発見文書 No.020
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発見文書 No.020
種別:夏休み日記
担当:石田晃
日付:昭和62年8月8日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
おばあちゃんちに行った。お盆のちょっと前だけど、おばあちゃんがさびしがるから早めに行くことになった。
おばあちゃんちは電車で1時間。お母さんといっしょ。弟のけんたはサッカーの合宿があるからこない。いいなあ合宿。ぼくもサッカーやりたかったけどお母さんに「あんたは足がおそいから」って言われてやめた。足がおそいのとサッカーは関係ないと思うけど。
おばあちゃんちにつくと、おばあちゃんがにこにこしながら出てきた。
「まあ、ひろみちゃん」
——ぼくのなまえは晃です。ひろみじゃありません。
「おばあちゃん、晃だよ」
「あら、ごめんなさい。あきらちゃんね」
おばあちゃんは笑ってごまかしたけど、お母さんがへんな顔をしてました。
おばあちゃんの家に入って、おちゃを飲んで、おまんじゅうを食べました。おばあちゃんの家のおまんじゅうはこしあんで、ぼくはつぶあんのほうがすきだけど、おばあちゃんが「あきらちゃんのすきなこしあん」って出してくれるから食べます。ぼくはこしあんがすきだと思われてる。なおすタイミングがなかった。
おばあちゃんはまた「ひろみちゃん」って言いかけて、あわてて「あきらちゃん」って言いなおしました。3回。
お母さんがおばあちゃんに「ひろみって、だれ?」って聞きました。
おばあちゃんは首をかたむけて「だれだったかしら。知ってる子の名前なのに、思い出せないの」って言いました。
鈴木さんのおばあちゃんは美咲さんの名前をまちがえなかったけど、ぼくのおばあちゃんは「ひろみ」って呼ぶ。北村先生と同じ名前です。先生のことをおばあちゃんが知ってるとは思えないけど。おばあちゃんは祢古沢に住んでないし。
午後、おばあちゃんと散歩に行きました。
おばあちゃんの家の近くに小さな神社があります。いつもはお参りだけするんですけど、今日はおばあちゃんが急に「裏にいいところがあるのよ」って言って、神社の裏に連れていかれました。
裏に石の階段があって、のぼったら古いほこらがありました。
——翔太くんが見たほこらと、にてるかもしれない。ちがうかもしれない。祢古沢じゃないから、べつのほこらだと思います。でもなんか似てた。コンクリートのかたまりの上に木の屋根がのってて。
ほこらの前で、おばあちゃんが手をあわせました。ぼくも手をあわせました。
目をつぶったとき、あまいにおいがしました。花のにおいじゃなくて、もっとこい、ねっとりしたにおい。
——めぐみさんが言ってたにおいと同じかもしれない。
目をあけたら、おばあちゃんがぼくの顔をじっと見てました。
「あきらちゃんは、ひろみちゃんに似てるわね」
「だからひろみって、だれ?」
おばあちゃんは少し考えて、「思い出せないわ。でも、ここに来る子だったの。ずっと昔。夏になると」と言いました。
帰り道、おばあちゃんの手がふるえてました。
「おばあちゃん、だいじょうぶ?」って聞いたら、「だいじょうぶよ。ただね、あの場所に来ると、いつもなつかしくなるの。なにがなつかしいのかわからないけど」って言いました。
夜、おばあちゃんの家でテレビを見ました。「8時だョ!全員集合」の再放送。おもしろかった。いかりや長介がへんな顔するところで笑った。
ねる前に、おばあちゃんが部屋に来て「おやすみ」って言いました。そのとき、おばあちゃんの目が——なんていうか、ぼくを見てるんだけど、ぼくじゃない子を見てるみたいでした。
「おやすみ、おばあちゃん」
「おやすみ。……ひろみちゃん」
今度はなおさなかった。
まちがいじゃなくて、ほんとうにそう呼びたかったんだと思ったから。
担任教師の赤ペンコメント:
晃くん、おばあちゃんのおうちに行ったのね。おまんじゅう、おいしかったでしょう。つぶあんが好きなら、今度先生が持ってくるわ。……「ひろみ」と呼ばれた話。先生は、なぜかそのことが胸にひっかかります。おばあちゃんが見ていたのは、晃くんだったのか、それとも——。おやすみなさい。
【カセットテープNo.3 8月8日】
「晃くんの日記を録音した。いかりや長介のものまねをしてくれた。(笑い声)上手だった。……おばあちゃんが『ひろみ』と呼んだ。おばあちゃんは祢古沢の人じゃない。わたしを知るはずがない。でも『ここに来る子だった。夏になると』と言った。夏になると、来る。——テープを回しながら考えている。子供のころ、夏のプールで手を引いてくれた子。白い水着の子。あの子の名前を、おばあちゃんは知っていたのだろうか。テープ、もうすぐ終わる。裏返す」




