第十二話 再び王都へ
十歳になるまでに俺は、できることが飛躍的に増えていた。
まずは魔法だ。
アイテムボックスを習得した俺は、テルさんから『結界魔法』も教わった。これもアイテムボックスと同様、魔法陣の構造を頭の中で精密に組み立てることで、すんなりと発動させることができた。
結界魔法をマスターした俺は、次に魔力の限界値を底上げする訓練に入った。
テルさんに相談したところ、「とにかく毎日、限界まで魔法を使い続けるのが一番だよ」とシンプルなアドバイスをもらった。
その教え通り、俺は毎日魔力が空っぽになる直前まで魔法を放ち続けた。無限に近い魔力補給と回復力のおかげもあって、日に日に一度に扱える魔力量と連続発動回数が増えていった。
今ではウォーターボールやヒールはもちろん、アイテムボックスや結界魔法すらも無詠唱で発動できるようになっている。魔力操作の精度が極限まで高まったおかげだ。
剣術の方も順調だった。
気をめぐらせて刃に乗せる感覚を掴み、重く鋭い一撃を打てるようになってきた。
打ち込み用人形を破壊するまでには至らないが、打撃の瞬間に腹に響く凄まじい音を立てて倒せるようにはなった。
ただ、父さんからもらった真剣は木刀に比べてずっしりと重く、まだ完璧には振り回せない。入学までに完璧に扱いこなせるよう、毎日の稽古は欠かせない。
そして最近、俺が特に夢中になっているのが『魔法陣の研究』だ。
テルさんの師匠であるゼニスさんが行っていた魔法陣の改造の話を思い出し、自分でも研究を始めたのだ。
魔力操作で魔法陣の特定のパーツだけを発動させたらどうなるか。テルさんにアドバイスをもらいながら、まずは基本的なウォーターボールの魔法陣から解析を始めた。
そこで判明したのは、現代に伝わる下級魔法陣には無駄な制限が多すぎるということだった。
本質となる高火力の魔法陣の上に、わざわざ威力を抑え込むための制御用模様が二、三個も重ねて描かれていたのだ。ファイヤーボールも全く同じ構造だった。
(なるほど……本来の上位魔法を一般用に弱体化させて普及させたのが、今の下級魔法なんだな)
その押さえ込むの模様を意図的に外して発動させてみたところ、下級魔法とは思えないほどの凄まじい火力と水量を叩き出すことに成功した。
一方で、ヒールの魔法陣は構造が全く違っていた。
一つ一つの刻印が糸のように複雑に絡み合っており、一部だけを切り取っても何も起きない。最初から完璧なバランスで完成された美しい魔法陣だった。
アイテムボックスや結界魔法に至っては、あまりにも高次元で複雑すぎて、今の俺の知識では解読すら困難だった。
(魔法陣の研究はめちゃくちゃ面白いけど……もっと専門的な知識が必要だな)
俺は本物の研究書が並ぶであろう大きな図書館や、行くことのできない学院の資料室に思いを馳せた。
⭐︎
十歳の誕生日会から数週間後。
俺が十二歳になったら剣の学院に行くことをリロに伝えるため、テルさんに時間を作ってもらった。テルさんはリロの授業を休みにし、二人きりで話す機会をくれた。
「どうしたの、ロイ?」
さっきまで授業が休みになったことを喜んでいたリロが、不思議そうに首をかしげる。
「実はね、リロ……僕は十二歳になったら、剣の学校に行こうと思っているんだ」
「そうなんだー! すごーい!」
「だから……リロと少しの間、会えなくなっちゃうんだ」
「え……?」
リロの顔から一瞬で笑顔が消えた。大粒の涙がポロポロと溢れ出してくる。
「ロイと、はなれたくなぁぁぁい……!」
泣きじゃくりながら、リロが俺の服の裾をギュッと掴んで離さない。
テルさんから聞いた話では、リロも十二歳になったら王都の『魔法学院』に入学することが決まっているらしい。
「ごめんね、リロ……僕の魔力が『1』だから、一緒に魔法学院に行けなくて……」
「ロイがわるいわけじゃないのにぃ……っ」
リロがポロポロと涙をこぼしながら俯いている。
「時間に余裕ができたらすぐにリロに会いに行くよ。だから、泣かないで?」
俺が優しく頭を撫でると、リロは涙を指で拭いながら小さく頷いてくれた。
それから数時間後。泣き止んだリロは、真剣な目で俺を見つめて言った。
「ロイ! 学院に行くまでに、いっぱい、いーっぱいリロと遊んでね! 約束!」
「うん、約束する」
「それと……大人になったら、また絶対に一緒に暮らそうね!」
「うん、わかった」
そう答えると、俺はリロの小さな身体をそっと抱き返した。
⭐︎
———そして月日は流れ、十一歳になる年の春が訪れた。
入学の一年前に行われる学院の入学試験を受けるため、俺とリロはカザール王国の王都へと向かう馬車の中にいた。
村を出る前、母さんは涙ながら「ロイ、試験がんばってね!」と送り出してくれた。
父さんは俺の学費を稼ぐため、ほぼ毎日街へ仕事に行っていた。おかげでギリギリ入学費用は集まったが、母さんが同行する余裕まではなかったのだ。
「心配しなくても、ロイなら大丈夫だ!」と大笑いして見送ってくれた父さんの言葉が胸に温かい。
日本で剣道すらしたことがなかった俺がここまで強くなれたのは、間違いなく父さんの指導のおかげだ。父さんの努力と期待を無駄にしないためにも、絶対に合格してみせる。
「ロイ、大丈夫? 緊張してる?」
隣でリロが、心配そうに俺の手をギュッと握ってきた。
リロも今日、王都の魔法学院で試験を受けるのだ。
「あぁ、だいじょ……うぐっ!?」
「えっ!?」
俺は咄嗟に馬車の窓から顔を外に突き出した。
「お゛ぇぇぇー」
(そうだった……俺、馬車酔いするんだった……!)
そこから王都に着くまでの記憶は、ガタガタと揺れて流れていく地面の景色しか残っていない……。
⭐︎
「着いたぞ、ロイ」
「うぅ……頭がグラグラする……」
父さんに肩を叩かれ、俺は青い顔のまま馬車を降りた。
そこには、へーロス村とは比べものにならないほどの大都会が広がっていた。行き交う人々、見たこともない大きな建物。
ここに来るのは魔力測定を受けた時の六歳以来だ。
当時は周りを見ていなかったが、今見ると圧倒される景色だ。
王都の中心にある噴水広場で馬車を降り、ここからは徒歩でそれぞれの学院へ向かう。
「じゃあロイ、試験がんばってね!」
「うん、リロも魔法学院の試験、がんばってね!」
リロとテルさんに笑顔で手を振り合って別れた俺と父さんは、『カザール王立附属騎士学院』を目指して歩き出した。
お読み頂きありがとうございます!
とうとう学院が目の前になってきましたね。
私も受験シーズンはストレスで夜しか眠れなかったです。どうにか行きたかった高校には入学できたんですけど、その後の勉強が大変でした。周りのレベルが高すぎてついていくのにいっぱい、いっぱいになってましたよ。
次はついに試験当日ですね。ぜひ次回もお読みください!




