43.自己嫌悪
母が帰る前に夫の謹慎が解けて帰って来て…
起きてきた母にコーヒーを出し気持ちを聞いてもらっていた。母は話しを遮る事なく静かに聞いていた。そして私の手を握って
「正親君は全てにおいて香里を優先して来たわ。そんな優しい夫に甘えていたのね。今度は香里が正親君に応える番だよ」
「分かってる」
そう応えると永人が話に入ってきた。ここで話題を変え楽しく一家団欒をしていたら、夕方のニュースが始まり夕飯の準備を始める。母と並びキッチンに立ち料理をしながら泣きそうになる。頭では分かっているけど、母と今生の別れが待っていると思うと何とも言えない気持ちになる。今も遠くて頻繁に会えないがその気になれば会える。
泣きそうな私を見た母が苦笑いしながら私の頭を撫でた。情調不安定な私の心はぐちゃぐちゃ。
『ちゃんと考えて結婚したけど、ちゃんと解っていなかった』
きっと夫は国を背負い覚悟を持ってこの世界に来たんだ。そんな夫に比べ自分の考えの甘さに落ち込む。
察しのいい永人は何か感じている様で、いつも以上に明るく振舞っている。そんな息子を見て更に落ち込んだ。
これ以上永人に心配をかけない様にいつもの様に振舞い1日を終えた。
そして今日母が帰る。朝から帰り支度をしている母に永人が後追いをし、そんな永人を優しい眼差しを送る母を見て、また情調が不安定になる。そして後少しで空港に向かう時間に夫が帰って来た。
いつも謹慎後は井鷺氏が送迎するのに今日は別の黒服が送ってくれた。恐らくまた2人がトラブらない様に大川氏が配慮したのだろう。
こうして家族が揃い皆で母を空港まで送る。後部座席で永人はずっと母の手を握っている。こんな幸せな日々が後少しで終わるかと思うとまた涙目になる。
「!」
信号が赤になり止まると、夫が私の両頬を持ち口付けた。驚いていると夫は心配そうに
「香里さん今日は悲しい顔をずっとしている。辛い時はその気持ちを僕に分けて」
そう言いまた口付けた。自分では平常心を保っていると思っていたが顔に出ていた様だ。これ以上心配をかけない様に、母との別れが寂しいのだと伝えた。すると感化された永人が泣き出したしまい、母が困った顔をする。
いつもは笑って別れるのに私の情調が永人に伝播し、そして母にまで伝わり涙涙のお別れになってしまった。母は少し赤くなった目で
「次の連休哲郎さんと待っているわ。香里…決断する時よ。しっかり考えなさい」
母はそう言い残して帰って行った。母の言葉で夫の故郷への移転で悩んでいると分かった夫は、いつも以上に私の機微に敏感になってしまい、今度は夫が私の後追いを始めた。
帰宅後は不安定な永人に寄り添い早めに寝かしつけた。そして夫と二人になると夫は何も言わずに私を寝室に運んだ。きっと数日離れていて欲求不満なのだと思っていたら
「今は何も聞かない。香里さんが自分で話してくれるのを待つよ。だから今晩は僕の腕の中で安心して眠って。夢の中でも僕が守るから…」
「…っ」
いつも蜂蜜より甘い言葉をさらっと言う夫。でも今日はとても心に響き思わず声を出して泣いてしまった。そんな私を優しく抱きしめる夫の腕の中で泣きつかれて眠ってしまった。
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