発見文書 No.009
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発見文書 No.009
種別:夏休み日記
担当:中村あかり
日付:昭和62年7月28日
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【発見された「祢古小学校 夏休み日記」原本より】
わたしは夏休みに入ってから、毎日図書館に行っています。学校の図書室じゃなくて、町の図書館です。エアコンがきいていて涼しいし、本がたくさんあるから好きです。お母さんには「図書館にいる」って言えば安心してもらえるので、お昼ごはんのお弁当を持って朝から夕方までいます。
今日も9時の開館と同じくらいに行きました。夏休みだから子どもがたくさんいるかなと思ったけど、わたしが一番のりでした。受付のおばさんが「あら、あかりちゃん、今日も」って笑ってくれました。このおばさんはやさしくて好きです。名前は知らないけれど。
今日は「怪談レストラン」シリーズの続きを読もうと思って、児童書のたなに行きました。でも、並んでいる本がきのうとちがう気がしました。
「怪談レストラン」があったところに、知らない本がありました。タイトルが「えいえんの八月」でした。
背表紙を見て、あれ、と思いました。こんな本はきのうなかったからです。新しい本かなと思って手に取りました。
表紙は赤い色で、風鈴の絵がかいてありました。作者の名前は書いてありませんでした。いや、書いてあったのかもしれないけど、読めなかったです。文字がにじんでいるみたいで、目をこらしてもぼやけたままでした。
ページを開きました。
最初のページに、日付が書いてありました。「昭和62年7月21日」。今年の夏休みの最初の日です。その下に、「山田翔太」と書いてありました。
翔太くんの名前です。同じクラスの。
読みはじめたら、翔太くんの日記でした。裏山に行って赤い風鈴を見つけた話。ファミコンのドラクエに「赤い風りん」というアイテムが出てきた話。
——これは、翔太くんが先週書いたはずの夏休みの日記と同じ内容でした。
でもわたしは翔太くんの日記を読んだことがありません。まだ提出していないはずだし、見せてもらったこともないです。なのに、この本に書いてある内容が翔太くんの日記だとなぜかわかりました。
つぎのページは「鈴木美咲」でした。おばあちゃんの家に行った話。おばあちゃんが若くなっていく話。そのつぎは「田中大輝」で、セミが声を出す話。
わたしのページもありました。「中村あかり 7月28日」。
今日の日付です。
でも、そこは白紙でした。まだ書かれていませんでした。——あたりまえです。わたしが今日の日記をまだ書いていないから。
急にこわくなって本を閉じました。たなにもどそうとしたけど、入っていた場所に別の本がもう入っていて、入りませんでした。しかたなく返却かごに入れました。
受付のおばさんに「『えいえんの八月』っていう本、いつ入りましたか」って聞いたら、「そんな本、うちにはないわよ」って言われました。
返却かごを見にもどったら、本はなくなっていました。かごの中には「怪談レストラン」の7巻が入っていました。きのう読み終わった巻です。
その後は「怪談レストラン」の8巻を読みましたが、あんまり頭に入りませんでした。途中でお弁当を食べました。たまごやきとウインナーとおにぎり。たまごやきがしょっぱかった。お母さんは味つけが安定しません。
午後、もう一回児童書のたなを見ました。「えいえんの八月」はありませんでした。
でも、たなの本の背表紙をずーっと見ていたら、全部の本のタイトルが少しずつ変わっている気がしました。「ズッコケ三人組」が「ズッコケ三十三人組」になってたり、「エルマーのぼうけん」が「エルマーのぼうけん 八月篇」になってたり。目をこすってもう一回見たら、ふつうにもどってました。
たぶん目がつかれてたんだと思います。朝からずっと本を読んでいたから。
帰り道、空がオレンジ色でした。夕焼けにしては早い時間だったけど、夏は日が長いから、そういうこともあるのかもしれません。
家に帰ったら弟の大地がわたしの部屋に入って漫画を読んでました。「勝手に入るな」って言ったら「姉ちゃんのへやくさい」って言われました。くさくないです。
日記を書こうとしてペンを持ったら、指先がすこしだけ赤くなっていました。インクがついたのかもしれません。赤ペンは使っていないのに
担任教師の赤ペンコメント:
あかりさん、図書館通い、えらいですね。読書はいちばんの夏休みの友だちよ。「えいえんの八月」という本のこと、先生は知りませんでした。でも、タイトルだけは知っている気がする。不思議ですね。お弁当のたまごやきは、お母さんの味。大切にしてね。
《その本の中に、先生のページもありましたか》
【カセットテープNo.2 7月28日】
「あかりちゃんの日記を録音した。静かな声で読んでくれた。弟の悪口のところだけ声が大きくなった。(笑い声)……図書館の本の話。まだ書かれていないページがある本。それは——日記帳と同じだ。40人分の担当日が決まっていて、まだ書かれていないページがある。あかりちゃんのページは白紙だった。わたしの——先生のページも、あるのだろうか。テープを止めようとして、やめた。もう少しだけ。蝉が鳴いている。(蝉の声)お茶を飲んだ。ぬるくなっていた」




