第二話 異世界転移
「おお! 召喚が成功したぞ!」
中年の男の声が聞こえる。
ここはどこだ? ええと、そうだ、海に行こうとして魔法陣の光に包まれて……。
「理玖! 美沙! 無事か!?」
精一杯大きな声で叫んだ。こんな大声を出したのはいつぶりだろう。僕の心は不安で押し潰されそうだった。
「私は大丈夫……」
振り返ると美沙がいた。無事な姿を見て少し胸を撫で下ろす。しかし、理玖の姿がない。
「理玖ー!」
もう一度叫ぶ。けれど、返事はなかった。
「勇者様、どうかされましたでしょうか?」
周囲にいるローブ姿の男性たちとは違い、豪華なドレスを纏った少女が僕に問いかけてきた。
「あなたたちは何者なんですか」
美沙が警戒感を露わにして質問する。少女は優雅に微笑み、うやうやしく一礼した。
「お初にお目にかかります。私はクレダナ王国が第二皇女、イーシュリア・クレダナと申しますわ。どうぞ、イーシとお呼びください。」
イーシと名乗った少女は、僕たちがなぜここに呼び出されたのかを説明してくれた。
僕たちはどうやら異世界に転移してしまったらしい。しかも剣と魔法が存在する、王道のファンタジー世界だ。美沙は呆然としていたが、普段からラノベを読んでいた僕はすぐに状況を理解できた。
僕はすぐさま、僕たちの他にもう一人転移してこなかったかをイーシに尋ねた。
「お二人方の他に、召喚された方はいらっしゃいませんでしたわ」
イーシの瞳に嘘をついている様子はなかった。もしかしたら理玖は、こっちの世界に転移できず、向こうの世界に取り残されたのかもしれない。そう思い込むことで、僕はなんとか動揺を抑え込んだ。
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その後、僕たちはイーシに案内され、謁見の間へと連れて行かれた。玉座に鎮座していたのは、威厳に満ちた国王だった。
「イーシ、ご苦労であった」
イーシは静かに礼をした。
イーシが引き下がると、国王が僕たちに向かって重々しく口を開いた。
「我はクレダナ王国の国王、タルフリーヒ・クレダナである。そなたらを呼び出したのは、他でもない私の命令だ。勝手に巻き込んでしまい、誠に申し訳ない」
黄金の王冠を戴く国王が、僕たち高校生に向かって深々と頭を下げた。僕と美沙は慌てて「頭を上げてください」と手を振った。
「実はこの世界は、現在危機に瀕しておる。数年後に『魔神』が復活すると神託が下りたのだ。来る災厄に備えるため、古代の掟に従い勇者召喚を行なった。そして……そなたたちこそが、その勇者なのだ」
僕と美沙は、驚きを隠せなかった。
美沙が震える声で「元の世界には戻れるのか」と尋ねた。
「神託によれば、魔神を倒した際に手に入る『魔石』を用いれば、世界を越える魔道具を作成できるとのことだ」
つまり、僕たちが元の世界に帰るには、魔神とやらを倒す以外の選択肢がないということだ。美沙が絶望に打ちひしがれ、深くうつむいてしまった。
「……そなたたちの名を教えてはくれまいか」
国王が気を遣うように話題を変えた。
「僕の名前は菅野健斗です。そして、こっちの——」
「いい、自分で言う」
健斗の言葉を遮って美沙が前へ出た。目元には拭いきれなかった涙の痕が残っているけれど、その瞳には意地のような光があった。
「……私は、土澤美沙です」
「ケントにミサか、名乗ってくれて感謝する。異世界に来て疲れているだろう。本日は部屋を用意してあるゆえ、詳しい話は明日しよう」
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イーシに案内され、僕たちはそれぞれ個室を与えられた。僕は机に向かい、イーシに頼んで紙とペンをもらった。今は、紙に今日起きた出来事を整理していた。
「……こんな時、理玖がいればな」
不意に呟きが漏れた。自分でも呆れるくらい、僕の中で理玖という存在は大きかったらしい。
コンコン。
静かな部屋にノックの音が響いた。
「ごめん健斗、少し話せる?」
ドアの向こうに立っていたのは美沙だった。
ベッドの端に腰かけた美沙に「話って?」と尋ねる。
「……理玖のことなんだけど」
やっぱりか。理玖と美沙は幼馴染で、美沙が理玖に特別な想いを寄せていることを僕は知っていた。(理玖はまったく気づいていなかったけれど)
「私、見たんだよ。私、二人よりもほんの少しだけ転移のタイミングが遅かったでしょ? そのとき……理玖が魔法陣の中で、光になって消えていくところを見たの」
美沙の言葉に、僕は思考を巡らせた。
「……もしかしたら理玖は、この世界の別の場所に召喚されたのかもしれない。ほら、この王国以外にも召喚の儀式をやっている国があるかもしれないし」
「そう……だよね。きっと大丈夫だよね」
不安そうに身を寄せ合う美沙を見て、僕は意識して明るい声を張った。
「理玖のことだから、今頃この異世界を満喫してると思うよ! あいつ、こういうファンタジー大好きだしさ!」
無理に笑ってみせると、美沙は少し驚いたように目を見張った。普段の僕なら絶対に言わないような軽口だったからだろう。本当に、あいつがいないと調子が狂う。
「ふふ、話を聞いてくれてありがとう。健斗のおかげで、少し楽になったよ」
美沙は少しだけ表情を和らげて立ち上がった。
「どういたしまして。また明日ね」
「うん、おやすみ」
美沙が部屋に戻り、ドアが閉まる。
「ふあぁ……っ」
大きなあくびが出た。緊張が解けたせいか、強烈な眠気が襲ってくる。本当はもっと情報をまとめておきたかったけれど、限界のようだ。
僕はペンを置き、吸い寄せられるようにベッドへ潜り込んだ。
お読みいただきありがとうございます。アドバイス、感想等ございましたら、ぜひ書いてくださると喜びます。
やっと、異世界っぽくなってきましたね。今回は健斗目線で物語が進んでいきました。私が異世界に来たら失神してしまいそうですね。そんなことを思いながら書きました(?)。
次の回もぜひ、見てください!お願いします!




