衝突
ある授業の発表で悠太と同じグループになった。
そこで思わず私はどうして頑張るのか彼に聞くと、帰ってきた答えは「どうして頑張らないの?」だった。
それにカッとなって強く言ってしまって以来、彼との間には気まずい雰囲気が流れている。
放課後の教室。
窓の外は、少しだけ色を落とし始めていた。
私たちはグループ発表の準備をしている。
他の班員は帰って、残っているのは私と悠太だけだった。
パソコンの画面に映るスライドが、やけに白く見える。
「ここ、言い方変えた方がいいな」
悠太が淡々と修正していく。
その手つきを見ているだけで、胸の奥がざらつく。
まただ。
こいつが頑張っている姿を見ると無性に腹がたってたまらない。
「ねえ」
気づけば、口を開いていた。
悠太が手を止める。
「なんでさ」
「なんであんたは、そんなに頑張れるの?」
前にも一度した質問だった。なぜまた同じ質問をしたのかは自分でもわからない。
後から思い返せば、もしかしたら悠太を感情的にさせて「優等生」の仮面を外させて一泡吹かせてやろうとでも思ったのかもしれない。
悠太はゆっくりとこちらを見る。
「は?」
「だってさ、別にそこまでやらなくてもいいじゃん」
悠太の地雷であることは頭で理解しているのに言葉が止まらない。
「どうせ発表なんて、適当でも終わるし」
「お前」
低い声だった。
さっきまでとは、少し違う。
「なんのつもりなんだよ、こないだといい」
「てかお前は逆になんでそんなに消極的なんだ。前にも言ったろ。もっと頑張った方が」
自分の中のモヤモヤとしている気持ちが破裂する。
「なんでなんだろうね、自分でもわかんない」
自分の机を手でたたいて勢い良く立ち上がっていた。
「…!」
彼はいきなりの行動に目を丸くする。
「…やればできるだろ、普通に」
彼の言葉がさらに私の中の爆弾を起爆させる。
「うるさい」
気づいたときには、声が出ていた。
「何が普通だよ」
空気が、一気に張り詰める。
「できる人はいいよね。そうやって簡単に言えて」
止まらない。
止められない。
「こっちはさ、そんな簡単じゃないんだよ」
机に置いた手に、力が入る。
「頑張ればできるなんて、そんなの」
言葉が詰まる。目から涙があふれてきそうなのを必死にこらえる。
「……」
悠太が、少しだけ眉を寄せた。
「……じゃあ、なんでやめるんだよ」
低く、押し出すような声。
「できないなら、できるまでやればいいだろ」
その言葉に、私は笑った。
いや、言葉というよりは自分自身に対して嘲笑したのだろう。
「できないから言ってんじゃん」
かすれた声が出る。
「何回やっても、無理なものは無理なんだよ」
「そんなわけあるか」
即答だった。
彼が勢い良く立ち上がって一歩、距離が詰まる。
「逃げてるだけだろ」
その一言で、完全に凍りつく。
音が消える。
呼吸が、止まる。
「……は?」
かろうじて出た声は、ひどく冷たかった。
「逃げてない」
「いや逃げてるだろ」
食い下がるように、悠太が言う。
「やる前から諦めてるだけじゃん」
違う。
違うのに。
言葉が出てこない。
胸の奥で、何かが固まっていく。
「あんたに何が分かるの?」
やっと絞り出した言葉だった。
「全部うまくいく人にさ、何が分かるの?」
悠太の動きがピタッと止まった。
それをみて、さらに言葉が強くなる。
「失敗したことなんてないでしょ」
悠太の表情が変わる。
ほんの少しだけ。
「……」
沈黙。
さっきまでの二人の勢いが、嘘みたいに消えた。
視線を逸らす。
見られたくない。
これ以上、何も言いたくない。
「……もういい」
小さく呟く。
「話しても無駄だし」
ゆっくりと立ち上がると教室の扉に向かった。。
「やっぱり分かんないわ、あんたのこと」
「もう話しかけないで。金輪際私に関わらないで」
小さく吐き捨て、そのまま、教室を出た。
もうどうでもいい。結局私は逃げてばかり。
けどそれでもいい。彼と話さなければ傷つくことなんてないんだ。
私は片手に持っていた朝買ったお茶のペットボトルをゴミ箱の中に乱暴に投げ入れた。




