発見文書 No.033
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発見文書 No.033
種別:夏休み日記
担当:横山健太
日付:昭和62年8月21日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
今日、川に行きました。みんなで。
みんな、っていうのは20人くらいです。昨日より増えてた。うちのクラスだけじゃなくて、べつのクラスの子もいた。でもべつのクラスの子は、しばらくいっしょにいて、途中で帰りました。「なんかへんな感じがする」って言って。
うちのクラスの子だけが残りました。
川で泳ぎました。冷たくて気持ちよかった。
泳いでるとき、川の底に何か光ってるのが見えた。赤い光。
もぐってみたら、石の隙間に赤いガラスの破片みたいなのがはさまってた。
——風鈴の欠片かもしれない。
取ろうとしたけど、指がすりぬけた。さわれなかった。翔太くんの風鈴と同じ。
「見て」って川からあがってみんなに言ったけど、みんなは「なにが?」って。
見えてなかった。おれだけ見えた。
——いや。もう一回みんなが見にいったら、「あ、見える」って翔太くんが言った。そのあと、「見える」「見える」って一人ずつ増えていった。おれが最初に見て、そのあと伝染するみたいに、みんなに見えるようになった。
同じものが、同時じゃなくて、順番に見えるようになる。
前田くんが「写真に撮ろう」って言ったけどカメラを持ってなかった。
昼ごはんはコンビニでパンを買って食べた。メロンパン。130円。うまかった。
午後はまた川で遊んだ。
遊んでるうちに、みんなの動きがそろってきた。
だれかが水をかけると、みんな同時によける。だれかが走ると、みんな同じ方向に走る。打ち合わせしてないのに。
「わたしたち、息が合ってきたね」って愛さんが言った。
——「わたしたち」。
愛さんがいつから「わたしたち」って言うようになったか、覚えてない。でも今日はみんな、「おれ」とか「わたし」じゃなくて「わたしたち」って言ってた。
おれも。
「わたしたちは、川で遊んだ」って、帰ってからお母さんに言った。
お母さんが「あんた、『おれ』じゃなくて『わたしたち』って言うの」って笑った。
——なんで「わたしたち」って言ったんだろう。
いつもは「おれ」って言うのに。
日記でも今、「おれ」と書いてるけど、さっきまで「わたしたち」って書きそうになった。
ごはんは焼き魚。サンマ。骨が多くていやだけど、味は好き。お父さんが「食べ方がへたくそだ」って笑ってた。
寝る前に鏡を見た。
おれの顔だった。ふつうに。
でも、すこしだけ、別の子の顔に見えた瞬間があった。だれか、知ってる子の——名前が出てこない。クラスのだれか。
すぐにおれの顔にもどった。
おれはおれだ。
でも、「おれ」って書くのに力がいるようになってきた
《まざってきました》
担任教師の赤ペンコメント:
健太くん、川あそび——。みんなの声が重なって聞こえるようになっています。先生の声も、もしかしたら——。よく書けました。
【カセットテープNo.5 8月21日】
「健太くんの日記を録音した。——声が。(長い間)声が、大地くんに似ていた。いや大地くんの声は翔太くんに似ていて、翔太くんの声は——。重なっている。まじっている。(間)今日、子供たちの声を録音しながら、自分の声も聞こえた。テープに入るはずのない声が。テープを再生して確認しようとして——やめた。確認したら、聞こえてしまうかもしれない。聞こえたら、認めなければならない。まだ認めたくない」




