表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/88

発見文書 No.025

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


発見文書 No.025

種別:夏休み日記

担当:近藤あや

日付:昭和62年8月13日


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【注記(浅川静):近藤あやの日記は二枚発見されている。いずれも8月13日付。筆跡はほぼ同一だが、内容が異なる。以下に両方を掲載する】


【一枚目】


 8月13日。


 朝おきたら、何かがちがっていました。


 ちがっていた、のに、何がちがうのかわかりません。


 日記を書こうとしました。担当の日だから。わたしの日です。今日のことを書かなきゃいけない。


 でもペンを持っても、字が出てこない。


 頭の中には今日のことがあります。ぜんぶあります。朝起きたこと。空の色。音。みんなの顔。ぜんぶ覚えてる。覚えてるのに、字にならない。


 ペンを紙におしつけました。インクは出ます。字は書けるはず。


 書こうとすると手がふるえます。


 書いてはいけない気がします。


 今日のことを書いたら、今日が永遠に残ってしまう。記録されてしまう。


 ——それでも書きます。書かなければ。だれかに伝えなければ。


 今日、3時33分に、


 3時33分に、


 書けません。


 ペンが止まります。ここから先は書けません。手が——手がかってに止まります。


 先生。先生に読んでもらいたいのに。先生に伝えたいのに。


 先生はずっとここにいます。


【二枚目】


 8月13日。


 朝おきたら、きのうと同じ空でした。名前のない色の空。


 風鈴の音がまだ聞こえてました。一晩中鳴ってたのかもしれない。


 学校に行かないでください、って書いたのに。


 先生、来ましたか。


 先生、わたしたちはどこに行くのですか。


【浅川静・編集注】


一枚目と二枚目の性質がちがう。


一枚目は「書こうとして書けない」記録。8月13日に何が起きたかを書こうとして、手が止まる。3時33分に何があったかを書こうとして、ペンが紙の上で止まる。それでも最後の一行だけは書けた。「先生はずっとここにいます」。


二枚目は「問い」。先生に向けた問い。「先生、わたしたちはどこに行くのですか」。


一枚目は答えを知っているが書けない。二枚目は問いを投げる。


どちらが先に書かれたのか。判断できなかった。両方を掲載する。



担任教師の赤ペンコメント:

(一枚目・二枚目ともに空白)


【カセットテープNo.4 8月13日】


「8月13日。(非常に長い間。約30秒。蝉の声がない。完全な無音)……あやちゃんの日記を——まだ受け取っていない。でもここに記録する。8月13日。午後3時——。(録音が途切れる。テープがここで切れている。以降は空白)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ