発見文書 No.036
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発見文書 No.036
種別:夏休み日記(判読困難)
担当:大野正志
日付:昭和62年8月26日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
きょうも永遠の8月■■日です。
朝起きて日記を書こうとしたら、書いた文字が■■■に変わっていきました。
「きょうは」って書いたのに、「■■■は」になりました。消しゴムで消しても、もう一度書いてもだめです。
お母さんに見せたら、お母さんは読めるみたいでした。「きょうは、って書いてあるじゃない」って。
わたしにだけ読めない。わたしが書いた文字がわたしにだけ読めない。
学校に行く道の看板も。 「■■商店」「■■■科医院」「立入■■」
でも不思議なことに、意味はわかります。■■■でも、なんとなくわかる。文字が消えても、意味は残ってる。
——意味だけが残る世界。
昼、カレー。味は……わからなかった。食べたのに。カレーだったということだけ覚えてる。味が■■■になってる。
午後、みんなと集まった。
みんなの顔を見た。みんなの顔が——ちゃんとある。目と鼻と口がある。でも名前が出てこない子がいた。顔は知ってるのに、名前が■■■。
「おれの名前、覚えてる?」って聞いたら、翔太くんが「■■■だろ」って言った。
聞こえた。でも■■■だった。
名前が消えはじめてる。文字だけじゃなくて、名前が。
夕方、家に帰った。お母さんが「■■■、おかえり」って言った。
おれの名前を呼んだはずだ。でも■■■にしか聞こえなかった。
今、日記を書いてる。
書いてる端から■■■になっていく。
でも書く。書きつづける。■■■になっても。
だれかが読んでくれるかもしれないから。
だれかには、読めるかもしれないから。
おれの名前は——
おれの名前は——
■■■■■。
担任教師の赤ペンコメント:
■■くん、■■■を■■■くれて、■■■とう。でも、■■くんの■■■は、ちゃんと先生にとどいているよ。
《■■■のなかにも ことばはあります》
【浅川静・編集注】
大野正志の日記について。カセットテープNo.5は、この日以降の録音を収めるはずだった。しかしNo.5はテープが内側から食い破られた状態で発見された。再生不能。
8月26日以降の北村ひろみの声は、どこにも残っていない。
No.5の最終録音(8月25日・篠原美穂の篇)が、北村の最後の通常記録だった。
「次の人へ——この録音を聞いてくれる人へ」という言葉が、最後だった。




