仮装
期待されることには、慣れている。
最初は嬉しかった。
褒められるたびに、自分に価値がある気がした。
でも、それは長く続かなかった。
一度「できる人」だと思われると、次も、その次も、同じ結果を求められる。
少しでも崩せば、すぐに分かる。
「あれ?」って顔をされる。
だから、崩せない。
崩したくないんじゃない。崩せないだけだ。
「佐藤」
名前が呼ばれる。
前に出る彼女を、なんとなく目で追った。
歩き方から緊張しているのが伝わってくる。
黒板の前に立つ。
一瞬の沈黙。
「えっと……」
そこで彼女は止まってしまった。
なんとなく、分かる。言葉が出ないやつだ。
頭の中で用意していたものが、全部飛ぶ。
そういうの、あるあるだよな。
教室の空気が急に緩む。
誰かが椅子を引く音。
小さなざわめき。
本人にとっては、それが一番きつい。
でもどうしようもない。
「もういい、座っていいぞ」
先生が見切りをつけて彼女にそう言うと、女は小さく頷いて、席に戻った。
落ち込んでいるんだろうな。
そう思い彼女の横顔を見ると、無表情だった。
(あれ?)
しばらく様子を見ていても落ち込んでいるようにはとても見えない。
僕はその様子を見て理解した。
そうか、こいつはそもそも発表なんてどうでもいいと思っているんだな。
自分とは「真逆」の人なんだ。
彼女とは絶対に分かり合えることはない気がした。
ただ、あいつのことを少し羨ましく思う自分もいた。
「次、岡本」
名前を呼ばれる。
ゆっくりと立ち上がると自然と周りの視線が集まる。
期待されている空気。いつも通りだ。
前に立つ。
それから、言葉を出す。
「今回のテーマについて説明します」
決めた通りに。順番通りに。
間違えない。
それだけ。
周りからは拍手が起こる。
「さすがだな岡本」
「佐藤とは違うな」
とクラスメイトは言う。
「いつも通りだよ」
と返事を返すが内心ほっとした。
放課後、教室で勉強をしているとふと彼女が目に入った。
すやすやと寝ているみたいだ。
彼女以外教室に誰もいないことを確認して、
「佐藤、お前はいいな。」
と寝ている彼女にそっとつぶやいた。
僕は逃げるのが、怖いだけだ。
崩れるのが、怖い。
「あれ?」って顔をされるのが、怖い。
だから、前に立つ。
だから、やり続ける。
だから、崩さない。
親に期待され、友達に期待され、友達に期待され、塾に期待されている。
僕には崩せる場所なんてない。
僕のこの複雑な気持ちを解ってくれる人は果たしているんだろうか。




