第十三話 試験
俺と父さんは歩いて『カザール王立附属騎士学院』まで向かった。
父さんは試験が終わるまで、門の前で待っていてくれると言っている。
「頑張れよ、ロイ。お前は充分努力してきたんだ。だから絶対大丈夫だ」
父さんは、俺の背中をポンと強く叩いて励ましてくれた。
「うん、行ってくる!」
父さんに背を向け、俺は気を引き締めて学院の門をくぐった。
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案内されるがまま敷地内を進み、俺は大勢の受験生が集まる巨大な訓練場へと連れて行かれた。
「それではこれより、第二回カザール王立附属騎士学院・入学試験を開始する!」
「まず初めに筆記試験を行う! 今から前に張り出されている名簿を確認し、指定された教室へ移動するように!」
中年の試験官が大きな声でで宣言する。
一回目の入学試験は主に貴族の子供を対象に行われており、この二回目の試験には平民の受験生が多く集まっているようだ。
貼り出された大きな紙の周りに人が群がり、受験生たちがぞろぞろと移動し始めた。
俺も人混みをかき分けて自分の名を確認し、指定された教室へと向かった。
机と椅子が並ぶ教室に入り、自分の番号が貼られた椅子に腰を下ろす。
「それでは、十分後に試験を始める! 各自準備するように!」
筆記試験の出題範囲には一般常識も含まれているらしい。
父さんには「日常的に本を読んでいるロイなら楽勝だ」と言われていたが、いざとなると大きな不安に押し潰されそうになる。もし失敗したら、俺のために毎日必死で働いてくれた父さんの努力が無駄になってしまうのだから……。
「……大丈夫?」
ふいに横から声をかけられた。
声の主は、透き通るような水色の髪をした綺麗な少女だった。
どうやら周囲から見ても一目で分かるほど、俺は緊張でガチガチになっていたらしい。
「心配してくれてありがとうございます。ちょっと緊張しちゃって……」
「大丈夫よ、この筆記試験は合否にはあんまり関係ないの。ここ、カザール王立附属騎士学院で本当に重要なのは実技試験の方だから」
「そうなんですね……ありがとうございます」
その少女は上質な仕立ての貴族のような服を着ていた。なぜ平民が多い二回目の試験に参加しているのだろうか……?
「それでは、試験を開始する! 全員着席し、配布された用紙を開くように!」
試験官の合図とともに、息を呑む緊張感の中で筆記試験が始まった。
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———筆記試験終了。
手応えとしては、なんとか八割以上は取れたと思う。本で学んだ知識のおかげで、全く手も足も出ないような難問は出てこなかった。
それに筆記試験といっても絵や簡単な言葉で出されるものが多くあった。平民は字の読み書きができないからだろう。
「それでは次に、実技試験を開始する! 全員第三訓練場へ向かう! 私についてくるように!」
受講生全員で試験官の後をついて行き、ついに広い実技試験場へと足を踏み入れた。
「名前を呼ばれた者は順に前に出て、中央に設置された人形に真剣で一撃を入れること。それでは、試験を始める!」
——————
真剣を手に、順番に前に出た受験生たちが威勢よく一撃を叩き込んでいく。
だが、「バカンッ! 」と硬い音が響くだけで、人形は軽く揺れて倒れる程度だった。
(あの人形……真剣で本気で斬りつけても傷一つつかないのか!?)
試験用に用意された人形は、思っていた以上に異様な硬さだった。
もしかしたらあれは、父さんが稽古用に作ってくれた鉄入りの人形よりも遥かに重くて頑丈なのかもしれない。
「次! クリスティーナ・ホルス!」
「はい!」
呼ばれたのは、筆記試験の時に声をかけてくれた水色の髪の少女だった。
やはり苗字があるということは貴族なのだろう。
彼女は堂々とした足取りで前に出ると、手渡された真剣をすっと構えた。人形の方へ向き、一瞬でその場の空気を変えた。
「はぁぁーっ!」
振り下ろされた美しい一撃が空を切り裂いた。
次の瞬間———ドサッと重い音を立てて、人形の上半身が真っ二つに崩れ落ちた。
周りの受験生からどよめきが起こる。
「ハハハ! 面白いな、ホルス! 今年の二次試験は退屈な奴ばかりだと思っていたが、見事な腕前だな!」
訓練場の袖から、ガタイの良い重厚な鎧を纏った中年の男が姿を現した。
「ありがとうございます、エドルド様」
クリスティーナは礼儀正しく一礼する。
「エドルドってまさかあの……!?」「騎士団長様!?」
周囲の受験生たちがざわつき始めた。
「最近はどうだ、母さんは元気か?」
「はい、ご心配ありがとうございます」
「そうか。ホルスは騎士を目指しているのか?」
「はい、父にも応援されています」
「そうか!」
豪快に頷くと、エドルド騎士団長は周囲を見回した。
「試験を止めてしまったようだな、すまなかった! 彼女に負けず、諸君も頑張ってくれ!」
気風よく言い残すと、騎士団長は風のように去っていった。
すぐに係員の手によって、奥から新しい予備の人形が運び込まれてくる。
「コホン……気を取り直して、次! ロイ!」
「は、はい!」
とうとう俺の順番がやってきた。あの圧倒的な手本を見せられた直後にやるのは、かなりのプレッシャーだ……
「緊張しているのか? 安心しろ、彼女の後だからと言って評価が下がるようなことはない」
顔色を伺った試験官が、優しく声をかけてくれた。
「ありがとうございます、頑張ります……」
手渡された真剣を握り締め、俺は人形の前に立った。
父さんとの日々の稽古を思い出し、すっと自然体に構える。
お腹の底から手先へ、気を滑らかに巡らせていく。
(よし……!)
静かに息を吐き出し、鋭く刃を振り抜いた。
「はっ!」
———バツンッ。
(あれ……?)
手元に伝わってきたのは、拍子抜けするほど軽い感触だった。
ドシッ!
直後、重い音を立てて人形の上半身が地に落ちた。
「……え?」
静まり返った訓練場に、波のようなざわめきが広がっていく。
あんなに硬そうに見えた人形が、なぜこんなにあっさり切れてしまったのか……一番驚いていたのは俺自身だった。
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