発見文書 No.025
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発見文書 No.025
種別:夏休み日記
担当:近藤あや
日付:昭和62年8月13日
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【注記(浅川静):近藤あやの日記は二枚発見されている。いずれも8月13日付。筆跡はほぼ同一だが、内容が異なる。以下に両方を掲載する】
【一枚目】
8月13日。
朝おきたら、何かがちがっていました。
ちがっていた、のに、何がちがうのかわかりません。
日記を書こうとしました。担当の日だから。わたしの日です。今日のことを書かなきゃいけない。
でもペンを持っても、字が出てこない。
頭の中には今日のことがあります。ぜんぶあります。朝起きたこと。空の色。音。みんなの顔。ぜんぶ覚えてる。覚えてるのに、字にならない。
ペンを紙におしつけました。インクは出ます。字は書けるはず。
書こうとすると手がふるえます。
書いてはいけない気がします。
今日のことを書いたら、今日が永遠に残ってしまう。記録されてしまう。
——それでも書きます。書かなければ。だれかに伝えなければ。
今日、3時33分に、
3時33分に、
書けません。
ペンが止まります。ここから先は書けません。手が——手がかってに止まります。
先生。先生に読んでもらいたいのに。先生に伝えたいのに。
先生はずっとここにいます。
【二枚目】
8月13日。
朝おきたら、きのうと同じ空でした。名前のない色の空。
風鈴の音がまだ聞こえてました。一晩中鳴ってたのかもしれない。
学校に行かないでください、って書いたのに。
先生、来ましたか。
先生、わたしたちはどこに行くのですか。
【浅川静・編集注】
一枚目と二枚目の性質がちがう。
一枚目は「書こうとして書けない」記録。8月13日に何が起きたかを書こうとして、手が止まる。3時33分に何があったかを書こうとして、ペンが紙の上で止まる。それでも最後の一行だけは書けた。「先生はずっとここにいます」。
二枚目は「問い」。先生に向けた問い。「先生、わたしたちはどこに行くのですか」。
一枚目は答えを知っているが書けない。二枚目は問いを投げる。
どちらが先に書かれたのか。判断できなかった。両方を掲載する。
担任教師の赤ペンコメント:
(一枚目・二枚目ともに空白)
【カセットテープNo.4 8月13日】
「8月13日。(非常に長い間。約30秒。蝉の声がない。完全な無音)……あやちゃんの日記を——まだ受け取っていない。でもここに記録する。8月13日。午後3時——。(録音が途切れる。テープがここで切れている。以降は空白)」




