42.直視しないと
井鷺氏からの着信に電話をかけ直し…
話が一段落すると母は疲れた様で、永人と一緒に昼寝をする為に客間に行った。私は着信があった井鷺氏に電話をしそして恒例の…
「いつもご迷惑おかけして申し訳ありません」
井鷺氏に怪我がなかったとはいえ夫が殴り掛かったのだ。申し訳なく真摯に謝るといつもの様に淡々とした口調で気にしない様に言ってくれる…が、流石に今回は小言を沢山いただいた。そして
『夫君はやはり異世界人で我々と(感覚が)異なる。それに夫君は祖国では王太子で何をおいても優先される立場だ。その上クラトスカ王国では成人年齢だとしても、15歳の若さで付き添う大人も無くでこちらに来ているのです』
そう言い未成熟感は否めないと話した。確かには黒服達と私が対応してきたが、今でも?って事は多々ある。頭が痛くなる指摘に唸っていると、少し間をおいて
『言い難いのですが香里さんがクラトスカ王国に行けば、夫君と逆の立場になるのですよ。その辺をちゃんと理解していますか?』
「・・・」
まだ見たくなかった現実に言葉を失う。それは夫の求婚を受けた時から分かっていた。でも母が健在だから先の話だと思っていたし、夫が私の気持が整うまで先延ばしにしてくれた。そんな皆の気持に甘え嫌な事から逃げている子供と同じだった。
今回の母の再婚といい、息子の能力の開花といいみんな先に進もうとしている。それに比べ私は…
そう思うと自己嫌悪に陥り言葉が出ない。そんな私の心情を察した井鷺氏が
『国の利益の為に貴女の人生を犠牲にしてしまっている事は否めない。しかし最後は貴女がそれを選んだ。そして夫君は貴女を想い最大限譲歩している。次は貴女が夫君に応えるべきだ』
目を背けてきた現実を目の前にして逃げたいと思ってしまうこんな私を夫は、私が望めば祖国をも裏切ってしまいそうだ。自分勝手な私だけどそれだけはしてはいけないのは分かっている。だから…
「夫はいつ帰れますか?」
『明日の朝にはご自宅へお送りします』
再度井鷺氏に謝罪をし、夫が帰ってきたら今後の事を話し合うと告げ電話を切った。そしてずっとサボっていたクラトスカ語のテキストを開いた。
そう夫の求婚を受けゆくゆくはクラトスカ王国に移住する為に、少しずつ夫からクラトスカ語を学んでいた。初めは真剣に取り込んでいて簡単な単語や会話は出来るまでになったが、永人が生れてからは育児に必死で学習から遠のいていたのだ。
本棚の奥から引っ張り出してきた夫が作ったテキストを読み返しながらある事を疑問に思う。
夫は色んな方面でチート能力を持ち、初めて聞いた言語も使いこなせる。夫曰くクラトスカ人は皆その能力を持っているそうだ。なら…
『能力が開花しつつある永人も色んな言語が扱えるのだろうか?』
そんな事を考えながら記憶の奥底のクラトスカ語を必死に探していると、起きた永人が客間から出てきた。どうやら母はまだ寝ている様だ。いいタイミングだと思い永人に
⦅よく眠れた?⦆
クラトスカ語で聞いたみた。すると
⦅うん。おばあちゃんはまだ寝てるよ。僕はお茶がほしくて⦆
『!』
永人は戸惑う事なくクラトスカ語で返してきた。丸っと忘れていた私でも辛うじて永人の言葉は理解できた。やっぱり言語の方も能力の開花が始まっているのかもしれない。私は永人がお茶を飲んでいる間に、小さい頃に見ていた外国のクレイアニメのDVDをセットし、吹替なしで再生してみた。すると…
「わぁ!幼稚園の頃によく見ていたね。ほら初めの曲の”面白い事大好き”の所が好きなんだ僕」
そう言いながらTVの前で楽しそうにアニメを見ている。昔見て内容を覚えていて理解できたのかもしれないと思い、スマホでそのアニメの最新話を見せてみた。するとやはり内容を理解しているし、セリフも字幕と照らし合わせると合っていた。
この言語能力についても明日夫と相談しなければならない。夏休み明け学校が始まる前に永人に言って聞かせなければならない。
そう思うとさっきまでやる気だったクラトスカ語の勉強が嫌になって来る。永人は勉強する事無く、クラトスカ語を話せる。片や私はまた必死に学ばなければならない。どんどん憂鬱になりそして大きな溜息と共に夜が更けていった。
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