発見文書 No.031
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発見文書 No.031
種別:夏休み日記
担当:宮崎大地
日付:昭和62年8月19日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
今日、空を飛んだ。
朝起きたら庭に白い布が落ちてた。大きくて、ベッドシーツくらいあった。
ひろってみたら、布がふわっと浮いた。手を離しても浮いてた。
おもしろくなって乗ってみた。乗れた。布の上に立ったら、ゆっくり浮いた。
——これ、一反木綿ってやつかもしれない。
お化けは怖い。でもこれは怖くなかった。白い布だから。ただの布みたいだから。
布に乗って、屋根のうえまで上がった。屋根から町が見えた。
町はいつも通りだった。でも、上から見ると、赤い点がいくつもあった。赤い屋根——じゃなくて、屋根の上に赤い何かが乗ってた。風鈴みたいなもの。いくつもの家の屋根に。
前はなかったと思う。
もっと高く上がろうとしたけど、布はそれ以上は上がらなかった。屋根の高さまで。
降りて、布を庭に置いた。しばらく見てたら、布がゆっくり消えた。透明になって、なくなった。
お母さんに言っても信じてもらえないから言わなかった。
お昼ごはんはオムライス。お母さんがケチャップで顔を描いてくれた。弟のそうた(小3)のには笑顔で、おれのには怒った顔だった。なんで。
午後、翔太くんたちとまた集まった。公園で。みんないた。昨日より人数がふえてた。10人くらい。
空を飛んだ話をしたら、翔太くんが「おれも乗りたい」って言った。でも布はもうないから乗れない。翔太くんがっかりしてた。
みんなで話してたら、りなさんが「わたしのピアノが勝手に鳴る」って言った。千夏さんが「井戸から赤い光が出る」って。みんな、自分のへんなことを話した。
でも、怖がってる子がいなかった。
一か月前なら怖がってたと思う。でも今はだれも怖がってない。ふつうのことみたいに話してる。
「もう慣れたよね」っておれが言ったら、みんなうなずいた。
慣れた。
藤井くんも同じこと言ってた。「慣れた」って。
慣れたことを、みんなが同時に受け入れてる。
帰り道、翔太くんと二人になった。翔太くんが言った。
「大地、おまえの声、おれに似てきてない?」
わかんなかった。自分の声ってわかんないから。
でも翔太くんの声は、前よりすこし低くなった気がする。おれの声に似てきたのかもしれない。
お互いに似てきてるのかもしれない
担任教師の赤ペンコメント:
大地くん、空を飛んだの。すごいね。……みんなが「慣れた」と言っていること。先生もみんなといっしょに慣れています。よく書けました。
【カセットテープNo.5 8月19日】
「大地くんの日記を録音した。声が翔太くんに——いや。似ているかどうか。わたしの耳がおかしいのかもしれない。(長い間)空を飛んだ話。白い布。一反木綿。妖怪、だろうか。子供たちは怖がっていない。怖がらなくなっている。それは——」




