第十五話 学院へ
門をくぐり、学院の中に入ると、すでに合格者と思われる大勢の生徒たちが受付に長い列を作っていた。
そして、俺もその列の一番後ろに並んだ。
「では、次の人。名前を教えてください」
「はい、ロイです」
「ロイね、えーっと……」
受付の担当者が手元の分厚い名簿に指を滑らせている。
「ありました。それでは校舎に入ったら、一階の『第4教室』へ移動してください。場所が分からなければ、中にいる案内の職員に聞きなさい」
「はい、ありがとうございます」
指示された通り、重厚な校舎の中に一歩足を踏み入れる。
校舎全体が強固な石造りで出来ているようだ。少し歴史を感じさせる古びた雰囲気はあるものの、すみずみまで綺麗に掃除されていた。
「一年生の教室はこちらでーす! 案内に従って移動してくださーい!」
通路の奥で、若手の男性教員が一生懸命に腕を大きく振っている。
その声と案内に従い、俺は第四教室の扉を見つけた。
ガラリと扉を開けて中に入ると、そこは黒板を中心に半円の形をした机が並ぶ大きな教室だった。ひとつながりの長い木製机が階段状に後ろに広がっており、すでに到着していた大勢の生徒たちが賑やかに話している。
「おい、こちらへ来なさい」
教室の前方から、低く通る声が自然と耳に入ってきた。
見ると、短髪の厳しそうな中年の男性教員がこちらをじっと見ている。俺は急いでその近くへと移動した。
「名前は?」
「ロイです」
「ロイ……お前の席はあそこだ。速やかに座りなさい」
「はい!」
男性教員が確認した石板のようなものには文字が刻まれていた。
言われた通り指定の席に腰を下ろすと、すぐ隣に見覚えのある顔があった。
(あ、二次試験の時の……)
「えっと……こんにちは」
「あら……貴方は……!」
隣の少女——クリスティーナが目を見開いた。
「試験の時は、急に話しかけてごめんなさいね。改めてよろしくお願いするわ。私の名前はクリスティーナ・ホルスよ。……クリスって呼んでくれて構わないわ」
「よろしくお願いします、クリスさん。俺はロイっていいます」
「タメ口でいいわよ。同じクラスの仲間なんだから」
「……うん、わかった。よろしくね、クリス」
クリスに促され、改めて肩の力を抜いて席に座り直す。
クリスは好奇心と少しの探求心が混ざったような瞳で俺を見てきた。
「ねえ、ロイ。貴方はどうしてこの学院に来たいと思ったの?」
「あー……実は僕、本当は魔法学院に行こうと思ってたんだよね」
「えっ? そうなの? じゃあ、なおさらどうして騎士学院に来たのよ?」
「魔法学院に行くには魔力がないといけないんだけど……俺の魔力測定の数値、たったの『1』しかなかったんだ」
「あ……」
クリスが瞬時に「やってしまった」という顔になり、気まずそうに視線を泳がせた。
「ご、ごめんなさい……嫌なことを思い出させちゃったわね」
「ううん、気にしないで! 昔のことだし、今は剣の道で頑張ろうって決めてるからさ。……クリスは、どうしてこの学院に来たの?」
俺が尋ね返すと、クリスは気まずさを振り払うように背筋をピシッと伸ばした。
「私はね、幼い頃からどうしても騎士になりたかったの。『女が騎士になれるわけがない』って、周りの大人や貴族たちに散々バカにされたわ……そんな奴らを見返すためにも、私はこの学院で絶対に一番になってやるのよ」
クリスの瞳には、さっきまでの気まずさとは打って変わった、意志の強い熱い感情が宿っていた。
「おい、そこどいてくれ」
ふと、上からの不機嫌そうな声に会話を遮られた。
振り返ると、赤い髪の青年が、腕を組んで俺たちの席を見下ろしていた。
「あら。それが人にものを頼む態度かしら?」
クリスが即座に眉をひそめて言い返す。
「あぁん? お前の脚が通路に飛び出して邪魔なんだよ! どけって言ってんだ!」
「遅く来る貴方が悪いのと、その乱暴な口調を改めるのが先じゃないかしら?」
「時間ギリギリには間に合ってんだろうが! 細かいこと言ってんじゃねえ!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
俺が苦笑いしながら間に割って入ろうとした、その時——
「「そこ!! 騒ぐな、速やかに席に着きなさい!!」」
教室の前に立っていた中年の教員が、雷のような凄まじい大声で一撃を落とした。
教室内が一瞬で静まり返る。赤髪の青年もチッ、と小さく舌打ちをすると、おとなしく俺の隣の席へと座った。
⭐︎
「……ゴホン。静粛にしなさい」
あれから数十分後、教室内の全員が着席したのを確認して、教壇に立つサリム先生が口を開いた。
「私は君たちのクラス、一年四組を指導する、イシュク・サリムだ」
やっぱり厳しそうな先生だな。
「これから、君たちには入学式に出席してもらう。前の席に座っている者から順に、私についてきなさい。……全員、起立!」
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