発見文書 No.002
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発見文書 No.002
種別:夏休み日記
担当:山田翔太
日付:昭和62年7月21日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
なつ休みに入って、さっそくすごい大ぼうけんをしました。
朝おきたら、へんな感じがしました。まず、空の色がいつもとちがいます。なんか、むらさきっぽいような、へんな色でした。お母さんに「空がへんだよ」って言ったら「いつもどおりよ」って言われました。ぜったいいつもとちがうのに。
あと今日、朝ごはんがピーマンのいためものでした。なつ休みの初日なのにピーマンとかありえません。お母さんにもんく言ったら「ぜんぶ食べなさい」って言われました。2こだけ食べました。
みそしるを食べてたら、なんか、あわがへんでした。ぷくぷくしてて、それがずっと見てたら顔みたいに見えて、気もちわるくなりました。でもお母さんに言わなかった。言ったらまた「つかれてるのよ」って言われるから。テレビでは「今日は7月21日です」ってアナウンサーが言ってました。何回も言ってた気がしたけど、べつにふつうかもしれない。
ごはん食べてから、けんたくんちに行きました。とちゅうの道がちょっとへんで、電信ばしらのかげが太陽のはんたい側にのびてました。でも、ぼくかげのこととかあんまりくわしくないから、たぶんそういうこともあるんだと思います。くつの音がピチャピチャしたのは気になりました。ぬれてないのに。
けんたくんちのチャイムをならしたら、音がぎゃくだった気がします。「ポーンピン」って。でもチャイムってそういう音だったかもしれない。
けんたくんが「今日へんな夢見た」って言いました。「学校の時計塔にかみなりが落ちる夢」だって。ぼくはゆうべドラクエの夢を見たので、その話をしたかったけど、けんたくんが先にしゃべるのでやめました。けんたくんはいつもそう。
ゆうきくんとたかしくんもいっしょに、学校のうら山に行きました。山に入るところにとりいがあって、赤いペンキがべたべたしてました。さわってないのに手が赤くなりました。水であらったらとれました。
セミの声がへんでした。ぎゃくさまに鳴いてるみたいな気もしたけど、たかしくんに言ったら「セミってそういうもんだろ」って言われました。たかしくんはたかしくんで、ゆうきくんのかばんをかってにあけてたので、ゆうきくんがおこってました。そのあいだにぼくがいちばん先にほこらを見つけました。
ほこらの前に立ったら、あまいにおいがしました。わたがしみたいなにおい。あたまがぼーっとしてきて、なんか目の前がキラキラしました。
ほこらの中に小さなぞうがありました。顔がすりへってて何のぞうかわからないけど、目だけがこっちを見てる感じでした。むねがドキドキしました。
けんたくんが「ドラゴンクエストみたいだ」って言って、そこらへんの木のえだを拾ってけんにしました。えだがぬるぬるしてました。水じゃない、なんかトロッとしたやつ。
山のてっぺんに大きな岩があって、その上に赤い風りんがありました。
ガラスでできてて、下に小さな紙がぶらさがってました。何か書いてあったけど読めませんでした。字じゃないみたいなもよう。
風がないのに、チリンチリンって鳴ってました。耳で聞こえるっていうか、あたまの中で聞こえる感じ。目をつぶるともっとはっきり聞こえました。何か声みたいなのもまざってたかもしれないけど、なんて言ってるかはわかりませんでした。「まだ」とか「早い」とか、そんなふうに聞こえたような聞こえないような。けんたくんに「何か聞こえた?」って聞いたら「風りんの音だけ」って言ってました。
たかしくんが風りんをさわろうとしたら、手がすりぬけました。本当にそこにあるのに、さわれない。水みたいにすーっと通りぬける。すごかった。ゆうきくんもやったけどだめでした。ぼくはやりませんでした。なんか、さわったらいけない気がしたから。
そしたら森の中からだれかの声がしました。
何て言ったかは、はっきりわかりません。ぼくには「はちがつ」って聞こえた気がしたけど、けんたくんは「何も聞こえなかった」って言ってたし、ゆうきくんは「鳥の声だろ」って言ってました。たかしくんだけ「おれも聞こえた」って言ってたけどたかしくんはうそつきなのであんまりしんようできません。
帰りの道は、のぼりとちがってました。土の道だったのに石の階だんになってて、108だんありました。じょやの鐘とおんなじ数です。算数のテストでこんなの出たらいやだな。
とちゅうでおじぞうさまがあって、赤いよだれかけが息してるみたいにふくらんだりしぼんだりしてました。おじぞうさまの目がまばたきした。と思う。たぶん。ふりかえったらうしろにもう一つあった気がしたけど、もう一回見たら一つだけでした。
家に帰ったら、お母さんが「今日は7月21日よね?」ってへんなことを聞いてきました。カレンダー見ればわかるのに。
ばんごはんのときテレビで天気よほうを見たら、おじさんが「明日は本当に7月22日です」って言いました。へんな言い方です。あたりまえです。
にくじゃがのじゃがいもの中に黒い点があって、目みたいに見えました。お母さんに見せようとしたら、もうなくなってました。にくじゃがはおいしかったです。ピーマンより100倍いい。
お風呂でゆぶねの中の自分の顔がへんに見えました。ちがう子みたいでした。あと、かべの中からポタンポタンって音がしてました。じゃぐちはしまってるのに。
ファミコンでドラクエやりました。レベルが15から12にさがってました。でもアイテムに「赤い風りん」ってのがふえてて、せつめいに「時をとめるふしぎな風りん」って書いてありました。こんなアイテムしらない。けんたくんに電話して聞こうとしたけど、もう9時すぎてたのでやめました。
電げんを切ろうとしたら画面に「冒険は、まだ終わらない」って出ました。電げんを切ってもしばらく字が残ってました。
ふとんに入ったら風りんの音が聞こえました。うちには風りんありません。まくらのそばで鳴ってるみたい。目をあけると
担任教師の赤ペンコメント:翔太くん、夏休み最初の日記、ありがとう。お山の探検、勇気があってえらいわね。ピーマンは栄養があるから、もう少しがんばって食べようね。赤い風鈴の音が聞こえたというお話、先生にはちょっとわからないけど、翔太くんの耳には本当に聞こえたのね。……翔太くん、その風鈴、今でも鳴っていますか。今でも、聞こえますか。
【カセットテープNo.1 7月21日】
「翔太くんが日記を書いてきた。声に出して読み上げてもらったので、録音した。元気な声だった。ピーマンの文句を言うところで笑ってしまった。(笑い声)ゲームみたいに話すから。うら山のほこらそばの赤い風りん——あそこに風りんがあることを、翔太くんはどうして知っていたのだろう。子供が一人で行くような場所ではないのに。録音の中の翔太くんの声を聞き返した。声の後ろに、チリン、という音が入っていた。窓は閉まっていたのに。……外が蒸し暑い。いい夏だ」




