発見文書 No.004
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発見文書 No.004
種別:夏休み日記
担当:田中大輝
日付:昭和62年7月23日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
ぼくはセミとりの名人です。去年の夏は47ひきとりました。今年は100ぴきめざします。
今日も朝早くおきて、セミとりに行きました。あみと虫かごを持って、6時に家を出ました。朝は、セミがまだねぼけてるから、つかまえやすいんです。これはぼくだけが知ってるこつです。けんたくんにも教えてません。
外に出たら、もうセミがすごい。ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、ぜんぶ鳴いてました。でも今日のセミの声はいつもとちがってて、一つずつ区切って鳴いてました。「ジ、リ、ジ、リ」って。何かをかぞえてるみたいでした。
公園に行く道で、電柱にセミのぬけがらがいっぱいついてたんですけど、ぜんぶ上を向いてました。ふつう下向きなのに。目が金色にキラキラしてました。さわったらまだやわらかかった。
公園のケヤキの木に近づいたら、セミの声がピタッととまりました。しーんとなった。でもセミはいっぱいとまってます。ただじっとして、鳴かない。ぼくを見てるみたいでした。気もちわるかった。
最初につかまえたのはアブラゼミです。いつもなら「ジジジッ」ってにげるのに、今日はじっとしてました。虫かごに入れようとしたとき、セミが鳴きました。
なんかへんな声でした。セミの声なんだけど、ことばみたいに聞こえた。「もうすぐ」って言ったように聞こえた。でもセミが日本語をしゃべるわけないから、ぼくの耳がおかしいんだと思います。びっくりして手をはなしちゃいました。
つぎのミンミンゼミも、何か鳴きました。数字みたいに聞こえました。「にじゅういち」かもしれないし、ぜんぜんちがうかもしれない。セミの声って、ずっと聞いてると何でもことばに聞こえてくるんです。去年もゆうきくんと「セミが名前呼んでる」とか言って遊びました。それと同じかもしれません。
でもツクツクボウシは、はっきり聞こえました。
「カエレナイ」って。
いや——「カエレナイ」に聞こえただけかもしれない。ツクツクボウシって「ツクツクオーシ、ツクツクオーシ」って鳴くから、それが「カエレナイ」に聞こえるのはおかしくない。たぶん。
こわくなってはなしました。
公園のおくの森に入ったら、すごいことになってました。木という木にセミがびっしりで、1000ぴきくらいいたかもしれません。ぜんぶ同じ方向を向いてて、森の真ん中を見てました。
真ん中の切りかぶに、見たことないセミがいました。ふつうのセミの2ばいくらいで、体が赤い。羽も赤い。目は金色。ぼくはセミにくわしいけど、こんなセミは図かんに出てません。新種かもしれません。先生にほうこくしないと。
赤いセミが鳴きました。
何か言ってたと思います。でもここは正直に書きます。何て言ったか、ぼくにはわかりませんでした。人間のことばに聞こえたのは聞こえたけど、それが「やくそく」だったのか「はちがつ」だったのか「じゅんび」だったのか、はっきりとは言えません。ぼくの頭がかってにそう聞こえるようにしてるだけかもしれないから。
ただ、赤いセミが飛んできて、ぼくの頭のうえをぐるぐる回ったのは本当です。羽の音が風りんみたいに聞こえたのも本当です。チリン、チリンって。
赤いセミの羽が1まい落ちてて、ひろったら手があつくなりました。ドクドクしてた。生きてるみたいに。虫かごに入れたけど、夜に見たらなくなってて、かわりに小さな紙が入ってました。赤い字で何か書いてありました。持ったしゅんかんに燃えてなくなりました。何が書いてあったか、ぼくにはちゃんと読めませんでした。数字だったような気がするけど。
今外でセミが鳴いてます。ふつうの「ミーンミーン」です。
でもときどき
担任教師の赤ペンコメント:
大輝くん、セミの観察日記、とても詳しくてすごいわ。アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシと種類を書き分けられているの、えらい。赤いセミの話、先生も少し気になりました。もし図鑑で見つけたら、先生にも教えてね。あと、100匹は漢字で「百匹」って書くのよ。
【カセットテープNo.1 7月23日】
「今日は朝から暑い。職員室のうちわが止まらない。大輝くんのセミとり日記を録音した。元気な声で、セミの鳴き声のものまねもしてくれた。上手だった。(笑い声)……あの子は正直だった。『はっきりとは言えません』と書いた。ほかの子は、聞こえたことをそのまま書く。大輝くんは、自分の耳を疑っている。それが——大事なことかもしれない。お昼にざるそばを食べた。冷たいそばのつゆに、なぜか甘い味がした」




