いの取り方を着実に身につけることができていた。
「これよりクラス全体での肉体強化訓練を行う! まずは軽く素振り五百回!」
「「はい!!」」
「次はランニングと自重トレーニングだ!!」
「「はい!!」」
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サリム先生の鬼のような地獄のスパルタ授業が続き、最後のランニングを走り切った時には、まともに立っている生徒の方が圧倒的に少なかった。
もちろん俺も、地面に倒れ伏している生徒の一人だ。
(あんなの絶対おかしいって! 休憩が五分もないのにすぐに次の限界トレーニングが始まるんだぞ……!?)
どうにか体力が回復してきた俺たちは、フラフラの足取りで起き上がり、ゾンビのように食堂へと向かった。
「うぅ……お腹痛い……」
今日の食堂のメニューはジャミの好物である野菜炒めだったのだが、目の前に料理を突きつけられても二人してぐったりと突っ伏していた。
「ほら、そこのあんたたち! 運動した後はしっかり食べなきゃ身体が作られないよ! さっさと食べな!」
厨房から見ていたお姉さんにドスの効いた声で一閃された。
「「は〜〜い……」」
無理やりご飯を口に押し込んだ俺たちは、部屋に戻るやいなや、着替える気力すら残っておらずベッドに雪崩れ込むようにして泥のように眠りについたのだった。
お読み頂きありがとうございました!
ついに二十話!(外伝含めたら二十二話だけど……)
ここまでなんと「約55000字」!なんだか沢山書いてきましたね……
ぜひ次回もお読みいただけると嬉しいです。




