発見文書 No.050
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発見文書 No.050
種別:フィールドノート・MD書き起こし
記録者:阿部(記者)
日付:2000年8月13日 夜〜8月14日
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フィールドノート 2000年8月13日 夜
施設を出たのは夕方だった。何時だったか分からない。
ホテルに戻ってから、MDに残りを記録した。
MD書き起こし 2000.08.13(夜)
【阿部一人による録音。ホテルの部屋】
阿部: 2000年8月13日、夜。ホテルにて。本日の取材を記録する。
(間)
阿部: Kの言葉を整理する。「時間は円になった」。「全部、今日です」。「ここにいることにした」。
(間)
阿部: 施設を出る前に、Kが一つだけ聞いてきた。
(間。約十五秒)
阿部: 「阿部さんは、今、どちら側にいますか」
《どちら側にも いられます どちら側にも いられません》
(間)
阿部: 答えられなかった。
阿部: どちら側。外と内。記録する側と記録される側。取材する側と取材される側。
阿部: 俺は外にいるはずだ。記者だ。外にいて記録する。それが仕事だ。
(間。椅子を引く音)
阿部: 窓の外を見ている。奥武蔵市の夜景。2000年の夏の夜。
(五秒の沈黙)
阿部: 太陽が——
(録音が十七秒間、無音)
阿部: 夜に太陽は出ない。
(また沈黙。二十秒)
阿部: 明日も、会いに行く。
(三秒の間)
阿部: 取材のために。
(録音終了)
フィールドノート 2000年8月14日
昨日から何かが変わった。
何が変わったのか言葉にできない。
今朝、鏡で顔を見た。髭は剃ったはずなのに伸びている。いつ伸びた。昨夜剃ったか。覚えていない。
朝飯は——食べたはずだ。何を食べたか。ホテルの無料パン。たぶん。
施設に向かった。バスに乗った。
歩数は——三十歩だった。ぴったり。
Kは昨日と変わらず窓際の椅子にいた。
「よく来ましたね」と言った。
昨日と同じ言葉だった。
MD書き起こし 2000.08.14
【録音開始。蝉の声。音質は良好だが、阿部の声の質が昨日と微妙に変わっている。抑揚が減っている】
阿部: 今日は8月14日です。
K: そうですね。夏休みの続きです。
阿部: 日記の8月14日の担当について、お聞きしたいのですが——
K: 野村大介くんの日記ですね。8月13日の記憶がない、と書いた子。
阿部: はい。記憶がない。手が赤い。
K: 大介くんの手はね、赤かったんじゃなくて、見えていたんです。ほかの子には見えなかった赤が、大介くんにだけ見えていた。
阿部: (ペンを走らせる音。前より遅い) お母さんには「なにもついてないわよ」と言われたそうですが。
K: お母さんは外にいますから。
阿部: 外、とは——
K: 8月の外です。
(間。阿部は何も言わない。十秒)
K: お茶のおかわりはいかがですか。
阿部: いただきます。
(お茶を注ぐ音。飲む音)
K: 阿部さん。今日のお茶、あまくないですか。
阿部: (三秒の間) ……すこし。
K: そうでしょう。
【録音終了】
フィールドノート 2000年8月14日 帰宅後
お茶がほんのり甘かった。
日記に何度も出てきた「あまいにおい」「あまい味」。子供たちが感じていたもの。
あれと同じかどうか分からない。ただ——甘かった。
ホテルに戻って水道の水を飲んだ。水も甘かった気がした。
気がしただけだ。
夕飯は——何を食べたか。
食べた。何かを。コンビニに行って。何かを。
思い出せない。
いや、サンドイッチだった。たまごサンド。味は——
味は。
——記録する。サンドイッチを食べた。味はふつうだった。




