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発見文書 No.006

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発見文書 No.006

種別:夏休み日記

担当:高橋拓也

日付:昭和62年7月25日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 今日はものすごくへんな雨がふった。


 朝起きたら外がまっ白だった。すごい雨。でも音がしない。ふつうこれだけ降ったら屋根にバラバラって音がするし、といからザーザー水が流れるのに。しーんとしてた。


 窓開けた。雨はふってる。手を出したらつめたい。ちゃんと雨だ。でも音がしない。


 お母さんに言ったら「ふつうに聞こえるけど」って。お父さんも、妹のまいも、みんな聞こえるって言った。おれだけ聞こえない。


 おかしいと思った。でもおかしいのがおれだけだから、おれがおかしいんだと思う。


 学校行くのにかさをさした。外に出たら、おれのかさに当たる雨だけ、音がした。でもへんな音だった。


 何かしゃべってるみたいな音。雨つぶ一つ一つが小さい声出してるみたいな。でも何て言ってるかはわからない。「かえれない」って聞こえた気もするけど、雨の音って「ザーザー」だから、「ザーザー」が「かえれない」に聞こえることもあるかもしれない。日本語は4音あればだいたい何かの言葉に聞こえるって、国語の教科書に書いてあったし。ちがうかな。書いてなかったかも。


 学校で田中くんに会った。田中くんも雨の音が聞こえないって言った。山田くん、佐藤さん、鈴木さんも同じだった。聞こえないのはおれたちだけで、ほかの子はふつうに聞こえるって言ってた。


 先生も「すごい雨音ね」って言ってた。


 それでわかった。雨の音が聞こえないのは、この何日かでへんなことがあった子だけだ。山田くんは山で赤い風りんを見た。鈴木さんはおばあちゃんが若くなった。田中くんはセミがしゃべった。佐藤さんはプールが長くなった。


 おれにはまだへんなことは起きてなかったけど、雨の音が聞こえないのがおれのへんなことなんだと思う。


 昼に廊下の水たまりに字が書いてあった。水でできた字。「アメハ ナミダ」って読めた気がしたけど、目をこすったら水たまり自体が消えてた。


 たいいくかんでドッジボールした。4回当たった。調子悪い。


 午後、窓の外の雨を見てたら、へんなふり方をしてた。まっすぐ降らないで、もようを描くみたいにふってた。文字を書いてるように見えた。「ワスレルナ」とか「ヤクソク」とか。


 ——いや、見えたかもしれないし、見えなかったかもしれない。雨のふり方って、長く見てるとなんでもそう見える。雲の形が動物に見えるのといっしょだ。


 体育の先生に「何見てるんだ」って言われて「雨が文字を書いてます」って言ったら笑われた。「想像力豊かだな」って。まあそうかもしれない。


 帰り、校門を出たとたん、雨の音がいっぺんに聞こえた。ふつうの音じゃなくて、だれかが泣いてるみたいな音だった。たくさんの人が泣いてるみたいな。


 走って帰った。家に入ったら、また音が消えた。


 晩めしのとき、妹がうるさかった。おれのプリンを食いやがった。最悪。


 風呂入ったら、シャワーの水も音がしなかった。体に当たると小さい声がした。何て言ってるかは、もう書かない。聞こえた気がしただけだから。


 窓の外、雨がまだふってる


担任教師の赤ペンコメント:

拓也くん、雨の日記、ありがとう。音のない雨というのは不思議な体験ね。妹さんとは仲良くしてね。プリンは……先生が今度持っていくわ。(冗談よ)


【カセットテープNo.1 7月25日】


「今日は雨。(窓の外の雨の音)拓也くんの日記を録音した。ぶっきらぼうな声だけど、ちゃんと考えてしゃべる子だ。『聞こえた気がしただけだから』と言う。自分で留保をかけている。大輝くんも同じだった。この子たちは——。(間)お茶を飲む。あつい。雨の音。今日は一日中、雨だ」

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