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発見文書 No.032

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発見文書 No.032

種別:夏休み日記

担当:斎藤理恵

日付:昭和62年8月20日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 夜中に目がさめました。


 部屋にだれかがいました。


 暗くて顔は見えなかったけど、ベッドのそばに立ってました。小さい人。わたしと同じくらいの背丈。


 ——怖くなかった。


 前なら叫んでたと思う。でも怖くなかった。その人が「敵じゃない」って、なんとなくわかったから。


 その人が手をのばしてきました。わたしの腕にさわった。つめたい手でした。


 さわられたところの肌が、すこしだけ透けました。骨が見えた。一瞬だけ。


 「垢嘗め」かな、と思いました。妖怪の。体をきれいにしてくれるやつ。


 でも垢嘗めって舐めるんじゃなかったっけ。舐められてない。さわられただけ。


 朝起きたら、体がすこし軽かったです。


 鏡を見たら、腕がうっすら透けてた気がしました。でも目をこすったらふつうでした。


 お母さんに「わたし透けてない?」って聞いたら「何言ってるの」って笑われました。


 朝ごはんはパンとたまご。ジャムはブルーベリー。おいしかった。


 今日もみんなと集まりました。学校の近くの公園。もう毎日集まってます。


 今日は15人くらいいました。翔太くん、愛さん、大輝くん、ゆかりさん、真一くん、亜希子さん、大地くん、拓海くん、りなさん、千夏さん、美月さん、晃くん、正雄くん、あかりさん、わたし。


 みんなでおしゃべりしました。


 ——でも、話の内容がへんでした。みんな同じことを話すんです。


 「昨日の夜、へんな夢を見た」って誰かが言うと、「わたしも」「おれも」「わたしも」って。同じ夢。学校の教室にいる夢。先生がいる夢。みんなが日記を書いている夢。


 わたしも同じ夢を見てました。


 15人全員が、同じ夢を見ていた。


 これは——共感覚っていうんでしょうか。ゆかりさんがそう言ってました。「みんなが同じものを感じてる」って。でも共感覚ってそういう意味だったかな。


 帰るとき、みんなで手をつないで帰りました。なんでそうなったか覚えてない。誰かが手をつないで、となりの子もつないで、気がついたら15人で手をつないで歩いてた。


 おかしい光景だったと思います。小学6年生が15人、手をつないで道を歩くなんて。


 でもだれも恥ずかしがらなかった。


 自然だった。


 ——「自然だった」って書いて、ちょっと怖くなりました。自然じゃないことが自然に感じられるようになってる。でもその怖さも、すぐに消えました。


 家に帰って、日記を書いてます。


 腕はもう透けてません。


 ふつうの腕です。


 ふつうの、わたしの腕



担任教師の赤ペンコメント:

理恵さん、みんなと手をつないで帰ったのね。先生も子供のころ——。みんなが同じ夢を見ていたこと。先生もみんなと同じ夢を見ています。みんなといっしょに。よく書けましたね。


【カセットテープNo.5 8月20日】


「理恵ちゃんの日記を録音した。声がやわらかくなっている。前はもうすこし硬い声だったのに。(間)15人が同じ夢を見た。同じ教室。同じ先生。同じ日記。わたしもその夢を見ている。——見ている。毎晩。教室にいる夢。子供たちが下を向いて書いている。わたしが赤ペンを持って、うしろを歩いている。テープを——止めない。まだ残す。残さなければ」

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