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能ある夫は爪を隠す  作者: 神月いろは


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39/53

38.大乱闘

突然現れた夫が!

「お前…」


扉が開く音がしたと思ったら扉に夫が立っていた。滲む視界に鬼の形相の夫を見て


『整った顔は怒っていても綺麗なんだ…』


呑気にそんな事を思っていたら、一瞬で私の前に来て強く抱きしめた。そして額や頬に沢山口付けを落とし、視線を井鷺氏に向けた。猛烈に嫌な予感に自分から夫に口付け


「これは違うの。自己嫌悪で泣いちゃって」


そう言ったが私が好きすぎる夫の矛先は井鷺氏に向かった。手を伸ばしたが素早い夫に届く訳も無く、気が付くと井鷺氏の胸ぐらをつかみ声を荒げていた。完全に井鷺氏がとばっちりを受けている。

慌てて夫の元に行き腕にぶら下がり止めようとしたが、非力な私の力で超人の夫が止めれる訳も無く、夫は井鷺氏に殴りかかる。


「殴っちゃダメ!」


そう叫ぶと夫の拳は井鷺氏の頬をかすめ壁に穴を空けた。凄い音に外から公安職員がなだれ込んで来た。そして黒服②~⑥が夫を抑え込み、黒服⑦が井鷺氏を救出し会議室は騒然となる。

頬に擦り傷を負った井鷺氏は冷静で大丈夫だと伝え、取り押さえられている夫に


「勘違いなさらないでください。貴方は奥様の事になると冷静で無くなる。その行動で奥様が心痛めている事を知りなさい」


そう言い夫を諫めた。そう言われた夫は視線を私に向ける。恐怖と井鷺氏への罪悪感で更に視界が滲む。


「何事だ」


そう言い遅れて大川氏がやって来て会議室を見渡し、井鷺氏に状況の説明を求めた。やっと解放された夫が私を抱き込む。私は必死で井鷺氏に非は無いと言い続けたが夫は無言。困っていると大川氏が来て


「今日はこの位にしておきましょう」


そう言い今日は家に帰る事になった。しかし不安定な夫をこのままには出来ないと判断した公安警察は、夫だけホテルに滞在を求めた。嫌がると思った夫は意外にも素直に受け入れ、このままホテルへ向かう。私と永人は黒服②がウチの車を運転し自宅へ向かった。

黒服②に案内され永人と母が待機する部屋に向かうと、永人は黒服⑧~⑩とゲームをしておりご機嫌だった。楽しそうな息子を見て昂った気持ちが落ち着くのを感じながら、帰る事を伝えると永人は夫を探す。永人に父はお仕事の打合せが急に入ったと伝え別行動だと説明すると、すんなり状況を受け入れホッとする。

母は明日帰る笹川先生と娘の眞理子さんとまだ話があるらしく、二人が滞在するホテルに泊まることになった。

そして帰り道。遊び疲れて永人は後部座席で眠っており、黒服②にお礼を述べると


「私たちは黒川家が平穏に暮らせる様にサポートするのが仕事です。だから気にしないで下さい」


そう言った後に少し考えた黒服②は、娘さんが永人と同じ年らしく私の気持ちが分かると言い、永人が健やかに育つ事を願ってくれた。

黒服②は布川さんと言い飄々とした黒服チームのムードメーカーだ。口調も砕けていて話しやすい。


「ここだけの話にして欲しいですが…」

「なになに?怖い話はやめてね」


そう言いと少し考えた布川氏は意を決した様に話し出す。


「恐らく正親さんは井鷺さんにやきもちを焼いていて、香里さんが接触するのを嫌っているんです」

「でもそれは井鷺氏に限った事ではないよね」


そう言うと首を振り、井鷺氏と他の黒服達と向ける視線が違うと言う。でも井鷺氏は監督者であってそれ以外でも以下でもないと思う。


「いや…香里さんは井鷺さんの亡くなった妹さんに似ていて、井鷺氏も知らず知らずのうちに、仕事以上の感情を向けている」


私に関する事に敏感な夫は知り合った頃からそれを感じ、井鷺氏だけに異常反応するのだと布川さんは言った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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