発見文書 No.001
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発見文書 No.001
種別:教師による記録
日付:昭和62年7月20日
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昭和62年7月20日(月) 終業式
終業式後、6年1組教室にて。夏休みの宿題について説明。
担任になって4か月。だいぶ打ち解けてきた。教頭先生には「6年生は難しいよ」と言われていたけれど、素直ないい子たちだ。
黒板にカレンダーを書いた。7月21日から8月31日まで、42日間。チョークの粉で指が白くなった。
課題の説明。「夏休みの思い出」作文。一人一日ずつ、担当日を決めて、原稿用紙5枚程度。40人の作文を合わせたら、クラス全体の夏休みの記録になる。
担当日の割り当て:
山田翔太 7月21日
(一番に手を挙げた。あの子は何でも一番がいい。椅子がガタンと鳴った)
鈴木美咲 7月22日
田中大輝 7月23日
佐藤愛 7月24日
(「特別なことがなかったらどうするの?」と心配。遠足の前にも3回聞いてきた子)
高橋拓也 7月25日
伊藤さやか 7月26日
【以下、40人分の割り当てが記載されているが省略する——浅川静】
近藤あや 8月13日
——あやに8月13日を告げたとき、教室がひんやりした気がした。なぜだろう。お盆だから?
窓の外に、一瞬、赤い光が走ったように見えた。目の錯覚だと思う。給食を食べすぎたせいかもしれない。
【中間の割り当ては省略——浅川静】
北村ひろみ 8月31日
(私と同じ名前の女の子。
最初に出席を取ったとき驚いた。同僚の山本先生に「まぎらわしいね」と笑われた)
ひろみに「夏休み最後の日よ」と告げたら「責任重大」と笑っていた。
説明終了。教室を出ようとしたら、ひろみが残っていた。
「先生、夏休み、本当に終わりますよね?」
変な質問。「もちろん。8月31日で終わって、9月1日から2学期が始まるわ」と答えた。ひろみは微笑んだ。安心したような、不安そうな顔。
——なぜあの質問が気になるのか、自分でもわからない。
職員室に戻る途中、廊下の窓から校庭の時計塔が見えた。3時33分を指していた。いや、3時20分だった。もう一度見たら文字盤自体がよく見えなかった。
職員室の自分の机。赤ペンが一本置いてあった。誰かが置いていったのだろう。手に取ったら、インクがまだ乾いていなかった。
いい夏休みになるといいな。42日間。
ここから先は個人的な記録として書く。
あの山に祠がある。子供のころから近づいてはいけないと言われていた。翔太くんが赤い風鈴を見つけた場所の、すぐそばだ。——翔太くんはまだ見つけていない。明日見つけるはずの場所だ。なぜ私が知っているのか。
子供のころ、夏のプールで迷子になったことがある。だれかに手を引かれて戻ってきた。白い水着を着た子。顔は思い出せない。
8月13日に山に行った記憶がある。何をしたか覚えていない。一人で帰ってきた記憶だけがある。みんながまだそこにいたのに。
——なぜ今日、これを書いたのかわからない。書かなくてもよかった。でも書いておく。
北村ひろみ
【カセットテープNo.1 7月20日・録音開始】
「7月20日、終業式の日。(マイクを調整する音)子どもたちの夏休みの記録を、声でも残しておこうと思って、録音を始めることにした。日記は文字で残るけれど、声はまた違う何かを残せる気がして。翔太くんが一番に手を挙げた。あの子はいつもそう。元気な声が教室に響いた。あやちゃんに8月13日を告げたとき、教室がひんやりした。夏なのに、少し寒かった。ひろみちゃんに、自分と同じ名前の子に、最後の日を告げた。夏休みが本当に終わるか、と聞かれた。なぜか答えるのに少し間があった。テープを止める前に、廊下の窓の外を見た。時計塔の針が——いや、いい。いい夏休みになるといいな」




