発見文書 No.005
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発見文書 No.005
種別:夏休み日記
担当:佐藤愛
日付:昭和62年7月24日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
今日はプール開きでした。
朝8時に学校に行きました。プール開きの前に6年生がプールそうじをするんです。去年の秋から水をぬいてあったプールは、葉っぱやどろでよごれてました。
プールに着いたとき、底にうっすら水がたまってました。雨なんかふってないのに。へんな色の水で、ちょっとむらさきっぽかったです。さわったらぬるぬるしました。先生が「だれかが水を入れたのかな」って言ってたけど、じゃぐちはしまってました。
みんなでバケツで水をくみ出したんですけど、10ぱいくみ出しても、へらないんです。むしろふえてる気がしました。でも先生に言ったら「気のせいでしょう」って言われたので、それ以上は言いませんでした。
プールサイドのかべに、何か書いてありました。山田くんが「あれ見て」って言って。赤い字で、何か書いてあったんですけど、遠くてちゃんと読めませんでした。わたしには「でられ」っていう字に見えた気がするけど、近くに行ったらもうにじんで読めなくなってました。さわったらべたべたして手についたけど、洗ったらすぐ取れました。
10時にプールに入りました。水はつめたくて気持ちよかったです。でもプールの中で、ぼそぼそ話してるような声がしました。水の中から聞こえてくるみたい。何て言ってるかは聞きとれませんでした。まわりを見てもだれも話してなかったので、水の音がそう聞こえたんだと思います。
わたしは25メートル泳ぐことにしました。クロールでスタートしました。いつもは途中で足がつくんですけど、今日はすいすい泳げました。
でもへんなことがありました。
25メートル泳いだはずなのに、プールのはしにつきませんでした。もっと泳いでも、まだつかない。50メートルくらい泳いだ気がするのに。
顔をあげたら、プールがすごく長くなってました。100メートルプールみたい。
——ここまで書いて、じぶんでもへんだなって思います。プールが長くなるなんてありえないから。たぶん、泳いでて方向がわからなくなっただけだと思います。プールの中でぐるぐる回ってたのかも。先生にも「ぼーっとしてたよ」って言われたし。
でもそのとき、だれかが手をつかんでくれたのは本当です。
知らない女の子でした。わたしとおなじくらいの年で、白い水着を着てました。顔がぼやけてて、よく見えませんでした。「だいじょうぶ」って言ったような気がします。手をひかれて泳いだら、いつものプールにもどりました。
先生が「佐藤さん、どうしたの?」って心配してくれました。
「なんでもないです」って言いました。
手を見たら、だれかにつかまれたあとが白く残ってました。1時間くらいで消えました。
午後の自由時間に、プールサイドにすわって足だけ水に入れてました。水面に映る空が、本当の空とちがう色に見えました。赤っぽいような。でも目をこすったらふつうの色になったので、日光のせいかもしれません。
プールの底に数字が浮かんでるように見えたときもありましたけど、ゆかりちゃんに「見える?」って聞いたら「何が?」って言われたので、わたしの目がおかしかったんだと思います。
帰りにシャワーをあびたとき、水がいっしゅんだけ赤く見えました。
家に帰ってお母さんに話しました。「プールたのしかった」って。へんなことは言いませんでした。
おふろに入ってたら、プールみたいなカルキのにおいがしました。うちのおふろはふつうの水道水なのに。
あの白い水着の女の子は、だれだったんだろう。
お母さんに聞いたら「お友だちがたすけてくれたんじゃないの」って言ってました。
でもあの子、このクラスの子じゃなかったです。6年生でもなかったと思う。
今日は疲れたので、もう寝ます。目がしょぼしょぼする
担任教師の赤ペンコメント:
愛さん、プール開きの日記、ありがとう。25メートルを目指してがんばっているのね、先生も応援しています。白い水着の女の子が手をひいてくれたのね。お名前は聞けなかったかしら。先生も子どものころ、水のそばで迷子になったことがあるの。あの時もだれかに手を引かれて帰ってきた気がする。
【カセットテープNo.1 7月24日】
「プールびらきだった。(椅子がきしむ音)朝から塩素のにおいが風に乗ってきた。愛ちゃんの日記を録音した。しっかりした字で書いてくるけど、声に出すときは少しおどおどする子だ。白い水着の女の子の話のところで、声がふるえていた。……あの子の話は、聞いたことがある気がする。どこでだろう。今日の夕方、コーラを飲んだ。炭酸が抜けかかっていたけど、甘かった。星が出ている。赤い星が、一つ、やけに」




