表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/88

発見文書 No.028

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


発見文書 No.028

種別:夏休み日記

担当:竹内美月

日付:昭和62年8月16日


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


 3日前のことをまだ思い出せません。


 13日のこと。みんなに聞いてもだれも覚えてない。野村くんが「手が赤い」って言ってたのはもう消えたみたいだけど、わたしは足が重いです。どこかを長く歩いた感じ。3日たっても重い。


 でも、それ以外はふつうです。ふつうの夏休み。


 今日はお姉ちゃん(高1。名前はゆうか)といっしょに、駅前のデパートに行きました。お母さんに「美月の服を買ってあげなさい」って言われて、お姉ちゃんがめんどくさそうについてきました。お姉ちゃんは最近ずっとめんどくさそうです。反抗期っていうやつだとお母さんが言ってた。


 デパートの4階が子供服売り場です。エスカレーターでのぼりました。


 ——エスカレーターの段数は数えませんでした。渡辺くんの話を聞いてから、段を数えるのをやめています。数えたらちがう数字が出そうで。


 Tシャツを2枚と、短パンを1つ買ってもらいました。Tシャツの一枚は水色で、もう一枚は黄色。黄色のほうがかわいい。お姉ちゃんは「どっちでもいい」って言ってた。


 試着室で着がえてたとき、鏡を見ました。


 鏡の中のわたしが、すこしだけ大人に見えました。


 背が高くなったわけじゃないです。顔が変わったわけでもない。でも、なにかが——すこしだけ、疲れた顔に見えました。小学6年生にしては。


 鏡をもっとよく見ようとしたら、お姉ちゃんが「早くしてよ」って言ったので出ました。


 帰りにクレープ屋さんに寄りました。わたしはいちごクレープ、お姉ちゃんはチョコバナナ。お姉ちゃんのクレープのほうが大きかった。ずるい。


 クレープを食べてるとき、お姉ちゃんが急に言いました。


 「美月、最近なんかへんじゃない?」


 「へんって何が」


 「なんか、ぼーっとしてる。13日からずっと」


 13日。お姉ちゃんにはわたしの変化が見えてるみたいです。


 「べつにふつうだよ」


 「ふーん」


 お姉ちゃんはそれ以上聞かなかった。お姉ちゃんはそういうところがある。しつこくない。


 家に帰って、買ってもらった服をたたんでタンスにしまいました。しまうとき、水色のTシャツのタグを見たら、サイズが「150」でした。わたしは140のはず。お店で合わせたときちょうどよかったのに、タグは150。


 ——サイズを間違えたのかな。でも着たときちょうどよかったし。


 まあいいか。すこし大きくてもすぐ体が追いつくし。


 晩ごはんはハヤシライス。お母さんのハヤシライスは甘めでおいしい。弟のけんた(小2)がスプーンをテーブルに落として、お母さんにおこられてた。けんたはいつも何か落とす。


 夜、ねる前に窓の外を見ました。空に星。赤い星がひとつ。火星かな。ゆかりさんも同じこと言ってたっけ。


 今日は比較的ふつうの一日でした。


 「比較的」と書いたのは、ぜんぶがふつうではないから。鏡の中の顔がすこし疲れていたこと。Tシャツのサイズが合わないこと。赤い星。


 でも、それぞれバラバラで、つながりはない。たぶん



担任教師の赤ペンコメント:

美月さん、お姉ちゃんとのお買い物、楽しかったでしょう。クレープおいしそう。お姉ちゃんがしつこくないところ、いいお姉ちゃんね。……「比較的ふつう」という言い方が先生にはひっかかりました。この夏は、「ぜんぶふつう」がなくなっている気がします。


【カセットテープNo.4 8月16日】


「美月ちゃんの日記を録音した。(間)おだやかな日記だった。クレープの話で声が明るくなった。鏡の話のところで少しだけトーンが下がった。——この子は『比較的ふつう』と書いた。『ふつう』ではなく。子供たちの『ふつう』の基準がずれてきている。13日のまえと、あとで。テープの残りが少ない。No.4もあと少し。麦茶を飲んだ。氷がぜんぶ溶けてた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ