発見文書 No.034
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発見文書 No.034
種別:夏休み日記(複数)
担当:河野雄介・福田さやか・谷口隆司
日付:昭和62年8月22日〜24日
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【注記(浅川静):8月22日から24日にあたる日記は、担当者が記載されているものの、文体の個人差が急速に薄れている。以下、各日の概要と特筆すべき変化を記録する。三篇とも全文を掲載するには相互の類似性が高すぎるため、要約と抜粋で構成する】
8月22日 河野雄介
概要:声が遅れて聞こえるようになった。自分の声を出してから、声が聞こえるまで2秒かかる。みんなの声も遅れている。「時間がずれてる」と書いている。
特筆すべき箇所:
「みんなでしゃべっていると、自分がだれかわからなくなるときがある。わたしが言ったのか、となりの子が言ったのか、区別がつかない。声が同じだから。同じ声で、同じことを言ってるから。
今日のおやつはかきごおり。シロップはいちご。
——かきごおりのことを書いて、ほっとした。かきごおりのことなら、自分が自分だってわかる。わたしはいちごシロップが好きで、弟はメロンが好き。それはわたしだけのこと。みんなと同じじゃない。
でも、みんなもいちごが好きだったらどうしよう」
赤ペンコメント:
雄介くん、かき氷おいしかったでしょう。先生もいちごが好きですよ。……食べているあいだだけ声がもどる、という話。先生もこのごろ、お茶を飲んでいるあいだだけ自分の声が聞こえる気がします。飲み終わると——。よく書けましたね。
【カセットテープNo.5 8月22日】
「雄介くんの——声を——録音した。(間。テープのノイズが大きい)かき氷の話。いちごシロップ。食べているあいだだけ——。先生も今日、お茶を飲んでいるあいだだけ——自分が——。(ノイズ。約五秒)声が——まじって——。(ここで北村の声が別の声と重なっている。聞き分けられない)——覚えていてね。味を。自分の味を。忘れないで——。(テープの状態が悪く、以降は断続的なノイズのみ)」
8月23日 福田さやか
概要:影が体と別に動くようになった。影が先に歩き、体があとからついていく。みんなの影も「集まって話している」ように見えた。
特筆すべき箇所:
「影がじぶんよりさきに歩くから、影のあとをついていくかたちになった。おもしろいような、こわいような。
でも影のほうが道を知ってる気がする。影が行く方向についていくと、みんながいる場所につく。
わたしたちの影は、わたしたちより先に集まってる。
——『わたしたちの影は、わたしたちより先に集まってる』って書いた。わたしたちって、また書いた。
お昼はおにぎり。おかかとしゃけ。しゃけのほうがおいしかった」
赤ペンコメント:
さやかさん、影が先に歩く。先生の影も今日、すこしだけ先に動いた気がしました。影はもう、別のものかもしれない。
8月24日 谷口隆司
概要:みんなで「約束」をした。何の約束かは明確に書かれていない。「永遠の8月を、いっしょに生きよう」という一文がある。個人の体験はほとんど書かれておらず、大半が「わたしたち」の行動の記述。
特筆すべき箇所:
「今日、みんなで約束した。なんの約束だったか、うまく書けない。でも大事な約束だった。
永遠の8月を、いっしょに生きよう。だれも一人にしない。だれも置いていかない。帰るときはみんないっしょ。
——いつ帰るのかは、まだわからない。でも約束した。
ばんごはんはにくじゃが。じゃがいもがほくほくだった。——にくじゃがのことを書こうとして、てが止まった。日記に食べものの話を書くのが、なぜかむずかしくなってきた。食べたのは覚えてるのに、味を思い出すのに力がいる。
にくじゃがは、おいしかったです。おいしかった、と思います」
赤ペンコメント:
隆司くん、約束をありがとう。先生も約束します。ずっとここにいます。
《約束は、まもられます》
【カセットテープNo.5 8月22日〜24日】
「8月22日。雄介くんの声を録音した。——誰の声だったか、あとで聞き返したとき、すこしだけ迷った。(間)
8月23日。さやかちゃんの声を録音した。——声が、理恵ちゃんに似ていた。(間)
8月24日。隆司くんの声を録音した。みんなの約束の話。永遠の8月。いっしょに。——先生も約束した。約束した気がする。いつ、だれと、なにを。声を残すこと。記録すること。次の人に渡すこと。(長い間)食べものの味を思い出すのに力がいる、と隆司くんが言った。わたしも今日、昼に何を食べたか思い出せなかった。食べたはずなのに。記憶のなかで、食べものの部分だけが薄くなっている。夏の記憶だけが濃くなっている。(間)テープが減ってきた。No.5が——」




