発見文書 No.003
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発見文書 No.003
種別:夏休み日記
担当:鈴木美咲
日付:昭和62年7月22日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
きのうから、おばあちゃんちに来ています。
おばあちゃんちは、バスで2時間くらいかかる山の中にあります。バスのまどから外を見てたら、だんだん家が少なくなって、田んぼと山ばかりになりました。バスのなかに子どもはわたしだけでした。おじいさんが一人、ずっとねむっていました。
バスをおりたとき、せみの声がすごかったです。耳がいたくなるくらい。でもそのなかに、ときどきべつの音がまじってた気がします。「カエレ」みたいに聞こえたけど、たぶんせみの声がかさなってそう聞こえただけだと思います。お母さんに言ったら、「つかれてるのよ」って言われました。お母さんはいつもそう言います。
おばあちゃんちまでの道はじゃり道で、ジャリジャリ音がしました。うしろからだれかがついてくるみたいに聞こえて、3回ふりかえりました。だれもいませんでした。
おばあちゃんちは、すごく古い家です。かわらの屋根で、かべは土です。玄関のとびらがギィィって鳴って、だれかが「よく来たね」って言ってるみたいでした。おばあちゃんの声じゃなくて、家の声みたいな感じ。でもそんなのへんだから、気のせいだと思います。
おくの部屋のぶつだんには、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの写真がかざってあります。白黒の写真で、じっと見てたら目が動いたような気がしたけど、古い写真ってそういうふうに見えるって、図工の時間に先生が言ってた気がします。
おばあちゃんは73さいです。でもきのう会ったときより、今日はちょっと若く見えました。
「おばあちゃん、かみの毛、黒くなった?」
って聞いたら、
「そうかしら」
って笑いました。でも鏡を見たおばあちゃんがびっくりしてました。本当にかみの毛が黒くなってたんです。きのうは白いのがまざってたのに。
お昼ごはんのとき、おばあちゃんの手を見ました。しわが少なくなってました。おばあちゃんも「ふしぎねぇ」って言ってました。お昼はそうめんでした。つゆがすごくおいしかった。おばあちゃんのそうめんは、いつも少しだけあまいです。お母さんのとはちがう味。
おやつの時間にアルバムを見ました。おばあちゃんが18さいのときの写真があって、今日のおばあちゃんとそっくりでした。きのうまではぜんぜんにてなかったのに。
「おばあちゃん、若がえってる」
って言ったら、おばあちゃんは鏡を見て、「本当だわ」って、こわそうな声で言いました。それからしばらくだまってて、わたしはなにを言ったらいいかわからなくて、おせんべいを食べてました。
夜、ぶつだんにお線こうをあげに行きました。けむりが人の顔みたいな形になって、しばらく形がくずれませんでした。
いはいの文字がぼやけて見えて、もう一回見たら「正雄」が「正子」にかわってた気がしたけど、おばあちゃんをよんだときにはもとにもどってました。目がつかれてたのかもしれません。
ねる前にもう一回ぶつだんを見たら、いはいが3つにふえてました。3つめには何も書いてなくて、まっ黒でした。うっすらと「み」っていう字が見えたような。わたしの名前も「み」からはじまるので、こわくなってにげました。
ふとんのなかで天じょうのしみを見てたら、顔に見えました。たくさんの顔。
目をつぶったらおばあちゃんの声が聞こえました。「みーちゃん、みーちゃん」って。でもだんだん若い声になっていって、さいごは女の子みたいな声になりました。おばあちゃんは今、50さいくらいに見えます。
夜中にトイレに行って、おばあちゃんの部屋のまえを通ったら、光がもれてました。すこしだけ見ました。
おばあちゃんが鏡の前にすわってて、鏡の中の顔は若い女の人でした。20さいくらいの。おばあちゃんが鏡にむかって「あと何日?」って聞いてました。鏡の中の人の口が動きました。声は聞こえなかったけど。何て言ったかは
担任教師の赤ペンコメント:
美咲さん、おばあちゃんのおうちでの日記、ありがとう。おばあちゃんのそうめん、おいしそうね。年をとるにつれて、その人の若い頃の面影が出てくることって、確かにあるわ。おばあちゃんとの時間、大切にしてね。
【カセットテープNo.1 7月22日】
「美咲ちゃんは今日、おばあちゃんのうちにいる。電話で少し話した。(受話器を置く音)おばあちゃんが若くなっている、と。子供の目に、大人はいつもより大きく見えたり小さく見えたりする。夏の光のせいもあるかもしれない。テープを止めた。外が——いや、何でもない。お茶がぬるくなっていた」




