発見文書 No.027
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発見文書 No.027
種別:夏休み日記
担当:中川裕也
日付:昭和62年8月15日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
お盆です。
お母さんの実家に行きました。車で2時間。弟のたくみが車よいして、途中で2回止まりました。たくみはいつも車よいします。おれは平気です。
おじいちゃんの家はでっかい。庭が広くて、柿の木がある。犬がいる。コロっていう雑種。もう12さいでじいさん犬。
コロをなでようとしたら、コロがおれの手のにおいをかいで、びくってなった。
それからおれに近づかなくなった。
おじいちゃんに「コロどうしたの」って聞いたら「知らんなあ」って。
たくみがコロをなでたら、ふつうにしっぽふってた。おれだけだめ。
——なんでだろう。手を洗ってもう一回近づいたけど、コロはうなった。おこってるんじゃなくて、こわがってる感じ。
おれの手に何かついてるのかもしれない。野村くんが「手が赤い」って言ってたのと関係あるかもしれない。おれの手は赤くないけど、何かのにおいがついてるのかも。犬にはわかるけど、人間にはわからないにおい。
昼ごはんはおばあちゃんの手作りちらしずし。おいしかった。酢めしがすこしあまい。たまごの薄焼きがうまいんだ、おばあちゃんは。たくみがキュウリをよけて食べてた。キュウリくらい食え。
午後、おじいちゃんと墓参りに行きました。
墓地は山のなかにあります。石の階段をのぼっていく。段数は——数えなかった。数えたくなかった。渡辺くんの話を聞いてから、階段の数を数えるのがこわくなった。
お墓のまえで手をあわせました。おじいちゃんが線香に火をつけて、おれも一本もらいました。
線香のけむりが——へんな方向にながれました。風は右から吹いてたのに、けむりは左に流れた。
おじいちゃんは気にしてなかったみたいです。
それから、お墓の文字を見ました。中川家のご先祖さまの名前がならんでます。
名前のなかに「ひろみ」という字がありました。中川ひろみ。
「おじいちゃん、ひろみって誰?」
「ああ、おれの姉だ。戦争で死んだ」
「何歳だったの」
「10歳だったかな。空襲でな。昭和20年の夏だ」
おじいちゃんの姉が、ひろみ。10歳。昭和20年の夏。
——北村先生と同じ名前。
「先生と同じ名前だね」って言ったら、おじいちゃんは「そうかい」って言っただけでした。
墓参りの帰り、石の階段をおりてるとき、足元に何か落ちてました。赤い紙。小さい紙。風りんの下についてるやつに似てた。ひろって見たけど、何も書いてなかった。白い紙のはずなのに赤い。
ポケットに入れて持って帰ったら、家に着いたときにはなくなってました。ポケットの中に赤い粉みたいなのが残ってただけ。
夜、花火をしました。庭で。たくみとおれとお母さんで。おじいちゃんとおばあちゃんは縁側で見てた。
線香花火がきれいでした。火の玉が落ちるとき、ぱちぱちって音がして。
火の玉が落ちるまえに、一しゅんだけ、赤い光がぶわっと広がった。
「きれー」ってたくみが言った。
きれいだった。
きれいだったけど、おれはそのとき、べつのことを考えてた。
おじいちゃんの姉の、ひろみさんのことを。
昭和20年の夏。10歳。空襲で死んだ。
先生と同じ名前の子が、もう一人いた。昔。
それが何を意味するのか、おれにはわからない。
ただ、花火の赤い光が、ずっと目に残って
担任教師の赤ペンコメント:
裕也くん、お盆の墓参り、えらいですね。おじいちゃんのお姉さんの話、教えてくれてありがとう。中川ひろみさん。昭和20年の夏。……「ひろみ」という名前は、この土地に何度も現れるのかもしれません。先生にも。そしてもっと昔から。花火、きれいだったでしょう。赤い光は、夏のいちばんきれいなものの一つね。
《ひろみという名前を持つ者は、いつもここに来ます。いつの夏にも》
【カセットテープNo.4 8月15日】
「裕也くんの日記を録音した。ぼそぼそ話す子だ。弟の話のところで声が大きくなる。(間)中川ひろみ。おじいちゃんの姉。昭和20年。10歳。空襲。——名前が同じなのは偶然かもしれない。偶然だと思いたい。でもこの町には——この町の8月には——名前が重なることがある。北村ひろみ、という名前が。児童と教師が同じ名前であるように。(長い間)お盆だ。お盆は死者が帰ってくる。帰ってくるということは、どこかに行っているということだ。あの子たちは——。テープを止める。線香のにおいが——なぜ今、ここで」




