発見文書 No.007
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発見文書 No.007
種別:夏休み日記
担当:伊藤さやか
日付:昭和62年7月26日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
きのうの夜、ねむれなくて、テレビを見てました。
夜中の12時をすぎると放送がおわります。アナウンサーのお姉さんが「本日の放送は終了しました」って言って、カラーバーが出て、そのあと砂あらしになります。白と黒のつぶつぶがザーザーって動いてる画面です。お父さんは「スノーノイズ」って言います。
いつもなら消すんですけど、きのうはなんとなく見てました。お母さんは寝てたし、弟の健一もねてたし、一人でテレビの前にいると、なんか落ちつくんです。
5分くらい見てたら、砂あらしの中に顔が見えた気がしました。
最初は目のさっかくだと思いました。砂あらしってずっと見てるといろんな形に見えるので。
でもこれはちがいました。女の人の顔でした。30さいくらい。かみが長くて、かなしそうな顔。
口が動きました。何か言ってました。音は聞こえなかったけど、口の形で読もうとしました。
「62年の何月」って言ってるように見えました。昭和62年の何月か聞いてるみたいに。でも口の形から言葉を読むのって、わたしそんなに上手じゃないので、ちがうかもしれません。ドラマの「太陽にほえろ」のじけんかの人がやってるのをまねしただけだから。
こわくなってチャンネルを変えました。
どのチャンネルも放送がおわってて砂あらしでした。そしてどのチャンネルにも、同じ女の人がいました。
チャンネルごとに、女の人がちがうことをしてました。泣いてたり、笑ってたり、さけんでたり。あるチャンネルでは子どもの顔になってました。男の子。わたしと同じくらい。古い学校のせいふくを着てました。
男の子が口を動かしました。「ぼくたちは、ここにいる」って言ったように見えました。見えた、って書いたのは、そう見えただけかもしれないからです。砂あらしの中の口の動きを読むなんて、むりかもしれないし。
それから教室がうつりました。古い木の教室。40人くらいの子どもがすわってて、ぜんぶ前を向いてました。目が——生きてないみたいな目でした。
その中に、知ってる顔がありました。山田くん、田中くん、鈴木さん、佐藤さん、高橋くん。でもなんかちがう。もっと大人っぽくて、つかれた顔。
テレビを消そうとしたけどリモコンがきかなくて、本体のボタンもだめで、コンセントをぬこうとしたらビリッとしびれました。
砂あらしが文字になりました。赤く光る文字。何て書いてあったか——「永遠」って漢字があった気がします。あと「8月」。でも全部読めたわけじゃないです。
画面にたくさんの顔が出ました。子どもも大人もいました。みんな口を開けてて、同じことを言ってるみたいでした。たぶん。
それから学校の時計塔がうつって、空からかみなりが落ちました。テレビの中のかみなりじゃなくて、本当に外でもゴロゴロ言いました。雨はふってなかったのに。
テレビが消えました。
まっ暗になって、でも目をつぶると、さっきの画面が全部見えました。まぶたの裏にやきついてて。
朝になってテレビをつけたらふつうにニュースがやってました。画面のすみっこに、すこーしだけ砂あらしが残ってた気がしたけど、たぶん気のせいです。
学校に行って友だちに聞いたら、山田くんも見たって言ってました。田中くんも鈴木さんも佐藤さんも高橋くんも。みんな同じものを見てたって。
同じものを見てたなら、目のさっかくじゃないのかもしれない。
でもみんなで同じさっかくを見るってこともあるのかな。集団ヒステリーっていうのを本で読んだことがあるんですけど、それかもしれないし。
弟が朝からうるさくて、テレビのリモコンをかくしやがりました。今日はいい日じゃないです。
宿題の算数ドリルを3ページやりました。分数のわり算がわからない。先生に聞きたいけど夏休みだから聞けない。
担任教師の赤ペンコメント:
さやかさん、テレビの砂嵐の話、読みました。夜更かしはほどほどにね。分数の割り算は「ひっくり返してかける」だけよ。2学期に一緒にやりましょう。「永遠の8月」という言葉、さやかさんはどこかで聞いたことがある? 先生もなぜかその言葉を知っている気がするの。
【カセットテープNo.1 7月26日】
「さやかちゃんの日記を録音した。この子は弟の愚痴が多くておかしかった。(笑い声)テレビの砂嵐の話。子供のころ、砂嵐をよく見ていた。何かが見えるような気が——(間)いや。今日は晴れた。蝉がうるさい。(蝉の声)麦茶を飲んだ。冷蔵庫の麦茶は、夏のにおいがする。砂嵐の中の『永遠の8月』。頭の中でまわっている。どこかで——(テープを止める音)」




