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発見文書 No.030

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発見文書 No.030

種別:夏休み日記

担当:田村亜希子

日付:昭和62年8月18日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 今日、みんなとあそびました。


 翔太くんと、愛さんと、大輝くんと、ゆかりさんと、真一くんと、わたしで、学校の近くの公園に行きました。久しぶりにたくさんの友だちとあそびました。


 でもへんでした。


 みんなが同じことを話すんです。


 翔太くんが「風鈴の音がする」って言ったら、愛さんも「する」って。大輝くんも「する」。ゆかりさんも「する」。真一くんも「する」。


 わたしも——聞こえてました。チリン。遠くで。


 「みんな聞こえるんだ」って翔太くんが言ったとき、なんか、へんな気持ちになりました。嬉しいような。こわいような。みんなが同じものを聞いてるって、安心するけど、安心しちゃいけない気もする。


 公園でおにごっこをしました。ふつうのおにごっこ。走って、つかまえて、逃げて。


 でも、走ってるとき、影がへんでした。みんなの影が、ふつうに動いてた。あたりまえです。でも——


 影が全部、同じ方向を向いてました。太陽の位置とか関係なく。全員の影が、学校の方角を指してた。


 だれも気づいてなかった。ゆかりさんに言おうかと思ったけど、やめた。言っても「そうだね」って言われるだけな気がしたから。


 お昼に家に帰って、そうめんを食べました。つゆがあまかった。お母さんに「あまくない?」って聞いたら「いつも通りよ」って。


 ——みんなのお母さんは「いつも通り」って言う。いつも。


 午後、またみんなと集まりました。今度は翔太くんの家で。ファミコン大会。ドラクエとマリオ。


 ドラクエをやったら、みんなのセーブデータに「赤い風りん」が入ってました。翔太くんと真一くんだけじゃなくて、愛さんのデータにも、大輝くんのデータにも。ゆかりさんはファミコン持ってないから確認できなかったけど。


 「使ってみようぜ」って真一くんが言って、「赤い風りん」を使おうとしました。


 「まだその時ではない」ってメッセージが出ました。真一くんのときと同じ。


 翔太くんが言いました。「いつなら使えるんだろう」


 だれも答えなかった。


 帰り道、みんなで歩きました。


 「また明日も集まろう」って翔太くんが言いました。


 「うん」ってみんなが同時に言いました。


 同時に。声がそろった。練習してないのに。


 ——それがすこしだけこわかった。


 家に帰って日記を書いてます。お母さんが「はやくおふろ入りなさい」って言ってるけど、書き終わるまで待って。


 今日気づいたこと。みんなの声がすこし似てきた。翔太くんの声と大輝くんの声って、ぜんぜんちがうはずなのに、今日はなんか似て聞こえた。


 わたしの声も、みんなに似てきてるのかな。


 わかんない。自分の声は自分ではわかんない



担任教師の赤ペンコメント:

亜希子さん、みんなとあそんだのね。おにごっこ、楽しかったでしょう。ファミコン大会もにぎやかだったわね。……「声が似てきた」。先生がテープに録音してる子供たちの声も、最近、すこしずつ似てきている気がします。気のせいだと思いたいけれど。


【カセットテープNo.5 8月18日】


「亜希子ちゃんの日記を録音した。——この子の声が、美咲ちゃんに似ていた。いや、美咲ちゃんの声が亜希子ちゃんに似ているのか。どちらともつかない。テープを聞き返した。No.1の翔太くんの声。No.2の大輝くんの声。——ちがう声のはずだ。ちがう声だった。でも今聞くと、どこかが重なっている。声がまじりはじめている。子供たちが、すこしずつ——。考えすぎかもしれない。今日は蒸し暑い。窓を開けても風がない」

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