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発見文書 No.026

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発見文書 No.026

種別:夏休み日記

担当:野村大介

日付:昭和62年8月14日


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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】


【注記(浅川静):8月14日以降の日記は、文体が徐々に変化している。以下は可能な限り原文のまま掲載する】


 きのう何があったか、よく覚えていません。


 朝おきたら8月14日でした。カレンダーを見て確認しました。13日があったはずなのに、13日の記憶がうすい。


 おきたとき、耳鳴りがしてました。低い音。ぼーんって。それからチリンって。


 お母さんに「きのう何した?」って聞いたら「ふつうの一日だったわよ」って言われました。ふつうの一日。でもぼくにはその「ふつう」が思い出せない。


 学校のそばを通ったら、時計塔の時計が止まってました。3時33分。


 でもお母さんは「動いてるわよ」って言いました。お母さんには動いて見えるみたいです。ぼくには止まって見えます。


 ——止まってるのか動いてるのか。どっちが本当かわかりません。


 友だちに電話しました。山田くん。「きのう何した?」って聞いたら、山田くんも「覚えてない」って。田中くんも「覚えてない」。佐藤さんも「覚えてない」。


 覚えてないのはぼくだけじゃなかった。


 でも高橋くんに聞いたら「ふつうの日だったよ」って言ってました。覚えてないんじゃなくて、何もなかったと思ってる。


 ——「何もなかった」と「覚えてない」は、ちがうと思います。


 昼ごはんはチャーハン。お母さんが「きのうの残りで作ったわ」って言ったけど、きのうの晩ごはんが何だったか思い出せない。チャーハンの具に赤いものが入ってて、「これなに」って聞いたら「赤パプリカよ」って。赤パプリカ。うちではあんまり使わないのに。


 午後、学校の裏山に行こうとしました。翔太くんが見た祠を確認したくて。


 でも山に入る道が見つかりませんでした。いつもある鳥居が、なかった。


 鳥居があった場所には、ただの茂みがありました。草が生えてるだけ。


 何回もその場所を見たけど、鳥居はない。


 ——翔太くんに電話しました。「鳥居がない」って言ったら、翔太くんは「あるよ、さっき通ったもん」って言いました。翔太くんには見えてる。ぼくには見えない。


 家に帰って、日記を書いてます。


 きのう——8月13日——に何があったのか、知りたい。でも思い出せない。


 ぼくの頭の中で、8月12日の夜のつぎが8月14日の朝になっている。あいだの一日がない。


 でも、体は覚えている気がします。足がだるい。どこかを長く歩いたみたいに。手が赤い。何かをつかんだみたいに。


 風呂に入って手を洗ったけど、赤いのがとれない。


 お母さんに見せたら「なにもついてないわよ」って



担任教師の赤ペンコメント:

大介くん、チャーハンおいしかったでしょう。赤パプリカ、お母さんのあたらしいレシピかもしれないわね。……昨日のこと。先生も、昨日のことを、ぜんぶは思い出せません。覚えていることと、覚えていないことがあります。覚えていることは——子供たちの声。覚えていないことは——それ以外のぜんぶ。


【カセットテープNo.4 8月14日】


「大介くんの日記を録音した。声がいつもより低かった。疲れていたのかもしれない。(間)きのう、のことを、書かなければならない。でも今日はまだ書けない。テープに残す。——きのう、わたしは、学校に。(テープが途切れる。再開する。声のトーンが変わっている)日記の録音に戻る。大介くんの手が赤い、という話。わたしの手も赤い。朝から。洗っても落ちない。誰にも言っていない」

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