発見文書 No.028
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発見文書 No.028
種別:夏休み日記
担当:竹内美月
日付:昭和62年8月16日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
3日前のことをまだ思い出せません。
13日のこと。みんなに聞いてもだれも覚えてない。野村くんが「手が赤い」って言ってたのはもう消えたみたいだけど、わたしは足が重いです。どこかを長く歩いた感じ。3日たっても重い。
でも、それ以外はふつうです。ふつうの夏休み。
今日はお姉ちゃん(高1。名前はゆうか)といっしょに、駅前のデパートに行きました。お母さんに「美月の服を買ってあげなさい」って言われて、お姉ちゃんがめんどくさそうについてきました。お姉ちゃんは最近ずっとめんどくさそうです。反抗期っていうやつだとお母さんが言ってた。
デパートの4階が子供服売り場です。エスカレーターでのぼりました。
——エスカレーターの段数は数えませんでした。渡辺くんの話を聞いてから、段を数えるのをやめています。数えたらちがう数字が出そうで。
Tシャツを2枚と、短パンを1つ買ってもらいました。Tシャツの一枚は水色で、もう一枚は黄色。黄色のほうがかわいい。お姉ちゃんは「どっちでもいい」って言ってた。
試着室で着がえてたとき、鏡を見ました。
鏡の中のわたしが、すこしだけ大人に見えました。
背が高くなったわけじゃないです。顔が変わったわけでもない。でも、なにかが——すこしだけ、疲れた顔に見えました。小学6年生にしては。
鏡をもっとよく見ようとしたら、お姉ちゃんが「早くしてよ」って言ったので出ました。
帰りにクレープ屋さんに寄りました。わたしはいちごクレープ、お姉ちゃんはチョコバナナ。お姉ちゃんのクレープのほうが大きかった。ずるい。
クレープを食べてるとき、お姉ちゃんが急に言いました。
「美月、最近なんかへんじゃない?」
「へんって何が」
「なんか、ぼーっとしてる。13日からずっと」
13日。お姉ちゃんにはわたしの変化が見えてるみたいです。
「べつにふつうだよ」
「ふーん」
お姉ちゃんはそれ以上聞かなかった。お姉ちゃんはそういうところがある。しつこくない。
家に帰って、買ってもらった服をたたんでタンスにしまいました。しまうとき、水色のTシャツのタグを見たら、サイズが「150」でした。わたしは140のはず。お店で合わせたときちょうどよかったのに、タグは150。
——サイズを間違えたのかな。でも着たときちょうどよかったし。
まあいいか。すこし大きくてもすぐ体が追いつくし。
晩ごはんはハヤシライス。お母さんのハヤシライスは甘めでおいしい。弟のけんた(小2)がスプーンをテーブルに落として、お母さんにおこられてた。けんたはいつも何か落とす。
夜、ねる前に窓の外を見ました。空に星。赤い星がひとつ。火星かな。ゆかりさんも同じこと言ってたっけ。
今日は比較的ふつうの一日でした。
「比較的」と書いたのは、ぜんぶがふつうではないから。鏡の中の顔がすこし疲れていたこと。Tシャツのサイズが合わないこと。赤い星。
でも、それぞれバラバラで、つながりはない。たぶん
担任教師の赤ペンコメント:
美月さん、お姉ちゃんとのお買い物、楽しかったでしょう。クレープおいしそう。お姉ちゃんがしつこくないところ、いいお姉ちゃんね。……「比較的ふつう」という言い方が先生にはひっかかりました。この夏は、「ぜんぶふつう」がなくなっている気がします。
【カセットテープNo.4 8月16日】
「美月ちゃんの日記を録音した。(間)おだやかな日記だった。クレープの話で声が明るくなった。鏡の話のところで少しだけトーンが下がった。——この子は『比較的ふつう』と書いた。『ふつう』ではなく。子供たちの『ふつう』の基準がずれてきている。13日のまえと、あとで。テープの残りが少ない。No.4もあと少し。麦茶を飲んだ。氷がぜんぶ溶けてた」




