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能ある夫は爪を隠す  作者: 神月いろは


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39.それぞれの想い

井鷺氏の事情を知り驚くが…

布川氏の話に驚きを隠せない。


『いつも冷静で淡々としている井鷺氏が?私に仕事以外の感情?』

 

言われれば知り合った時から夫は井鷺氏に対して異常に反応していた。でもそれは性格が合わないのだと思っていて、今まであまり気にもしていなかった。そして布川さんは良く知らないと前置きした上で


「確か歳の離れた妹さんで、結婚を反対され親と縁を切って家を出て、出産時に亡くなられと聞きました」


井鷺氏のお父さんも公安警察の幹部で、お母さんも経産省に長く勤められている公務員一家らしい。世間的に言えばエリート一家なのだ。そんな家の娘が定職にもついていない夢を持つ男性を選び、子供を授かり結婚したいなんて言ったら親は卒倒もんだろう。

布川さんの話によるとシスコンの井鷺氏は妹の見方をし親を説得したが、親は世間体もあり半ば強引に別れさせた。そして


「毎日泣いて憔悴していく妹を見かねて、井鷺さんは妹の駆け落ちを手伝ったそうです。でも結局ね…そんな事があり自分を攻めていて、自分は生涯独身を貫くと決めたそうです。もったい無いですよね。出世株だしあの容姿ですからね。モテるのに…」


あの沈着冷静な井鷺氏にそんな過去があっただなんて… 驚きで言葉が出なかった。そして布川さんは妹に似ている私が夫に振り回されているのを黙ってられないのだと言い、必要以上に世話を焼いいると話した。


「彼と他の任務も一緒しましたが、警護対象とは距離を置き感情などない対応でしたよ。それが香里さんに対しては父親や兄の様な接し方で、密かに部署の者達は驚いていたんですよ」


そう言い笑った。そして布川さんはその感情が夫を刺激しているのだと話した。私は元々の井鷺氏を知らないのであれが通常だと思っていた。今日は驚く事ばかりで心臓が何個あっても足りない。

私の気持と裏腹にお口の滑りが絶好調の布川さんの話しをBGMに車は進みやっと家に着いた。

到着少し前に目が覚めた永人は布川さんと別れ際にハイタッチをし、同じ年の子を持つ布川さんの頬が緩んだ。


こうして怒涛の1日が終わろうとしている。家に入りソファーに寝転がると睡魔が襲ってきた。夕飯の準備もしないと…でも体を起こす力も無く意識を手放してしまった。


「ママ!起きて」


永人の呼びかけで目覚めると眉尻を下げた永人が、お腹が空いたと言いながらアイスを食べている。窓の外を見てみたらもう真っ暗だ。時計を見ると20時半。慌てて起き上がり食事の準備を始める。

短時間で出来るパスタを作り食べ始める余裕が出て来てスマホに目をやると…


『こわっ!』


夫からの着信が数十件入っていて恐怖を覚える。それにメッセージも… 怖い出来ればこのまま放置プレーしたい。けど放置したら黒服達を蹴散らし帰ってきそうだ。大きな溜息を吐き食べ終わってリビングに行った永人を確認し電話すると、コール無しで出た。


「ごめん…帰ってから寝てた」

『良かった… 今日は大変だったから何かあったんじゃないかと思ったよ。21時なっても出なかったら無理やり帰ろと思った。でも香里さんの声を聞いて安心したよ』


そう言いいつもの優しい口調で愛を囁く夫。いつもどうりで安心すると、大川氏から母の再婚話を聞いたと言い。取りあえず病気で無くてよかったと話した。そして声のトーンを下げた夫は


『≪あそこ≫が何を言ったか知らないが、香里さんは自分のしたい様にすればいい。クラトスカにまだ行きたくないなら、僕が何とかするから』


相変わらず私ファーストの夫。初めは嬉しかったけど今は…

お読みいただき、ありがとうございます。

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